全世界の携帯電話市場の60%以上を占めるGSMシステムは、欧州・アジア市場を中心に今後も着実に成長を遂げると予想されている。また、米州におけるGSMシステムの採用、第3世代方式(UMTS)とのマルチシステム化の出現により、全世界で使用可能な携帯電話端末も実現化されている。このGSMシステムは、TDMAと呼ばれるシステム方式を採用しており、時分割で音声あるいはデータの送信・受信信号を切り替えることにより、それらの信号が重なり合うことなく、交互に通信することを可能としている。この送信・受信信号の切り替えには、スイッチ共用器と呼ばれる高周波部品が用いられている(図1)。
GSMシステム向けのスイッチ共用器には、アンテナスイッチフィルターと呼ばれる高周波部品が使用されている。このアンテナスイッチフィルターとは、低温同時焼成セラミックス(LowTempe‐ratureCo―firedCeramics:LTCC)と呼ばれる高周波回路の高集積化が可能なセラミック積層基板上に、ピンダイオードやL、C、Rのチップ部品を搭載したものであり、2000年以降の携帯電話端末の小型・低背化に大きく貢献してきた。
現在の携帯電話端末は、GSM900(900MHz帯域)とDCS(1.8GHz帯域)双方の周波数帯域を利用するDualBand機が主流であるが、今後はPCS(1.9GHz帯域)を追加したTripleBand機、さらにはGSM850(800MHz帯)をも付加したQuadBand機が増加する(図2)。
このマルチバンド化の流れに伴い、アンテナスイッチフィルターの回路構成は非常に複雑化し、電気性能の劣化やサイズの大型化などの問題が生じている。
この問題を解決する手段として、松下電子部品は独自の回路構成を考案し、現状のアンテナスイッチフィルターと同サイズで高性能なQuadBand対応アンテナスイッチフィルターの実現に成功した。
クリックしてください。
|
|
クリックしてください。
|
|
適用回路例 |
|
積層スイッチフィルターのトレンド |
◆高周波での低ロス化実現
当社が開発したQuad Band対応アンテナスイッチフィルターは、従来までのDualBand対応アンテナスイッチフィルターに、GaAs―FETをSPDT構成で組み込むことによってQuadBand対応を実現した商品である。GaAs―FETを用いることにより高周波における低ロス化を実現している。本製品の外観図を、写真1に、主特性の波形図を図3に示す。
図4は、QuadBand対応アンテナスイッチフィルターの回路構成図である。アンテナ端子直下には、GSM850/GSM900帯の送受信号とDCS/PCS帯の送受信号を分ける分波器が配置されている。分波器にはGSM850/GSM900帯とDCS/PCS帯にそれぞれスイッチ回路が接続され、送受制御端子に加えられる制御信号に従って,送信モードと受信モードが切り替えられる。スイッチの送信側にはパワーアンプからの高調波成分を除去するためにLTCC積層基板内にローパスフィルターを構成している。また、スイッチの受信側にはGSM850帯とGSM900帯、DCS帯とPCS帯をそれぞれスイッチさせるためのGaAsFETがLTCC積層基板上に搭載されている。当社が開発したQuadBand対応アンテナスイッチフィルターには3つの特徴がある。
(1)送信時における送信―受信間のIso‐lation特性が、スイッチ回路のIsolation‐特性とGaAsFETのIsolation特性とを足し合わせた性能が得られため、High―I‐solationを実現可能とした。
(2)送信端子に印加されるハイパワー信号はスイッチ回路を通して分波器に接続されている。つまり、送信時にGaAsFETにハイパワーが直接印加されることがない。GaAsFETは一般的にハイパワー入力時に3次、5次の歪みが発生しやすい。本構成では直接印可されないため、アンテナスイッチフィルターで強く要望される低歪み特性(Harmonics)を実現した。
(3)受信側の分波にSPDT構成のGaAsFETを採用、受信時の消費電流が格段に小さく抑えることを可能とした(10―30μA)。これは受信側の分波にPINダイオードを用いた場合(約1mA―6mA)やSP6T構成のGaAsMMICを用いて構成した場合(約200μA)と比較して、大きく受信待ち受けの消費電流を抑えることを可能とした。
