超低歪積層セラミックコンデンサー(CFCAP)

木下不器男:太陽誘電(株)コンデンサ事業部コンデンサ技術1部



  ◆はじめに
 情報化社会といわれて久しい昨今、現在では世界中で老若男女が情報交換できるレベルにまで達しつつある。この動きの中で情報を取り扱う機器は、より高速作動、小型軽量、複合機能、を具備した高品位タイプや、基本性能に特化した汎用タイプ、とそれぞれの製品特色を生かし、市場での生き残りに凌ぎを削っている。
われわれ部品業界にもその要求は必然的に生じ、機器の小型軽量化に貢献すべく小型大容量の積層セラミックコンデンサーを開発し市場に投入している。具体的には、小型化では0402形状の開発に着手、大容量化では4532形状220μFを開発中といった具合である。
 その一方で、音声信号などを代表とするアナログ信号を取り扱う回路では、より特性面で安定したコンデンサーが求められ、それら要求に対して、太陽誘電では超低歪積層セラミックコンデンサー(以下CFCAPG:当社登録商標)を回路ソリューションとして提案してきた。今回このCFCAPは新たに1005形状で102〜472(1000〜4700pF)までをラインアップ化し、安定した特性という機器のニーズにより的確に対応できるようになった。とくにモジュール化が進む今日、1608形状ではパッケージに収まらないという課題があったが、1005形状を実現したことでモジュールへの採用も加速するものと期待している。
今回は、このCFCAPに関して、製品特性とその用途を中心に紹介する。

表1"
クリックしてください。
CFCAPのラインアップ一覧


  ◆CFCAPの特徴
 まずCFCAPとは、セラミックコンデンサーでありながら、フィルムコンデンサーの特性の優れた部分を実現しようとして開発された製品である。優れた特性実現のため、誘電体材料から開発した。一般にデカップリングや電源ノイズ対策用途では小型大容量品が必要とされ、通常は強誘電体材料(チタン酸バリウム)を使用した温度特性B特性のコンデンサーが用いられる。強誘電体は比誘電率が高いため、小型で大容量品を作りやすいというメリットを有するためである。しかし、フィルターやカップリング用途のように特性の安定性が重視される回路では、チタンの自発分極によるヒステリシスを生じるB特性品は、回路上のレスポンスが悪かったり、DCバイアスによる容量減少を招き、回路動作に支障をきたす懸念があった。
 この点CFCAPは、新規に開発した常誘電体材料を使用することで、B特性で不得意とするこれらの問題をクリアした。つまり、図1に示すようにジルコニアベースの材料とすることでヒステリシスがなくなり、回路上のレスポンスが良好で特性的にも安定化した。ただし、比誘電率が小さくなるため(対B特性で数10分の1程度)、高容量化が必然的に難しくなる。そこで、当社B特性品の大容量化で培った薄膜技術と積層技術さらには焼結技術を駆使し、1005形状〜3216形状までで102〜104(1000〜10万pF)の小型高容量のラインアップを実現した(表1参照)。
なお、構造に関しては、図2に示すように従来の積層セラミックコンデンサーと同様の形状。端子のメッキに関してはPbフリーとし、また使用部材も有害物資を含まないよう設計段階から配慮しており、環境にやさしい製品といえる。また、焼結体であるため、鉛フリーハンダ使用による実装温度上昇にも十分耐え、フィルムコンデンサーのような変形やチップ立ちがなく、実装性は良好である。

