フェライトコアPC90と応用製品の効果

高川建弥:TDK(株)磁性製品ビジネスグループソフトフェライトグループ



  ◆はじめに
 フェライトコアは、電源トランスをはじめとして、チョークコイル、CRTの偏向ヨーク、ノイズフィルター用コアなど、多くの用途に使われている。その中でも、マンガン・亜鉛(MnZn)系フェライトコアは、他のフェライトコアに比べ、低損失、高飽和磁束密度という特徴を持つため、トランス、チョークコイルなどに多く使われている。
近年の電子部品の小型化、薄型、軽量化の要求に伴い、電子部品に用いられる材料にもさらなる高特性が要求されている。従来の低損失材は、発熱による温度上昇に対しては余裕があるが、飽和磁束密度(Bs)があまり大きくないことから、大きな励磁条件での使用に対する対応力に劣っていた。
一方、従来の高Bs材は励磁条件に対しては余裕があるが、コア損失(Pcv)が大きいために発熱による温度上昇が懸念され、高Bs特性を有効に利用できなかった。そのため、各材質の特色を生かしきれないという課題が残っていた。
TDKでは今回表1に示すように、従来の高Bs材PC33以上の高Bs特性と、従来の低Pcv材PC44と同等の低Pcv特性とを併せ持つ新材PC90を開発、製品化した。そのため、大きな励磁条件下でも発熱を懸念することなく使用でき、電子部品の小型化へ貢献できる。
本稿ではこのPC90の材料紹介を行う。また、PC90をトランス、チョークコイルに用いた場合の効果に関しても合わせて紹介する。

表1
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PC90材の材質特性

  ◆MnZn系フェライトの特性制御
 一般に、ある温度TでのフェライトのBsは以下の式で表すことができる。
Bs(T)=Bs(0)×(ρ/ρt)×(1−T/Tc)a
Bs(0):0(K)における飽和磁束密度
ρ、ρt:密度、理論密度
Tc:Curie温度(Curie温度以上では強磁性が失われる)
a:定数
高Bs化のためのパラメーターはBs(0)、Tc、ρである。フェライトのBs(0)は、MnZnフェライトであれば、マンガンフェライト(Mn)、亜鉛フェライト(Zn)鉄フェライト(Fe)の組成比率によって支配される。そのため、高Bs化に対しては、Bs(0)の大きいFe等の組成比率を増加させることが有効である。
 しかし、われわれは実際の製品駆動温度帯域での高Bsを必要とする。そのためBs(0)が高くてもCurie温度が低くてはあまり効果が得られない。
TDKではこのような問題を解決するために、Fe、Mn、Znに加え、第4の金属イオン成分を加え組成制御を行った。さらに、従来よりもより高密度なコアを得るため、焼成条件(温度、酸素濃度)を精密に制御し、高Bs化を実現した。
一方、低Pcv化に対しては、高Bs化への対策の一部が弊害となる。例えば、一般にFe量が増えると磁気ひずみ(磁歪)が大きくなり、損失の一成分であるヒステリシス損失を増加させる傾向にある。また、体積抵抗率も低下する傾向にあり、同じく損失の一成分である渦電流損失を増加させる。数100kHzでの駆動条件下では、一般的に各損失はPcv=Phv(ヒステリシス損失)+Pev(渦電流損失)で表すことができる。それぞれ、Phvは駆動周波数の1乗、Pevは駆動周波数の2乗に比例し増大する成分である。TDKでは、この問題を解決するために微量な元素の添加を行い、焼成時の温度条件、酸素濃度条件を厳密に制御した。その結果、より緻密な微細構造が得られ、ヒステリシス損失を改善することができた。また、体積抵抗率の低下を抑制することにより渦電流損失の劣化を抑制することができた。
図1に示すB−Hループをみても、その効果が読み取れる。PhvはB−Hループの面積に比例するものである。PC90材は従来の高Bs材PC33に比べ、損失の1つの目安となるBr、Hcが小さく、B−Hループの面積が小さくなっていることがわかる。

図1
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PC90とPC33とのB-Hループ比較@


  ◆PC90を用いた場合の製品への効果
 フェライトコアを用いたチョークコイルでは、直流電流(Idc)が0の場合のL値に対し、高い直流電流が印加された場合、どの程度まで安定してL値が得られるかというのが重要な特性である。一般的にこの直流重畳特性の向上に対しては、材料特性として高いBsを得ることが重要であると知られている。図2に同形状で比較した従来の高Bs材PC33とPC90の直流重畳特性を示す。BsはPC33で440mT、PC90で450mTであり約2%の差である。しかし、直流重畳特性では約8%の向上が確認される(ここではIdc=0でのL値に対し80%のL値になったIdcの値で比較)。よって、同条件で駆動させた場合、Bsの差以上の小型化が可能である。この原因は図3に示したB−Hループで説明される。PC90材では低Pcv化の効果として、従来の高Bs材PC33に比べBが急峻に飽和に近づいていく。高Bs化に加え、低Pcvを図ったことによるB−Hループの改善が、Bs差以上の直流重畳特性の向上を実現させている。
 トランスに対しても小型化、薄型、軽量化が望まれている。PC90は従来の低Pcv材PC44に比べ、Bsが約15%高い。そのため、PC90を用いたトランスでは、同じ磁束密度で駆動させる場合、PC44に比べ小さな断面積で設計できる。その効果として、トランスコア重量で見た場合、PC90はPC44に比べ約20%の軽量化が可能である。また、トランス設計の際、鉄損(コア損失)と銅損(コイル損失)の損失比率を理想的な1:1に近づけ、かつPC90の高Bs特性を最大限に生かすことにより、より小型化が可能である。
従来材PC40(Bs=390mT、Pcv=410kW/仏方メ─トル)と比べた場合、表2、写真に示すように発熱の懸念なく体積・重量比率で約36%の小型化が可能である。このように、従来材PC33材以上の高Bs特性と、従来材PCC44と同等の低Pcv特性とを併せ持つPC90材を用いることにより、電子部品やコアの小型化、薄型、軽量化が可能となる。
TDKでは、今後もさまざまな使用条件下での高Bs、低Pcv特性材料を開発、製品化することにより、多種多様な電子部品のトレンドに対応していく。

図2
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  図3
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PC90とPC34との直流重畳特性比較
PC90とPC33とのB-Hループ比較A
表2
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  写真
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PC90を用いることによる小型軽量効果(PC40対比)
PC90コアを用いたトランスの小型化(PC40対比)

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