電子機器保護用部品の技術動向

アルプス電気、内橋エステック、岡谷電機産業、KOA、タイコエレクトロニクスレイケム
TDK、松下電子部品、三菱電機、村田製作所(50音順)



  ◆バリスター
 サージアブソーバーは雷や静電気放電(ESD)、電源のスイッチオンなどによって発生するサージ(異常電圧)から電子機器や設備を保護するために用いられる。このサージアブソーバーには半導体型と放電型があり、半導体型の代表がバリスターやツェナーダイオードである。
サージ・アブソーバーは通常時は高抵抗状態であるが、ある一定の電圧が加わると抵抗が急激に下がり、電圧を一定に保ったりパイパスの役割を果たす。この動作によって電子機器内のLSIや電子部品の損傷を防止する。

松下電子部品
クリックしてください。
多連積層チップバリスター


  ◆バリスターによる静電気対策
 近年、携帯電話、PDA、デジタルカメラ、携帯AV機器、ノートPCなどのモバイル機器の静電気対策用として浮上してきたのがバリスターである。
このバリスターは印加電圧がある一定値に達すると、それまで流れなかった電流が急に流れ出すという性質があり、瞬間的に発生する異常電圧で大きな電流が流れるサージに対して優れた抑止力を持っている。
最近のモバイル機器のように小型の電子機器は電池で駆動するため、低電圧動作のLSIが搭載されており、人体や衣服に生じた静電気の影響を受けやすい。このためサージ対策が不可欠となってきており、チップ積層バリスターの需要が増えてきている。
 携帯電話などでは、LCDパネル、キースイッチ、バッテリー端子、ヘッドホン端子、マイクなど静電気の影響を受けやすい場所に組み込まれ、静電気対策を行っている(図)。
従来、このような用途にはツェナーダイオードが使用されていたが、チップ積層バリスターは小型で静電気に対する応答性に優れ、コンデンサー機能を持つため、ツェナーダイオードのようにコンデンサーと組み合わせる必要がないこと、一般の回路部品と同じサイズのため使い易いのが特徴となっている。
サイズも、0603(0.6×0.3mm)から1005(1.0×0.5mm)、1608(1.6×0.8mm)、2012(2.0×1.2mm)形状、それに2素子、4素子のアレイ品も製品化されている。

図
クリックしてください。
携帯電話へのバリスター使用例


  ◆最近のバリスター製品
 太陽誘電は積層チップバリスターとしてVR1005シリーズを開発している。この製品はバリスター電圧がほとんど変化しない、また、微小電流領域を含む電圧マイナス電流特性の変化が非常に少なく安定した性能と継続的に発揮する。携帯機器のESD対策に対応するバリスター電圧12Vおよび27Vからなる3製品を用意している。
同社ではPr添加の酸化亜鉛をベースに独自の材料開発を行い、優れた耐ESD性能を得ている。
KOAは積層チップ型酸化亜鉛バリスター「NV73シリーズ」とラジアルリード型「NVDシリーズ」を販売している。1005形状のNV73 iEは、携帯機器が受ける静電気に対して双方向の安定した吸収特性を示す。また、最低静電容量3pFを実現したことで高速信号ラインに使用できる。
 NV73シリーズでは、バリスター表面に特殊コーティングを施すことで優れたハンダ付け性が得られる。鉛フリー電極品の供給も可能。
NVDシリーズは、製法の改良により、従来と同一の性能で素子の厚みを従来の1/2まで薄くすることを可能にした。
北陸電気工業は酸化亜鉛を主成分に数種の添加物を加えたMNRバリスターとして、汎用ディスクタイプのZRシリーズと低圧・高エネルギー耐量タイプのZMシリーズを販売している。ZRシリーズは、電圧直線性に優れ、制限電圧を低く抑えられ、電圧・電流が対称であるため正・負両極性のサージに対応でき、交流回路にも使用できる。
ZMシリーズは、バリスター電圧が8〜47Vと低く、5V以下の低圧回路にも使用できる。また、エネルギー耐量がZRシリーズに比べ約2〜5倍となっている。
TDKは、業界初の0603タイプ積層チップバリスターAVR―M0603を量産している。積層チップバリスターを小型化する場合、電極面積を小さくするとサージ耐量が低下する、また、低電圧回路に適した特性を得るにはバリスター素子を薄層化する必要があるが、同社では極小結晶粒子を均一に形成する微細構造制御技術と、精度を極限まで追求した薄層技術で独自の希土類系酸化亜鉛バリスターを開発。
 0603サイズを実現するとともに、静電気印可後の特性劣化が少ない安定性を確保している。鉛を使用しない鉛フリー製品となっている。
 また、同社は業界最小の制限電圧を実現した高速信号ライン用の低静電容量の1005タイプの積層チップバリスターAVRL101A3R3Nと同A6R8Nを開発している。
積層チップバリスターを低静電容量化する場合、電極面積を小さくするとサージ耐量が低下する、制限電圧が大きくなってしまうという問題があったが、極小結晶粒子を均一に形成する微細構造制御技術と、より高い精度を追求した積層技術により、独自の希土類酸化亜鉛バリスターを開発し、制限電圧を大きくすることなく、それぞれ3.3pF、6.8pF(1MHz、1Vrms)と低静電容量化した。この製品は、最近とくに要求の多いUSB2.0などの差動信号伝送回路などの高速信号ラインにも対応する。

