三菱電機は、通信用電子追尾アンテナのコストダウンを可能にする、世界最小のマイクロ波集積チップセットを開発した。同チップセットを利用することで、低コストの準天頂衛星通信用アンテナを実現できる。準天頂衛星システムは、衛星が常に天頂付近にとどまることによって、高仰角の通信サービスを提供する衛星通信システム。3基の衛星がセットとなり、常に1基は日本のほぼ真上に位置するため、24時間通信サービスが受けられる。準天頂衛星は2008年度の打ち上げが予定されている。
準天頂衛星の利用形態としては、電波がビルなどにさえぎられにくいことから、走行中の車両に向けたデータ放送やインターネットアクセスを提供する移動体通信サービスなどが計画されている。国土交通省では、準天頂衛星を使った、新しい鉄道運行管理システムの実験を12月から始める。
準天頂衛星は、宇宙空間を複数の衛星が高速に移動するため、衛星は常に地上局を追尾する必要がある。地上局も複数衛星の同時追尾が要求されている。電子追尾アンテナは、従来の機械式アンテナでは実現困難な複数目標の同時追跡、高速なビーム走査などが可能となるものの、多数の素子アンテナごとに、高価なマイクロ波半導体回路が必要となり、コストの点で課題となっている。
今回、三菱電機は世界最小のマイクロ波集積チップセットを開発し、マイクロ波半導体回路の低価格化にメドをつけた。同チップセットは電力増幅器、低雑音増幅器、移相器で構成する(図1参照)。回路素子の高密度レイアウト技術により、従来に比べ、5/1から4/1の小型化、低コスト化を実現した。
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マイクロ波集積チップセット |
◆高密度レイアウト技術
回路素子自体の小型化を図るため、メアンダラインやスパイラルインダクターなどを多用し、回路素子の集中定数化を図った。また、回路素子の共通化を行い、少ない回路エレメントで、高精度に動作する回路構成を考案した。
具体的には、抵抗やコイル、コンデンサーなどのエレメント数を半減した。回路素子を高密度に配置するため、素子間結合をあらかじめ予測して設計するなど、設計ルールも20項目を見直した。
さらに、バイアス分圧・共通化回路を内蔵したり、外付けコンデンサーを不要にする工夫も行った。
◆温度補償回路技術
温度を対するばらつきを抑制するために、温度補償回路を電力増幅器および低雑音増幅器に内蔵した。温度補償回路により、アンテナ内に温度変化が生じても、特性が均一になるように自己補正する。
◆移相器の広帯域化技術
スイッチング素子であるトランジスターのオン/オフ切り替え動作により、直列共振回路と並列共振回路を切り替える反射移相回路を考案した。
すべての周波数において、反射位相差180度になるように、回路定数を設定し、広帯域特性を有する180度ビット移相器を実現した(図2)。これにより、数GHzから数十GHz帯で汎用的に使用できる。
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移相器の広帯域化 |
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