現在世界中で広く使用されているGSM、PDCなどのTDMAシステムの携帯電話では、時分割によって送信する時間と受信する時間が重ならないように交互に通信する時分割多重方式が用いられており、このシステムにおける受信電流を抑えることがバッテリーの寿命を大きく伸ばすキーとなっており、本開発は長時間の受信待ち受けに対して大きな貢献になると言える。
つぎに、本開発のアンテナスイッチフィルターの低ロス化への要素となる低温同時焼成セラミックス(LowTempera‐tureCo―firedCeramics=LTCC)について述べる。送信時のフィルターの低ロス化は、パワーアンプの省電力化に貢献し、バッテリー寿命を大きく伸ばすためのキーとなっている。本開発のQuadBand対応アンテナスイッチフィルターには基板材料としてLTCCが用いられている。LTCCを用いると、内部回路パターンに導電率の大きい銀や銅を用いることができ、損失の小さいインダクターやキャパシターの集積化が可能になる。すなわち、LTCCを用いたデバイスは、高周波において低損失を実現できる。
当社において、LTCCは、誘電体フィルターの小型化のためにフィルター単体にまず適用された。写真2は、松下電器産業デバイス開発センターで開発され、1994年に当社で商品化された積層プレーナフィルターの外観写真である。この積層プレーナフィルターは、従来の同軸型フィルターの20分の1の小型化を一挙に実現した。
現在、当社はLTCCとして比誘電率40から60程度の高誘電率系セラミックスと比誘電率5から15程度の低誘電率系セラミックスを実用化している。前述の積層プレーナフィルターには、主に分布定数で形成される共振器を使用するため、波長短縮率の大きい比誘電率58の高誘電率系を使用しており、積層スイッチフィルターには、主に集中定数のL・Cを使用するため、基板内の浮遊容量やクロスカップリングの影響の少ない比誘電率7程度の低誘電率系を使用している。
積層デバイスにおいて、安定した高周波フィルター特性を得るために、製造プロセスの安定性が非常に重要となる。一般に、低誘電率系よりも高誘電率系の方が精度の高いプロセス安定性が要求される。当社では、すでに高誘電率系セラミックスで培われた高度な積層プロセス技術を、低誘電率系で構成される積層スイッチフィルターにも適応することにより、優れた高周波特性を安定して製造することに成功している。
上記のように、当社では現行アンテナスイッチフィルター以上の優れた電気性能を、同サイズで、しかもQuadBand対応で実現した。今後の携帯電話端末はマルチバンド化の進歩とともに、カメラ機能の高性能化、動画撮影、ラジオ・TV放送の受信、大容量データ通信など、さまざまな機能が付加されていく。この多機能化により、携帯電話端末に占める高周波回路部品のスペースはますます狭くなりつつある。
また、近年では、カラー大画面化の実現が容易な折り畳み型携帯電話が急増しており、ストレートタイプの携帯電話端末よりも、厚みが厚くなる傾向にある。このことから、携帯電話端末の厚みをいかに薄くするかが大きな課題であり、部品の薄型化要望が非常に強まっている。
|
クリックしてください。
|
|
クリックしてください。
|
|
クリックしてください。
|
|
クリックしてください。
|
|
特性図(I.L) |
|
外観図 |
|
回路ブロック |
|
積層プレーナフィルターの外観 |
◆無収縮LTCC基板プロセスと薄型セラミックシート成型技術
当社はこの問題を解決する技術として、無収縮LTCC基板プロセスと薄型セラミックシート成型技術を有している。無収縮LTCC基板プロセスとは、LTCC基板焼結時の基板水平方向への収縮を抑制し、製品高さ方向への収縮率を高めることで基板の薄型化を実現可能とした技術である。
この技術を用いると、従来用いてきた収縮LTCC基板と比べ、LTCC基板厚みを約30%薄くすることが可能である。また、当社従来品よりも薄いシートを形成できるセラミックシート成型技術と併用することで、さらにLTCC基板厚みを薄くすることが可能である。
このようなプロセス技術を当社が開発したQuadBand対応アンテナスイッチフィルターに適用することによって、今後の携帯電話端末の薄型化に大きく貢献できると言える。
QuadBand対応で実現した。今後は当社が有する無収縮LTCC基板プロセスおよび薄型セラミックシート成型技術の適用により、さらなる小型・低背化が実現可能である。
また、近年大いに期待が寄せられているモジュール化に対しても、このアンテナスイッチフィルターを組み込むことが可能であり、将来の携帯電話端末の小型・薄型化に大いに貢献することが期待できる。
|最新トレンド情報一覧|トップページ|
|