携帯電話用半導体技術

矢野茂秀:ローム(株)COMMUNICASTION LSI商品開発部



  <はじめに>
 携帯電話のサウンド機能は高機能化が進み、着信メロディー音源についても3和音→16和音→32和音→64和音と音質と機能のアップが続いている。また、サウンドエフェクト機能についてもパラメトリックイコライザー、リバーブ、コーラスなどが次々に追加されている。ロームはこのような市場の動向を先取りした音源LSIの提供を続け、今回業界標準となる3D Positioning技術に対応した音源LSI「BU7844GU」を開発した(写真、図1)。

写真
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  図1
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3DPositioning対応音源LSI「BU7844GU」
携帯電話用音源LSIのロードマップ

  <3D Positio―ning登場の背景>
 最新の携帯電話機器では、よりリアルな音を実現するためにステレオスピーカーの搭載が始まっている。しかし、単純に携帯電話のような狭い筐体の中にスピーカーを2個積んでもステレオ感が得られなかった。そこで登場したのがステレオ拡張技術(擬似サラウンド)である。方法は各社各様だが、基本的には右スピーカーから左スピーカーの音を打ち消すような位相の出力をし、左スピーカーからは右スピーカーの音を打ち消すような位相の出力を行って耳への到達音をコントロールする。これにより、オリジナルのステレオサウンドを再生すると、実際のスピーカーの位置よりも広がって聞こえステレオ感が増す。着信メロディー音などで右から左にボリュームを振るような曲を演奏すると、右耳の横から左耳の横に移動するような感覚で聞くことができる。 しかしながら、左右方向の拡張がほとんどであること、音声のみの拡張が主流なこと、各社の方式が不統一でプリセットコンテンツにのみの対応では、楽しみも半減してしまうことなどがあり、標準的な3DPositioning技術の提供が求められている。



  <3D Positio‐ ningの登場>
 そこでステレオ拡張技術をさらに進化させた3D Posi‐tioning技術導入と、その規格化によるソフト、ハード一体による魅力あるコンテンツ作りが進んでいる。 LSIに組み込まれる3D Positioning技術はHRTF(頭部伝達関数)を利用し、音の聞こえてくる方向を上下左右好きな位置に配置できる機能を持っている。例えば右のほうから聞こえてくる音はまず右の耳に音が入り少し遅れて左耳に音が入る(図2)。これをステレオ拡張で実現した左右のスピーカーからの耳への音の到達を分離し、発音タイミングをコントロールすることにより、発音場所をスピーカーの位置と違った位置で定位させることが可能となる(図3、4)。このようにして定位した音を移動していくと、あたかも自分の後ろから前に音が移動していくような感覚を得ることもできる。この3D Positioning技術を、例えばカーレースゲームの激しい車の映像の動きに合わせて音の定位を同期させ3Dで激しく動かすことにより、非常に臨場感のあるコンテンツを作ることができ、インパクトのあるソフトを開発することができる。

  図2
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  図3
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  図4
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発音ポイントからの音の到達時間差
左右の音の分離
発音タイミングコントロール


  <携帯電話は3Dコンテンツに 最適>
 さらに、携帯電話は3D Positioning技術に適した特徴を持っている。3DPositioningを行うにはスピーカーの距離、スピーカーの特性、筐体の開口部の形状などがパラメーターとなり、それぞれの特性により計算された係数を生成する必要がある。家庭用ゲーム機などはテレビのスピーカーを使用するため家庭ごとにスピーカーの形状が異なり、ゲームデータの中に決まった係数を埋め込むことが困難である。その結果、専用のスピーカーをゲームにつけて販売する結果となり、ユーザーの費用負担が多く普及が進んでいない。しかし、携帯電話は機種ごとにスピーカーの距離などのパラメーターがすべて一緒になるため、携帯電話内にパラメーターを持たせることにより係数を固定できる。これに3D情報を含んだコンテンツを配信し、どの携帯電話機種でも3Dコンテンツを楽しむことができる(図5)。 次世代携帯電話はこの3Dコンテンツのフォーマットの規格化を行い、3Dコンテンツを生成するためのオーサリングツールをコンテンツプロバイダーに配り普及を促進しており、ハードウエアとソフトウエアとの協調した開発体制構築されている。

図5
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3-D Positioning技術で再現できるこれからの携帯電話の機能


  <3D Positioningに完全対応 した音源LSI「BU7844GU」>
 ロームはこれらの次世代携帯電話のフォーマットに完全対応した音源LSI「BU7844GU」を開発、サンプル出荷を開始した(図6)。このLSIは先の3D Positioningだけでなくリバーブ、コーラス、ステレオ拡張を内蔵しており、さまざまなコンテンツをさまざまな効果で再生することが可能となる。さらに、このLSI専用のドライバーとファンクションAPI群、プレヤーソフトウエアもLSIサンプルに合わせて提供を行っている。 また、市場で定評を得ている64和音着信メロディー音源、ADPCM、DACなどの機能および、3色LEDやバイブレーターなどのドライブ機能もワンチップ化しており、映像や音声と同期させて活用することで、より迫力のあるコンテンツ作りが可能になる。「BU7844GU」の主な機能を表に紹介する。

図6
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外形寸法図「VCSP85H5」パッケージ


  <今後の展開>
 携帯電話のエンターテインメント、マルチメディア化が進むなか、携帯電話が奏でる音に対するクオリティ要求は非常に厳しくなり、よりリアルなサウンド、ポータブルオーディオに匹敵するクオリティが必須になっている。また、国内だけでなく海外においてもエンターテインメント、マルチメディア化の波は確実に起きており、3D Positioningに対する海外仕様も固まりつつある。ロームはこれからも世界市場の要求に合致した新商品開発を継続していく方針である。


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