車載用中空ロータリーエンコーダーの技術

原田正則:アルプス電気(株)コンポーネント営業部第2グループ





◆昨今の市場動向
 自動車の運転席に着座すると、インパネにはエアコン、オーディオ、ナビゲーションなどの機器が並ぶ。ドライバーはこれらのさまざまな機器の操作を行うため、ノブを回したり、押したりするが、家庭用の機器に比べて、車載用の機器で、より求められるのは、運転しながらでも操作を安全に行うことができることと、運転者がいちいち、操作マニュアルを見なくても直感的に、操作方法などが理解できることである。また、自動車の商品の機能としては、運転者に快適性を訴求するため、操作感の良さなども求められる。
 これらを具現化するのは、操作フィーリングが良好でかつ節度感があり、誤動作につながらない適度な操作力であり、また、夜間の操作に適したノブ照明や何の操作ノブか一目で認識できる大きなインジケーターなどである。
また、車載機器の操作方法としては、一般的に、デジカメ、DVD、携帯電話などのデジタル機器でメインとなる「プッシュ」操作よりも、「回転」操作が多くなってきている。これは、最近の電子制御技術の発達で、信号がデジタルで処理されるため、求められるデバイスにより、自動車にあった操作方法を多彩に選択できるようになってきたためである。
また、当然ながら世界中、さまざまな気候下で利用される自動車に使われる車載機器には、厳しい環境下で使用される前提で、幅広い使用温度範囲に適用できることが要求されている。 以上が、昨今の車載機器で一般的に求められるものである。


  ◆製品の開発背景
 当社製品の代表例としてロータリエンコーダーについて説明する。
1)ロータリーエンコーダー
アルプス電気では、スイッチ、可変抵抗器で長年養ってきたHMI(ヒューマン・メディア・インタラクティブ)を開発コンセプトに、コア技術である精密加工設計技術や生産技術、材料技術などを駆使し、市場ニーズを先取りした製品を積極的に投入している。その中で重点市場である自動車向けには信号処理のデジタル化に伴い、多くのロータリーエンコーダーを開発量産中である。
当社製品の代表例としては、ロータリーエンコーダーがあり、その応用製品として、最近、自動車用エアコンパネルの温度、風量、モード切り替えなどの操作で多く使用されるようになった、中空ロータリーエンコーダーがある。まずは、これについて説明する。
【エンコーダーの基本構造】
アルプス電気の軸付きのロータリーエンコーダーの基本構造(図1)は、回転操作すると、これに直結した軸が回転方向の角度に応じてON/OFFの信号を発生させるというもの。電気的には図の接点と可動接点の接触である。また、エンコーダーはマンマシーンのインターフェイスになる。操作した人間に操作感をフィードバックするために、回転方向に適度なクリック感触や回転トルクを持たせるのが一般的である。そのために、エンコーダーの中の板バネの摩擦を利用してクリック感触をつくっている。付加機能として、軸にプッシュスイッチ機能を持たせたものもある。
エンコーダー信号出力のパターンとしては、回転方向を検知できる2相のインクリメンタル出力(図2)が多い。
2)中空軸エンコーダー
最近の自動車の内装では、エアコンやオーディオの操作パネルなどで、ノブが大型化、外側だけが回転し、内側が回らずスイッチなどになるデザインが増加している。内側固定部にはスイッチのほか、ノブや文字の照光やインジケーターにランプ、LEDなどが搭載(写真1)されるものも多い。ノブの中空化と大型化の理由は、車内で視認性に優れ安全で操作が分かりやすい点がデザイン的に評価され採用が増えている。
当社では、中空軸エンコーダーのバラエティー展開を数年前から図っており、外形サイズで最小17mmから最大60mmまでの製品をラインアップしている(写真2)。
外形サイズはノブの大きさや、上記の固定部に入れるスイッチ、ランプ、LEDなどにより決定される。