図1
クリックしてください。
  図2
クリックしてください。
CFCAPの材料
CFCAPの構造


  ◆CFCAPの製品特性と使用用途
 つぎに、CFCAPの製品特性を記載し、その活用事例をあげる。
1)波形歪(第3高調波歪を測定):CFCAPの基本特性である歪特性は、比誘電率が小さいこと、さらにフィルムコンデンサーより比較的一層の厚みが厚く電界強度が下がることで、フィルムコンデンサーと同等の良好な特性を示す。この歪みが小さいことで、次段への波形が忠実に再現される、また余分なノイズ信号も含まないことから、音声映像の信号ラインに最適である。
2)誘電吸収(JISに準拠 結果は図3参照):理想的なコンデンサーであれば、放電後の電荷は0である。しかし、分極の遅いものがある場合、両端にじわじわ電荷が移動することで電圧が生じる。ヒステリシスをもつ強誘電体のB特性では電圧が大きく生じてしまうが、常誘電体を使用するCFCAPではほとんど生じない。
したがって、いったんセットした状態を保ちやすく、PLL回路やサンプルホールド回路を有する機器に最適といえる。
3)誘電損失(TanD):品質係数の逆数であるTanDは、常誘電体と内部電極にNiを使用することで小さな値を実現しており、より理想的なコンデンサーといえる。このため回路上でリップルによる発熱が、フィルムコンデンサー同等以下となる。
なお、誘電損失に時間のファクターを取り入れたものが誘電吸収とみなすこともできるため、誘電吸収を比較評価する上で簡便な手法と位置づけることもできる。
4)ショックノイズ(比較評価法:図4参照):外部の振動により、誘電体が圧電現象で電圧を生じ機器に誤動作を生じさせる懸念を評価するもの。実例として、ケータイの場合には着信バイブレーターの振動が原因で、ロックした周波数から外れ通話不良となるケースが考えられる。据置型チューナーの場合では、リモコンなどの落下による振動で画像が乱れるといった現象を引き起こす懸念がある。
これに対してCFCAPでは比誘電率が小さいこと、セラミックスであるため機械的変形をおこしにくいこと、さらには一層厚みが比較的厚く電界強度が下がることで圧電現象を生じにくく、安定動作を求められるPLL回路に最適である。
5)DCバイアス:比誘電率が小さく、一層厚みが比較的厚いことで電界強度が低くなり、DCバイアス特性がフィルムコンデンサー同等レベルとなった。これにより、回路の実使用電圧による容量ドロップを考慮した回路設計をする必要がなく、回路特性では容量が安定しているのでフィルター用途、共振回路、時定数回路として最適である。
6)絶縁抵抗(漏れ電流):化学的に安定な材料を使用し、粒径0.5μm程度の小さな粒子並べ粒子界面を多くとることで、絶縁抵抗が高くなる。このため、蓄えた電荷をホールドする機能に優れるといえ、サンプルホールド回路やオープンループのPLL回路に最適である。
7)容量:公差はK(±10%)公差を基本としJ(±5%)公差まで対応。容量の公差を必要以上に狭めて、回路マージンを設定するよりも、実質のトレランスを見据えた対応をすることで、安定供給ができCS(顧客満足)を向上させている。容量精度が高いため、共振回路や時定数回路に適している。
8)破壊電圧:定格の3倍以上の電圧でも破壊しないため、電圧によるディレーティングを必要とせず、比較的広い幅で電圧変動させるチューナー用途に最適である。
以上の特性を有することで、特性変動に対してシビアな回路(PLL回路、カップリング回路、サンプルホールド回路、共振回路、時定数回路)に最適で、フィルムコンデンサーからの置換も順調に進んでいる。ただし、上記のパラメータは一元的に回路の特性を決定するものではなく、それぞれの製品特性によって総合的に決定づけられることをご承知いただきたい。

図3
クリックしてください。
  図4
クリックしてください。
誘電吸収
ショックノイズ


  ◆おわりに
 以上のように常誘電体材料と薄膜高積層技術を組み合わせることで、小型高容量を実現したCFCAPは、今回1005形状のラインアップを追加した。これにより、モジュールを中心にフィルムコンデンサーからの置換がより加速される。なお、さらなる小型高容量化を目指し、1μFといった電解コンデンサの一部の領域も視野に入れ開発を継続中である。


最新トレンド情報一覧トップページ