同軸コネクターの市場ニーズと設計技術

冨樫晃司:SMK(株)CS事業部設計部東京設計3課


  ◆まえがき
 比較的特殊な位置付けであった同軸コネクターは、10数年前からの携帯電話など移動体通信機器の著しい普及に伴い、大きな変化を遂げている。当時の同軸コネクターは、SMAやSMBに代表されるMILやIEC規格で標準化されている製品が主流であり、その加工方法からも生産性が悪く、高価格であり、大量生産や民生用機器への使用には適合しずらいものであった。
その中でSMKでは、これまでの各種コネクターで培った技術を活用し、性能面でも従来品と遜色なく、生産性に優れる同軸コネクターを数々製品化してきた。ここでは、SMKが開発した同軸コネクターを例にあげ、市場ニーズ、設計技術、今後の展開について述べる。

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スイッチ付き同軸コネクター「TS-7」シリーズ


  ◆同軸コネクターの市場ニーズと設計技術
 図1に示す通り、SMKでは機器内内部配線用、RF出力検査用スイッチ機構付き、無線基地局用、車載用など幅広い用途の同軸コネクターを製品化してきており、以下に製品例をあげて、市場ニーズと設計技術について述べる。
(1)生産性の向上
一昔前までの同軸コネクターは前述した通り規格品のものが多く、その部品の多くは切削と呼ばれる機械加工で行われていた。また、組立てに関してもハンダ付けなど工数がかかる工程を含むものが多く、生産性、コスト面で著しい発展を遂げた通信機器市場には不適合であった。そのため、部品加工、組立て方法を見直した生産性向上が要求されるようになった。SMK製コネクターの生産性においては、精密プレス・精密成型による部品加工、圧入・圧着による組立てが生産のベースとなっており、数十年培った技術の活用はもとより積極的に新規加工・組立て技術を導入し続けている。
図2に紹介するTC―4(内部配線用同軸コネクター)を例にあげると、金属・樹脂部品ともにすべて金型による加工品であり、基板取り付け側のレセプタクルでは、プレス部品をインサート成型している。また、ケーブルアッセンブリー側のプラグでは、極細同軸ケーブル(外径φ0.81mm)を使用しているにもかかわらず、中心導体・外部導体ともに圧着方式を採用しており、生産性を高めている。なお、TC―4の使用周波数範囲は、DC〜6GHzと広帯域であり、圧着結線では不可能であると言われた領域まで高周波数化を実現している。
(2)小型・軽量化
電子機器の小型、軽量、薄型化に対する部品の役割は大きく、コネクターには基板上での占有面積や高さを小さくすることが要求され、具体的にはチップ部品の高さ以下が望ましいとされており、そのポイントとなるのは成型品の薄肉化とコンタクト(特にばねコンタクト)のコンパクト化である。
一方、小型・軽量化を進めていく場合でも機械的強度や接触信頼性が従来のものとほとんど変わらないことが多く、十分なこじり強度と接触安定性が保たれる構造の設計が要求される。図3に示すTS―7(スイッチ付き同軸コネクター)を例にあげると次のようになる。
氈jTS―7製品概要
TS―7は、TS―2〜4の後継機種に当たる製品で、製品高さ1.5mm(従来品比:約77%)基板占有面積2.9mm×2.9mm(従来品比:約83%)、重さ0.025g(従来比:約71%)と小型・軽量化が図られている。
)成型品の薄肉化
成型品を単純に薄くすることは、ショートモールド、コアピンの損傷など生産時のトラブルや全体的な強度不足、面強度不足によるソリなどの問題が生じやすい。そこで流動解析を用いて、製品に最適な樹脂選択、金型構造、ゲートの取り方など多方面から十分に検討し、0.2mm以下の薄肉でも量産可能な形状の設計を行った。
。)コンタクト(ばねコンタクト)のコンパクト化
TS―7は接続部品であるとともにON/OFFの切り替えスイッチ機構付きのため、コンタクトの設計は重要な要素であり、安定したばね特性、接触信頼性確保ができる構造が必要である。具体的には、製品の大きさ、仕様内で十分な接触圧・ばねスパンを確保すること、適切な変位量を設定することであり、FEM解析(有限要素法)を活用して設計を行った。その結果、コンタクトの曲げや幅・厚さなどを最小限にでき、独自のコンパクトスイッチ構造を実現した。
