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自動車用位置センサー |
◆はじめに〜長寿命化した可変抵抗器〜
◇自動車の本格的な電子化について
1885年、ドイツで発明された自動車は、1913年には米国でマスプロダクトの象徴、T形フォードの生産が開始されるや、これを契機として、より大衆に近いものとなり、以後、急速に普及した。しかし、これらのマスプロダクトの負の側面、環境への配慮などの意識が高まった1970年代には、日本では、排出ガス公害が大きな社会問題になった。この対策として1972年に開発されたのが、自動車のエンジンの電子式燃料噴射システムである。電子式燃料噴射システムはコンピューターを使って、常に燃料が最適に燃焼される、つまり、完全に燃焼される状態になるようにエンジンを制御するシステムである。これにより排気ガス中の有害成分を最小に、環境への負荷を低減する。そして、コンピューターを使用するために、コンピューターが読み取れる形の電気的に変換された各種情報が必要となる。これは、オーディオなど民生分野で培ったアルプスの電子部品の技術が自動車製品で生かされるきっかけができたということでもあった。
アルプスは現在、これらの各種電子制御システムが必要とする多くの重要なセンサー(とくに位置センサー)を開発・設計し、量産しているが、その多くは戦後まもなく、民間に電波が開放され到来したラジオ、テレビ、オーディオブームなどによる、その旺盛な需要に応えたるため、開発・大量生産を開始した可変抵抗器(ボリューム)がベースとなっている。
ただし、一朝一夕に、自動車で使用できない。自動車で使用する場合、民生機器と比較にならない過酷な状況下で使用するための高いスペックや信頼性が必要となる。歴史ある可変抵抗器を車載用とするためには、アルプスが長年培った固有の技術や、最新の材料技術が必要となった。
本稿では、自動車で使用する場合に必要となる技術について紹介する。
◆自動車の本格的な電子化の端緒、電子式燃料噴射システム(図1)
◇電子式燃料噴射システムの役割
エンジン制御ユニットはアクセルペダルの踏み込み量=スロットルバルブの開閉度から、運転者の加速したいという意思を判断し、同時にその時の空気の導入量、温度やエンジンの回転数、車の速度などを総合的に判断し、最適で最小のガソリンを噴射するように燃料噴射ポンプに出力するシステムである。これにより最適比の空気とガソリンがエンジンのシリンダー内に取り込まれ、吸気、圧縮、点火、爆発、排気を繰り返す。これにより、運転者の意思どおりの加速をきちんと行うと同時に、完全にガソリンを燃焼させ、低公害、低燃費が可能となる。ここに使われるのが今回紹介するスロットルポジションセンサーとなる(図2、3)。
◇スロットルポジションセンサーの構造について
スロットルポジションセンサーは「可変抵抗器」と全く同じ構造である。軸と一体でブラシが抵抗体上を摺動するものであるが、位置を検出するセンサーとして使用する場合、出力電圧の精度が重要となる(図4)。
これは、センサーとして用いる場合、出力電圧から、機械的な位置(角度)を逆算するためである。また、測定精度は理想直線と実際に測定された出力カーブとの差で、±2%が必要となる。出力精度で、この精度を保つためにはブラシの位置が理想位置に対して±0.2mm以下、つまりシャープペンシルの芯の太さのさらに半分以下の高精度を要求される。センサーを構成している部品はさらに高い寸法精度(0.1mm〜0.05mm)で加工されたものを使用する。アルプスではこの加工精度を独自の精密加工技術で実現している。
◇自動車用センサーに求められる特性
寸法精度以外に自動車用のセンサーに要求されるスペックは、ほかに2つある。それは、高い耐温度範囲と動作寿命回数である。自動車用のセンサーはエンジンルーム内などに設置されるため、−40℃C〜+125℃といった非常に低い温度から水が沸騰する高温度に至る範囲で、問題なく使用できるスペックが必要となる。たとえば、アラスカの極寒地域で真冬の深夜に放置されていた車は−40℃まで下がるが、このような環境下においても、エンジンは始動し走り出せねばならない。また、真夏のアリゾナ砂漠を高速で走ったエンジンを停めた直後のエンジンルームは125℃まで温度が上がるが、このような環境下でも使用できなければならない。
自動車の場合、10年間以上の長期間にわたり、正常に使われることが求められているが、スロットルポジションセンサーでは100万回から1000万回の動作寿命が必要となる。例えば、1000万回の寿命があれば、毎日2700回以上アクセルを踏む動作があっても、10年間故障がない製品となる。逆に人の命を運ぶ自動車では、これくらいの高いスペックが必要である。
つまりは、自動車用の可変抵抗器式位置センサーには、耐熱性と長寿命が必要ということである。
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エンジン制御システムの構成例 |
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エンジン制御システムの構成例 |
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スロットルバルブ |
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可変抵抗器による位置測定原理 |
◆長寿命、耐熱性を獲得するための鍵、抵抗体素子
◇長寿命、耐熱性を獲得するために
