チップアンテナの動向

資料提供:三菱マテリアル(株)/太陽誘電(株)



  
 距離無線通信技術が幅広い分野で利用されるようになってきた。無線LANやブルートゥースなどがその代表的な通信技術だが、最近では300―500MHz帯域を使った音声通信での利用が中心だった微弱無線局や特定省電力無線局なども再び注目されている。さらに広帯域無線通信として新たにUWB(ウルトラ・ワイド・バンド)も次世代近距離無線通信技術として脚光を浴びている。こうした無線通信の技術進歩にともない、キーデバイスであるアンテナ技術の進展も目を見張るものがある。
その代表的な製品が機器組み込みを可能にしたセラミックチップアンテナである。
 三菱マテリアルは電子機器に内蔵可能なアンテナとして300―500MHzの帯域をカバーするMシリーズと、1.5―2.4GHz帯をカバーするAHDの2つのシリーズを供給している。Mシリーズは内部電極を形成した積層構造であり、小型に設計できる点が最大の特徴。
一方のAHDシリーズは素体の表面に電極を形成したシンプルな構造。そのために機械的強度、耐環境性に優れ高い信頼性を有する。しかも外部マッチング素子を必要としないマッチングフリーであることも特徴である。


  【Mシリーズ】
 Mヘルツ帯の無線規格の特徴はライセンスが不要であること、消費電力が小さいこと。国内では微弱無線、特定省電力無線が相当する。具体的にはキーレスエントリー、エンジンスターター、TPMS、カーセキュリティなど、特に自動車分野で多く用いられている。
また、900MHz帯のRF―ID、430MHz帯のセンサーネットワークなどでの利用が期待されている。
300―400MHz帯の無線機器に用いられるアンテナは4分の1波長の長さが170―250ミリメートルにもなるため、小型化や機器への内蔵化が困難。そのため、アンテナとしては外付けのホイップアンテナ、ヘリカルアンテナが一般的である。また、内蔵化されたものでもプリント配線板上に形成したループアンテナは低利得でアンテナの占有面積も大きくなるという問題がある。
 このような背景から高利得な内蔵アンテナの市場ニーズは高く、三菱マテリアルでは2003年に300MHz帯域対応の表面実装型セラミックアンテナMZA1603を量産化した。
このアンテナは、積層構造を持つセラミックアンテナで、外形寸法が16×3×1.5ミリメートル。チップ寸法だけを考えると4分の1波長の約10分の1にまで短縮化されている。
現在ではこの手法を高周波帯域に適用し、750―950MHz用にMXA0803、1.5―2.5GHz用にMVA0302を販売している(写真1)。両アンテナは400MHz帯向けに開発したMZA1603の手法をそのまま高周波帯域に適用したものであり、外形寸法はMXA0803が8×3×1.3ミリメートル、MVA0302が3.2×1.6×1ミリメートル。
MZA1603は300―500MHz帯対応のアンテナだが、チップアンテナの外部のチップインダクターとチップコンデンサーを最適に選択することにより、この帯域内の任意の周波数において使用することができる。
 MXA0803は、750―950MHzに対応したアンテナであるため、携帯電話のサブアンテナ、欧州(868MHz)および北米(915MHz)のライセンス・フリー・トランシーバーに適する。
MVA0302はチップアンテナとしては世界最小クラスの超小型サイズであり、ブルートゥースや無線LANなどで使用する2.4GHz帯で250MHz以上の帯域幅をカバーでき、放射パターンは等方性で最大利得―2.5dBiと高い性能を有している。
さらに入出力端子や固定用の外部電極を基板搭載面に形成しており、基板上での実装占有面積を最小限に抑えることができる。
そのため、携帯電話やPDAなどの部品実装密度が高い小型モバイル機器への搭載に最適である。図1に一般的チップ部品の基板搭載方法、図2にMVA0302の基板搭載方法を示す。
また、共振周波数を調整することで、GPS用途(1.5GHz帯)やPHS用途(1.9GHz帯)でも使用することが可能。
Mシリーズアンテナは、これまで主に430MHz帯の特定省電力無線に採用されてきたが、Mシリーズの特徴を最大限に引き出すべく、独自に開発した無線機器に採用している。

  写真1
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  図1
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  図2
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表面実装型セラミックアンテナ「MVA0302」
一般的チップ部品の基板搭載方法
MVA0302の基板搭載方法


  【AHDシリーズ】
 ブルートゥースや無線LANなどで使用される2.4GHz用チップアンテナとして1999年に発表して以来、様々な用途に採用されてきた。2000年6月には他社に先がけてチップアンテナでは世界初のブルートゥース製品用の推奨部品にエリクソン社から認定された。現在では1.5―5GHz帯をカバーする製品をラインアップしている。 13.5×3×0.8ミリメートルサイズの主力商品であるAHD1403シリーズと、より小型化したAHD1103(10.5×10.5×10.5ミリメートルサイズ)の2サイズを標準的に取り揃えて、小型機器の基板端に無駄のない実装を可能としている(写真2)。 三菱マテリアルでは引き続き、無線周波数利用の広がりに対応したチップアンテナの品揃えに注力していく考え。  無線LAN、ブルートゥースをはじめとする近距離無線通信は今後、普及に弾みがつくものと見られるが、新たな通信技術としてUWBも注目されている。UWBは広帯域通信技術であり、速度が速いという特徴がある。 太陽誘電では、ユビキタス社会のキーデバイスである小型アンテナを商品化するにあたり、MLCCで培った材料およびプロセス技術に加え、高周波回路の設計技術を駆使することで、数百Mヘルツ―数十Gヘルツ帯域までの幅広い小型アンテナをラインアップしている。さらに、実際の使用に際しては、高度な評価技術を駆使し、基板上での取り扱いアプリケーションを提案し、より早く、より確実にセットを市場投入できるようなサポートを行っている。 現在、世界で最も注目を集めるUWB技術においては、世界で初めてセラミックによる超小型アンテナを開発し、今後急拡大が予想されるブルートゥース用途には、世界最小のセラミックアンテナを提案している。