「)こじり強度の確保
こじり強度については、リード部と呼ばれる基板との接合部の形状、大きさ、位置などが重要である。
TS―7では、リード部の配置をGND四隅(中心端子と合わせて計6カ所)に設け、形状もガルウイング・Jベント形状にするなどハンダフィレット部を極力大きくなるように設計を行った(図4参照)。
(3)SMT・自動実装対応
SMT対応コネクターは、リフローソルダリング方式でハンダ付けを行うため、耐熱性のある材料の選定と端子の平坦度(コプラナリティ)を小さくすることが重要となってくる。具体的には、近年の無鉛ハンダの使用やスクリーン厚の薄化のため、ピーク温度260℃の耐熱性、0.1mm以下のコプラナリティの要求が一般的である。
また、実装機の面では、吸着ノズルの自動切り替えやノズル形状の多様化は図られているものの、異形部品であるコネクターは製品の種類が多いため、位置合わせのしやすい形状やエアによる吸着安定性のための平坦部を設けたりするなど、外観形状を工夫する必要がある。
前述(2)項で紹介したTS―7を例にあげると製品大きさ2.9mm×2.9mmに対してφ2mmの吸着面を確保し(図4参照)、また、コプラナリティ面では、組立て工程での曲げ工程削減と生産技術力を駆使しての組立て安定性と検査工程の充実を図った。
(4)広帯域化
デジタル化、ワイヤレス化、マルチメディア化などを背景に無線通信市場は急速に拡大しているが、急増する情報量による周波数不足、新サービスの周波数割り当て、使用周波数の世界統一化などにより高周波数化が進められている。使用される同軸コネクターについては広帯域化が求められおり、携帯電話を主とする多くの移動体通信の使用周波数をカバーする2Gおよび3GHz対応から、高速無線LAN、ETCなどをカバーする6GHz以上の要求が一般化しつつある。
広帯域化を図る面でのポイントについて図5に示すSMPコネクターを例にあげると、コネクター内部の伝送部はもちろんのこと、結線部、嵌合部、基板接合部の整合性が重要であり、中心―外部導体間のバランス、誘電体の高周波特性、シールド構造などに左右される。特に結線部と基板接合部は、同軸ケーブルやマイクロストリップ線路との伝送変換部のため、高い周波数での整合性を得ることは難しい。
SMKでは他製品の技術累積の活用、シミュレーション、実験結果により、構造、形状、寸法、材質などを十分検討し、不整合個所やRFリークの低減を図り、広帯域化を実現している。その結果の一例としてSMPコネクターのVSWRデータを図6に示す。

  図1
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  図2
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  図3
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SMK製同軸コネクターの使用可能周波数
TC-4
TS-2・3・4・7
  図4
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  図5
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  図6
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こじり強度の確保
SMP
SMPのVSWR特性


  ◆今後の展望
 電子機器の小型、軽量、薄型化や高周波数化の流れは引き続き進み、その要求はますます厳しくなってくるものと考えられる。また、その中では実現に向けて相反する面も多く、数々の要素技術を1歩ずつ向上させ、限界とされる壁を1枚ずつ打ち破っていくことが必要である。同軸コネクターはある面で他のコネクターと比較しても遅れていたところもあるが、その分急速な進歩を続けており、積極的に取り組むべき課題も多い。
また、最近の環境問題への各メーカーの取り組みは著しく、環境負荷物質の低減・廃止はもちろんのこと省資源、省エネルギーへの配慮も高め、コネクターの設計・開発を進めていきたい。


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