携帯電話用カメラモジュールの技術

中嶋尚:アルプス電気(株)通信デバイス事業部オプト技術部



  ◆昨今の市場動向
 2000年10月に世界で初めて発売されたカメラ付き携帯電話は、国内ではすでに一般化しており、2003年には出荷の90%以上がカメラ付きとなった。2004年には約4600万台の出荷が予想される携帯電話の91%がカメラ付きとなる見込みである。
また、画素数も最初は11万画素とおもちゃデジカメ程度であったものが、2003年には2メガピクセル(200万画素)、2004年には3.2メガピクセル(320万画素)と高画素化が進んでいる。2004年に出荷される1メガピクセル以上の比率は85%となり、年末には6社から3メガ以上のカメラが搭載される予定である(矢野経済研究所)。機能についても、オートフォーカスや光学ズーム機能が付き、前述の高画素化と合わせて、カメラ付き携帯電話の性能がデジカメに迫る勢いである。
 ワールドワイドでの携帯電話へのカメラの搭載率は、日本では64%と他国を大きく引き離しており、2位がドイツの34%、韓国が32%となっているが(米A.T.カーニー社)、2004年の韓国の出荷は90%程度になることが予想されることから、韓国での携帯電話へのカメラの搭載率は急激に高くなってきている。
しかし、世界平均でのカメラの搭載率はまだ21%と低く、携帯電話用カメラの需要は十分に拡大の余地を残している。出荷数で見れば、2004年には、世界で出荷される携帯電話の約4分の1にあたる1億5000万台が、カメラ付き携帯電話になるとの予測(米 インフォトレンズ・リサーチ・グループ)がある。
携帯電話のカメラは、ただ写真を撮るだけでなく、QRコードによる情報入力デバイスとしても期待されており、さらなる活用の用途が広がっている。
注:QRコード:2次元バーコードで、Quick Responseの頭文字を取り命名された。


  ◆製品の開発背景
 アルプス電気では、1990年から光通信用に鏡筒一体ガラス非球面レンズの生産を開始しており、光通信用のガラス非球面レンズでは80%の世界シェアを持っている。
また、ナノ精度の金型加工技術による光学素子として、DVDプレヤーのピックアップ用回折格子も生産しており、光学部品については、ガラスおよびプラスチックの両方の設計・金型加工・製造の独自の技術を蓄積していた。
 一方、オートフォーカス・ズームのアクチュエーターについては、コンポーネント製品で培った精密機構部品の設計・生産技術を生かし、ステッピングモーターを応用した新しいアクチュエーターの設計を進めていた。
この、光学技術とアクチュエーターを中心に、携帯電話用のカメラモジュールの製品化を行ってきた。
これは、当社の新たな開発思想であるALPS System in Packageの考えに基づくものであり、前述の光学技術とアクチュエーターを核に、高密度実装技術・ウルトラクリーン技術などに支えられた、より高精度・高品質な製品を目指すものであった。



  ◆製品の機能、特徴など製品の解説と技術上のポイント(優位点)
 当社ではいち早くCMOSセンサーに着目し、これを使用した30万画素のカメラモジュール「FPDBシリーズ」(写真1)の製品化を進めてきた。これは、現在国内で多く使われているCCDセンサーから、今後主流になりつつあるCMOSセンサーの可能性を予測したものであり、感度などの性能がCCDセンサーと同等で、しかも低価格な製品を実現する最良の手段と考えてきた。
固定焦点の30万画素のカメラモジュールに続き、1.3メガピクセルについては、固定焦点タイプ「FPDF0Xシリーズ」(写真2)とオートフォーカス機能付き「FPDF8Xシリーズ」(写真3)の2種類のカメラモジュールの開発を完了している。
 固定焦点タイプのカメラモジュールについては、手動で近接撮影と通常撮影を切り替える機能である、マクロ機能をオプションとして準備している。
30万画素のカメラモジュールには、2枚のプラスチックレンズを使用している。このレンズはF2.8と明るく、また、40cmから∞まで高い解像度をもつ深い被写界深度を実現している。
また、1.3メガピクセルのカメラモジュールには、1枚のガラスレンズと2枚のプラスチックレンズを使用している。とくにガラスレンズは、当社固有の光学設計と非球面ガラスレンズ技術により、F2.8を実現した高精細レンズとなっている。2枚のプラスチックレンズも、ガラスレンズとの組み合わせで、1.3メガピクセルのCMOSセンサーの実力を最大限に引き出す光学設計、および組立設計を行い、高画質化を実現している。
 オートフォーカス機能付きカメラモジュールについては当社独自の切削加工技術、金型加工技術を用いて開発した、ステッピングモーターによりレンズ移動ピッチ11.25μm、総送り量394μmを達成し、無限遠からマクロ撮影までの高精度なオートフォーカス機能を実現している。
また、ステッピングモータをカメラの外周に組み込むことにより外形を円筒状にし、携帯電話用部品に要求される小型化と組み込みやすさを実現した。
寸法については「FPDF0Xシリーズ」で外形サイズ10.0×10.0×8.5(mm)の0.85ml、「FPDF8Xシリーズ」で14.9×14.9×9.0(mm)の1.99mlを実現している。

  写真1
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  写真2
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  写真3
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30万画素カメラモジュール「FPDBシリーズ」
1.3メガピクセル固定焦点タイプ「FPDF0Xシリーズ」
オートフォーカス機能付き「FPDF8Xシリーズ」


  ◆今後の市場動向とそれに向けた課題
 すでに、CCDを使用した携帯電話用カメラは3メガピクセルを超えており、CMOSセンサーを使用した高画素カメラが期待されている。市場の高画素化の要求に応えるべく、2メガピクセルカメラモジュールの開発を年内に完了し、3.2メガピクセルについても引き続き開発を進める計画である。
低価格で高性能なカメラモジュールを供給するため、CMOSセンサーを使用し、独自の光学設計とレンズの加工技術による高精度な光学系との組み合わせが課題であるが、必要とされる組み立て精度は1μ以下になってくる。
高画素化とともにさらなる小型化も要求されている。ベースとなる固定焦点タイプでの小型化は、短い光学設計により実現されるが、それを実現するためにはレンズの形状が鍵となる。ここでは従来以上の高度なレンズの金型加工技術・測定技術が必要となってくる。
 また、オートフォーカスタイプについては、前述の光学系の小型化に依存はするものの、外形を固定焦点タイプに近づけることが必要である。
これは、光学設計と機構設計を同時に進めることにより達成できるものであり、アクチュエーターとレンズが占有する体積を分かち合うところまで踏み込んだ設計によってのみ成し遂げられるものである。
さらには、3倍光学ズームやシャッターの搭載などの開発も進んでおり、より一層の高画質化、多機能化の検討を進めている。


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