耐熱性と長寿命を獲得するために、故障パターンを考えてみたい。耐熱性の獲得と、長寿命化とは、逆にこの故障パターンを避ける、ということである。
故障パターンは次のように考えらる(表1)。センサーが高温度下に置かれると、抵抗体素子のバインダー樹脂(後述)の結合力が下がり磨耗しやすくなる。さらに、ブラシによって繰り返し抵抗体素子がこすられ、徐々に抵抗体素子は磨耗する。
抵抗体素子の磨耗が進むと出力カーブが曲がり(図5)理想直線(破線)からのずれが大きくなる。
つまり、計測精度が落ちてきて誤差が大きくなる。また、同時に、削られた抵抗体素子の磨耗紛が抵抗体素子とブラシの間に挟まり、電気的な接触不良も生じ、これが電気的なノイズにもなり、これも測定精度を低下させる原因になる。
結果的に精度不足のデータ(情報)がエンジン制御ユニット(ECU)に送られてしまうこととなり、正確な位置把握ができなくなる。
センサーとしての故障はこのようにして起きる。基本的には、過酷な温度環境下、とくに高温の場合に、不安定となったところの抵抗体素子がブラシに削られる、削られやすくなる、ということであり、従って、温度変化、特に高温の際での物質が不安定な時に強く、ブラシからの摩耗に強い抵抗体素子が求められる。ここで、まずは抵抗体素子について説明する。
◇抵抗体素子の構造
抵抗体素子は導電性を得るカーボンブラックという炭素の粉〈煤(すす)〉と、耐磨耗性を向上させるためのフィラー(補強材)を樹脂に混ぜ合わせ、これを絶縁基板上に薄く塗布して焼き固めたものである。このそれぞれの配分量が、耐熱性獲得、長寿命化に、独自の長年のノウハウが発揮されるところとなる。
◇摩耗のメカニズム
さて、以上の抵抗体素子の耐磨耗性を上げるために、その磨耗のメカニズムを述べる。抵抗体素子の磨耗は疲労磨耗である(図6)。
ブラシは抵抗体上に押し付けられており、抵抗体表面はへこまされる。この時抵抗体は圧縮される。
次にこのブラシが移動すると、このへこみも一緒に移動する。この時、圧縮、引っ張りが波のように進んでいく。これが繰り返され、その回数は100万回から1000万回にも及ぶ。
針金を繰り返し折り曲げていくと金属疲労によりポキッと破断するが、それと同じことが抵抗体素子の内部でも起き、樹脂が破壊され、磨耗紛として掃き出され、抵抗体が削れてしまう。
これを強くし、耐磨耗性を向上させるには、やはり耐熱性の高いバインダー樹脂を使用することが必要である。耐熱性が高いと、この圧縮や引っ張りを繰り返し受けても破壊されにくい。現在、最も耐熱性の高い樹脂が使用されているのは、スペースシャトルである。スペースシャトルは大気圏突入時の空気との摩擦熱に耐えるようにその外壁はセラミックスの板で覆われており、この外壁にセラミックスの板を固定している接着剤が現在、最も耐熱性の高い樹脂となる。
アルプスでは、スペースシャトルで接着剤として使用されているこの樹脂に着目、これを超耐熱性樹脂をバインダー樹脂として使用、大幅にその耐熱性を向上させた。
次いでブラシの押し付け力(荷重)による抵抗体表面のへこみ量をできるだけ少なくすることが重要である。同じ力を受けてもへこむ量が少なければ、疲労破壊に至る回数は伸びることになる。針金が少ししか曲がらなければ、大きく曲げられた時よりも切断されるまでの回数は長くなるが、これと同じ原理である。
そこで、フィラーを適量混ぜると、ブラシが抵抗体中にくい込む力をそのフィラーが受けてブラシが深くまで沈みこむことを避けられる(図7)。
これまでの可変抵抗器はこのフィラー用材料としてセラミックスなど無機物の粉末や各種天然の黒鉛を使用していた。しかし、セラミックスなどは硬すぎてブラシを磨耗させてしまうという欠点があり、長寿命用には黒鉛を使用していた。これは潤滑性もあり最適である。しかし、この黒鉛は天然のもので、適切な大きさや形状のものが用途ごとに選べないという欠点があった。
これに対しては、最近の炭素材料の研究の成果から、フィラー用に多種のカーボン材料を選択できるようになった。現在では人造黒鉛はもとより、合成ダイヤモンドも一般的になり、さらに、もっと身近なところではカーボンファイバーも航空宇宙産業からスキーやゴルフクラブの各種補強材用として多く開発生産されるようになってきている。さらに電子部品用にはダイヤモンドライクカーボンや黒鉛層間化合物、そしてナノテクノロジーで大きな関心を集めるカーボンナノチューブなど各種の炭素材料は今後も研究が進められ、新たな材料が日々開発されている。
当社の長寿命抵抗体素子にも、これら材料から最適のものを選びフィラーとして、抵抗体素子に添加することで1000万回の寿命にも耐える、自動車用位置センサーの長寿命抵抗体素子を実現している。
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可変抵抗器式センサー故障モード |
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疲労破壊 |
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ブラシ荷重の分散 |
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抵抗体素子磨耗による出力カーブの変化 |
◆最後に
抵抗体素子の技術だけを取っても、これだけのものがあるが、センサー全体としての長寿命を実現させるには、実は、この抵抗体素子のほかに、ブラシの材料・形状・ブラシ荷重・潤滑剤などの技術、そしてこれらを有機的にまとめる設計・評価技術も重要となることを最後に付け加えたい。
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