KOA
クリックしてください。
  TDK
クリックしてください。
各種の積層チップバリスター
0603サイズ積層チップバリスター 


  ◆チップサージアブソーバー
 サージアブソーバーには放電型と半導体型がある。放電型は電極のギャップによりサージ電圧をバイパスするもの。放電型サージアブソーバーは、ネオンやアルゴンなどの不活性ガスを放電電極を設けたケースに封入しシールしたもので、マイクロギャップ式アブソーバーと呼ぶものもある。
マイクロギャップ式サージアブソーバーは、絶縁体表面に導電性薄膜を形成し、これを数十μm程度の絶縁ギャップを形成することで二分してギャップを形成する。この方式はサージに対して応答性に優れているのが特徴。
 放電型サージアブソーバーはインパルス性に優れており、バリスターを凌ぐ大きなインパルス耐量を持っている。また、静電容量が非常に小さいため高周波帯域でも使用できる。
最近は電子機器の小型化や動作電圧の低電圧化もあって、サージアブソーバーの小型化、高性能化が求められており、他の回路部品と同様にチップ化されたものが登場。
とくに静電気対策用として小型電子機器への導入が増えている。また、小型化が難しかった雷サージ対策用サージアブソーバーもチップ化されている。



  ◆チップサージアブソーバーの最新製品
 岡谷電機産業は、ブロードバンドに対応した誘導雷サージ対策用チップサージアブソーバー「RHCA―401R43」を開発・販売している。
この製品はxDSL関連需要向けで、xDSLの試験規格のITU―T K.20あるいはK.21のエンハンスド・コネクションに対応しているのが特徴。高周波回路での使用を可能にする0.6pF以下の低静電容量を持つ。電極に特殊加工を施し、封入ガスを複数組み合わせて電流大量を確保、サージ耐量は2000Aとなっている。
サイズは4.5×3.2×2.7mmと小型化を実現している。完全鉛フリー仕様となっている。
 三菱マテリアルは優れた静電気応答性を実現したマイクロギャップ式チップサージアブソーバーを販売している。このほど「CSA30―201N」を販売した。
1pF以下の低静電容量で高周波での使用を可能にした。また、新たに封止技術を開発、IEC6100―4―2に対応する静電気耐量を確保した。
サイズは3216形状。自動車のアンテナ部から侵入するサージの保護用に提案していく。
電話機、モデムなどの通信ライン向けDSSシリーズのチップタイプのサンプル出荷を始めた。

岡谷電機産業
クリックしてください。
  三菱マテリアル
クリックしてください。
チップサージアブソーバー
通信用の高速応答サージアブソーバー


  ◆温度ヒューズと応用製品
 内橋エステックは、回路保護安全部品として温度ヒューズおよびその応用製品を独自に開発し生産、販売している。
温度ヒューズは、電子機器の回路ショートや回路部品の故障に起因する過電流によって生じる機器の発熱を感知して回路を遮断する加熱保護部品で、重大な事故を防ぐ目的で使用される。電流ヒューズと異なり、内部抵抗が非常に低いので周囲の温度上昇だけで溶断し電気が切れる。
同社では環境対策への取り組みとして鉛フリー化を進めており、感温部の非鉛化を行っている。最近発売された「37M」は、ノートPC、リチウムイオン電池保護用として開発された鉛フリー温度ヒューズで、8Aの電流定格を確保している。公称動作温度は139℃。
 また、同社がリチウムイオン電池用、加熱保護素子用に開発したフィルム型サーモプロテクターは温度ヒューズを応用したもので、電流ヒューズ的な機能も備えている。
フィルム型サーモプロテクターは、従来の温度ヒューズに比べてより内部抵抗値をコントロールすることにより、温度ヒューズ機能と電流ヒューズ機能を実現するとともに、狭いスペースなど、限られたスペースへの搭載を可能にするため本体に熱可塑性樹脂を使用し、リード線を薄型のリード端子として厚さを1mm以下としている。

内橋エステック
クリックしてください。
フィルム型サーモプロテクター


  ◆PTCサーミスターなど
 電子機器の加熱検知や部品の過電流保護、電流制限用として使われる保護素子にPTC(正特性)サーミスターがある。このサーミスターは温度センサーとして使われるNTCサーミスターと逆の特性を持っている。
PTCサーミスターは、チタン酸バリウムに微量の希土類を添加して焼結させたもので、ある温度から急激に抵抗が増える性質があり、この特性を利用して温度検知、過電流保護、電流制御などに使用される。加熱検知ではアンプや電源などパワートランジスターやFET使用機器の過熱保護や制御に使用されている。
 また、過電流から電子機器を保護する部品としても使用でき、トランジスター、FET、ICなど半導体の電流制限抵抗の代わりに使用することで異常電流を低い温度のままで保護動作するものも登場。これは電話回線、モーター、電源などのショート保護に利用されている。
このPTCサーミスターには、ポリマー系PTC素子というものもある。これはヒューズの代わりに使用されている。ヒューズは一度切れると交換する必要があるが、この素子は復帰機能を持つことから交換の必要がない。このためオンボード導入が進んでいる。小型化が可能なためチップ化されている。最近、電源一次側のヒューズの代わりに使用できる高耐圧品も開発されている。
リチウムイオン二次電池を使うモバイル機器やデジタルカメラなどの異常発熱、過電流時に回路を遮断する素子としてマイクロプロテクトデバイスといった保護素子も開発されている。この素子は、メカニカル接点で低抵抗と接点の安定性を実現、動作/復帰温度を高精度に設定できる。サイズは6.2×3.8×1.2mmと小さい。端子間抵抗は10ミリΩ。遮断電流はDC7A。PTCサーミスターを内蔵し、ラッチ(自己保持)機能を搭載した製品も開発されている。

  村田製作所
クリックしてください。
  タイコエレクトロニクスレイケム
クリックしてください。
  アルプス電気
クリックしてください。
過熱検知用PTCサーミスター
ポリマー系PTC素子
マイクロプロテクトデバイス

最新トレンド情報一覧トップページ