写真2
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2.4GHzチップアンテナ「AHDシリーズ」


  【小型アンテナの基本設計】
 現在、世の中に存在する基本的な移動体通信用のアンテナとしては、モノポールアンテナ(図3)、逆Fアンテナ(図4)、ダイポールアンテナ(図5)が主なタイプである。しかし、これらのアンテナをUWB機器へ搭載する場合、様々な問題が考えられる。
モノポールアンテナは、グランド(GND)の形状に性能が大きく左右されることと、入出力インピーダンスの最適化のためにアンテナエレメントを立てる必要があることから小型化に向かない。逆Fアンテナは一般的に周波数帯域幅が狭いので、UWBの使用帯域とされている3.1―10.6GHzという広帯域には対応ができない。そしてダイポールアンテナはトータル長がλ/2となるため、形状が大きくなってしまう。
そこで「UWBのような超広帯域アンテナを開発するにはどうすればよいのか?」という疑問につきあたる。

  図3
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  図4
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  図5
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モノポールアンテナ
逆Fアンテナ
ダイポールアンテナ


  【高周波・広帯域アンテナ設計の考え方と現状の課題】
 一般的にアンテナを設計する場合、アンテナの種類によって特定の定数値が存在し、その値は下記の式で表される。
アンテナ定数値=アンテナ電気的体積/(帯域幅×利得×効率)
移動体通信用アンテナは、アンテナエレメントだけでアンテナとして機能するタイプではなく、“アンテナエレメント+GND”の組み合わせで、初めてアンテナとして機能するものが主流である。ここでいう“アンテナ電気的体積”というのは“アンテナエレメント+GND”において、アンテナが動作する上で必要となる電気的な体積を示す。
この式が示すことは、利得や効率を変えずにUWBのように帯域幅を広げるには、アンテナ電気的体積を大きくしなければならないということであり、当然のことながらアンテナ機能の主体をなしているアンテナエレメントを大きくしなくてはならないことを意味する。
そのため、現在存在している超広帯域アンテナには、図6に示す自己補対アンテナの原理をベースとした、対数周期アンテナ、対数周期ダイポールアレーアンテナ、ディスコーンアンテナ、ダブルリッジホーンアンテナなど各種あるが、どれも非常に形状が大きいという欠点を有している。

図6
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自己補対アンテナの原理


  【小型UWBアンテナの実現】
 この小型化に関する技術課題に対して太陽誘電では、インピーダンスが周波数や形状に無関係に一定であるという自己補対アンテナの原理をベースとして、同社が保有する高度なセラミック材料技術、積層プロセス技術、さらには独自の高周波設計技術を融合させることでその解決を図った。具体的には低損失セラミック材料と積層構造の採用に加え、素子形状の最適化技術を確立することで3.1―4.8GHzという広帯域、かつ8×6×1mmという小型サイズの“UWBアンテナ”を実現した(写真3)。その特性を図7、8に示した。

  写真3
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  図7
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  図8
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小型UWBアンテナ
VSWR特性
群遅延特性


  【アンテナ評価技術】
 UWBアンテナのVSWR特性、利得特性測定をする際には、最善の対策が必要である。アンテナから電波を放射した状態での測定となるため、影響をおよぼす金属や人体等が周囲に存在しない環境で測定を行う必要がある。こういった高周波・広帯域アンテナの場合は、従来のアンテナ測定施設(写真4)に加え、UWBのような微少電波が人体や周辺環境でどのような影響を受けるかを実際に可視化しながら評価していく必要がある(写真5)。
一方、UWBを使用した無線通信において、より良好な通信性能を確保するためには、フィルター等の高周波部品の場合と同様に、アンテナの群遅延特性が重要なパラメーターとなる。この群遅延特性はVSWR特性測定よりもさらに顕著に周囲の様々な反射波に影響されるため、その測定を行う際には、電波暗室内における測定が必要不可欠である。
UWB技術を民生分野で利用するための技術はまだまだ発展段階にあり、今後の規格化や半導体技術の進展に伴って具体的なアプリケーション上での議論が進むにつれ、当然アンテナに関する技術要求も変化してこよう。
 今回紹介した小型チップタイプのアンテナも、あくまでも開発段階のものであり、今後の様々な議論の進展によって、求められる指向性や利得、そして形態まで変化していくことは間違いない。しかしいずれにせよ、UWBにおいて、あくまでも無指向性に近い特性と、より高い利得を目指すとともに、群遅延特性を意識したさらなる改善を行いながら、できるだけ小型で使いやすいアンテナを開発していかなければならない。
UWBが近距離無線通信の切り札になるかどうかは、まだこれからの議論ではあるが、高周波で広帯域を実現し、かつ小型でモバイルを意識したアンテナの開発は、近い将来の“ユビキタスネットワーク”実現に向けた必要不可欠な技術であり、最も注目すべき最新技術の一つであることは間違いない。

写真4
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  写真5
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6面吸収体電波暗室
stargateシステム

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