  図1
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  図2
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  写真1
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  写真2
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軸付エンコーダーの基本構造
2相のインクリメンタル出力
中空軸エンコーダーの・・・
外形サイズまでの中空軸・・・


  ◆中空軸エンコーダーの特徴・構造
【技術的優位性】
(1)良好なフィーリングの実現
ユーザーにノブの回転具合を伝えるクリック感を出すための機構部分の摺(しゅう)動部を樹脂同士とすることで、回転操作を妨げない滑らかなクリック感も実現している。
また、操作時のガタ感を減少させるために、中空軸とエンコーダー筐体ケースの両部分において、部品形状および樹脂のシミュレーションにより最適の形状と樹脂の選定によって、大型化に伴って起こりやすい操作軸のがたつきを低減させている。
(2)操作フィーリングの個別対応
フィーリングに対する要求は、カーメーカー、車種により異なり、それぞれに対応する必要がある。当社では、その対応のため、クリック構成部は金属部品に対し変動可能な樹脂突子を配置し、突子形状・硬さを変えることで要求フィーリングに対応する配慮をしている。
(3)操作回転角度対応
操作部における要求はフィーリングだけではなく、回転角度に対するカスタム要求も多い。従来は、ON位置のみ金属板を露出し、他部分を樹脂で覆ったコード板か、エッチング基板を採用することがほとんどであったが当社では、これまでに培った印刷技術を使った印刷コード基板の開発、採用を行っている。
印刷コード基板は、顧客要求のコードパターンに対し、印刷マスクみの変更で対応することができ、従来使用している。樹脂アウトサートコード板、エッチング基板と比較し、リードタイムと開発費用の低減が図れる。
(4)バラエティー
中空タイプのバラエティーは、外形17mmから60mmまでをそろえており、また、出力もインクリメンタルエンコーダーやアブソリュートエンコーダー、そして可変抵抗出力をそろえ、顧客の要求に柔軟に対応するものとしている。
(5)長寿命化
市場で要求される項目として、信頼性向上の意味で耐久性能を上げる回転回数の長寿命化があり、これに対応するために、接点グリス、接点ブラシ(摺動子片)固定接点の加工方法、メッキ方法などの検討を行い、長寿命化の検討を行っている。
当社では、上記のような特徴を持った中空エンコーダーを開発生産しているが、特に、生産数量の多い外形45mmのEC45シリーズについて述べる。
【中空軸エンコーダーの構造】(図3)
【特徴】
・大径穴で中空部が多様にアレンジ可能
・丸形状、薄形で照光設計が容易
・自動車用に適した重トルク仕様が対応可能で、軸ガタ少なく好操作フィーリングを実現
・信号出力が2相インクリメンタル以外にアブソリュートエンコーダーと可変抵抗式も可能
・クリック板、板バネ、駆動体の3点を変更することで各種のクリック数、トルク変更が可能。

図3
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中空軸エンコーダーの構造


  ◆今後の展開と課題
 自動車に求められる課題は安全性・快適性・環境の3つがキーワードである。われわれ、自動車の操作デバイスを提供するメーカーにも当然、これを課題としてとらえていかなくてはならない。とくにITSなどの普及が加速する今後、増加する自動車の電子化で機能が付加されることでたくさんの操作が必要になる。単純にスイッチを増やしては安全に運転が行えない。1つの解決方法が最近、欧州車の一部に搭載され話題になった1個の操作ノブで感触や回転角度が変えられるハプティックコマンダ(当社商標)である。
しかし、この方式はまだ高価であることや、システムも複雑になることから、世界の自動車に広く普及するのは時間を要する見込みである。コストを抑えたなかで、幅広い年齢層のドライバーが操作を行うにも直感的に分かりやすく、安全に快適な操作を楽しめるデバイスが求められている。中空エンコーダーも1つの提案であるが、エンコーダーやスイッチを組み合わせ、さらには、新しい操作方式にまで踏み込み、より一層使いやすいデバイスを今後も開発していく。


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