リモートコントロールユニットのトレンドと将来技術展望

<野村憲司:アルプス電気(株)ペリフェラル営業部第2グループ>


◆はじめに
 デジタル放送やデジタル録画技術のような、ここ数年のデジタル技術の進歩により、各メーカーから新たな製品が登場してエンドユーザーの購買意欲を刺激している。
 昨今は特にDVDプレヤー、DVDレコーダー、液晶テレビ、プラズマディスプレイ、カーナビゲーションなどが市場を牽引している。
 ここではそのような市場や製品の変化に対するリモートコントロールユニット(以下リモコン)(写真1)の「市場動向」「技術動向」および「将来展望」について述べる。
写真1
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各種のリモコン

◆市場動向
 昨今のリモコンは大きく分けて、ローコストの追求と操作性の追求という2つの流れがある。
<ローコストの追求>
 とくに差別化が難しく、数量を多く売りたいという、普及モデルなどのセットでは、リモコン自身の形状や機能の標準化を行い、単機能リモコンとしてローコストを実現している。
 ローコストモデルはリモコン市場では一番のボリュームゾーンではあるが、機能が標準化されつつある昨今は、非常に技術的な差別化が難しくなっている。
<操作性の追求>
 本項目を今回のメインテーマとして以下に説明していく。

◆技術動向〜リモコンの操作性などのトレンドに向けた対応技術〜
 現在、リモコン操作性の追求にはさまざまなアプローチがあり、その中から代表的な7種類の対応技術について説明する。
(1)リモコン外観・形状について
 外観的なところで目を引くのは金属調デザインである。とくにデジタル録画機のフラッグシップモデルやミドルレンジモデルで使われ、アルミやマグネシウムなどを使用することがある。
 そういったセットの外観に合わせた形でリモコンの外観にもアルミを使用したり、メタリック材成形やメタリック塗装をしている。
 数年前までiMacの登場で目立っていたスケルトンタイプは、今はほとんど見られなくなった(写真2)。
 また、形状は数年前まで3次元CADシステムの普及にともない曲面のみで構成される丸みを帯びたリモコン形状が主流であったが、昨今は逆に直線的なデザインに戻りつつある。しかし直線的なところはあくまでもリモコン表側の形状であり、裏の形状は片手で持ちやすくするために曲面で構成されるデザインが多く3次元CADでの対応が必要となる(写真3)。
(2)キーの兼用
 ひとつのキーにひとつの送信コードを割り付けることが基本だが、スライドスイッチ、LCDもしくはLEDでリモコンのモードを表示させることにより送信コードを切り替えることもできる。
 使用頻度の高い機能を専用キーとして割り付け、使用頻度の低い機能はキーを兼用させることによりリモコンのキー数が減りシンプルになり、またキー数以上のセット全機能がリモコンで操作可能となる。基本機能を頻繁に使うユーザーも全機能を使いこなしたいユーザーにも対応が可能となる。
(3)デバイス操作(写真4)
 スイッチ、可変抵抗器、エンコーダーなどの機構部品や、パソコンのキーボード、タッチパッド、ゲーム用のコントローラーなどのユニット製品、また、車載用の操作モジュールなどのさまざまな操作系の製品を扱っているアルプス電気の特色を出しやすい部分のひとつである。
1)4・8方向スイッチタイプ
 DVDプレヤーのメニュー選択・決定機能として使われるようになり、さまざまなセットのGUI(グラフィック・ユーザー・インターフェイス)操作として広がっている。対応方法としては4方向スイッチや8方向スイッチを使うこともあるが、昨今はゴム接点を4・8方向に並べたりしているものが多い。しかし、ゴムにはない操作時の明確なクリック感を求める声もまだ根強くある。
 そういったユーザーの声に応えるべく弊社では多方向スイッチの技術を応用して一般的なリモコン機構部品とタクトスイッチのみでリーズナブルに多方向スイッチの操作フィーリングを出す機構を新たに開発して各メーカーに採用頂いている。
2)センターPUSH付きシーソーキータイプ
 リモコンのLCD表示を縦にスクロールする時など使われる。これも上記と同様に当社のデバイスを使う方法と、リモコンの機構部品とタクトスイッチでリーズナブルに構成することができる。
3)JOG・シャトルスイッチタイプ
 ビデオ用リモコンの編集機能の操作系として80年代後半から90年代前半にかけて使われた。
 現在はあまり使われていないが、録画メディアがテープからDVDへ変化して編集スピードが各段にUPすることにより再登場しつつある。
4)アナログスイッチタイプ
 パソコン用リモコンでマウスと同様にディスプレイ上のカーソルを自由自在に動かしてモードやファンクションを選択・決定するために使用する。
 当社の抵抗方式のアナログスイッチにて対応可能ではあるが、送信コードに変換することによる操作スピードの追従性や、連続送信による電池寿命の課題があり、まだあまり使われていない。
5)タッチパネルタイプ
 ドットマトリクスLCDと兼用で使う。オーディオアンプ用のリモコンに使われることもあるが、セット単体に標準装備されるよりも、オプションとして使われることが多い。
 多くのセットのキーファンクションをLCD表示させることにより、見た目がすっきりした複数のセット操作可能なリモコンとなるが、その半面、LCD表示の選択する階層が深くなり操作が複雑となる。
6)操作ナビゲーションタイプ
 操作可能な対象キーのみをLEDなどで光らすことにより操作をナビゲーションする。別売のリモコンとして使われることが多い。
 技術的には照光付きのリモコンと同じだが、ナビゲーションするキー数分の照光用光源とある程度のマイコン出力ポート数が必要となる。
(4)電波
1)電波送信タイプ
 指向性がほとんどないため、セットの位置を気にすることなく操作が可能。いまだに根強いニーズはあるがあまり広まっていない。理由は各国別で違っている電波法。周波数に対する電波出力の規制が各国でまちまちなため、国ごとに電波の送受信部を準備する必要が出てくる。
2)ロケータータイプ
 リモコンに電波受信部、セットに電波送信部を付ける。セットのあるボタンを押すと電波を送信し、所在不明のリモコンが電波を受信しピーッと音をたてて所在を知らせするリモコン。これも同様に電波法の課題がある。
3)双方向・ブルートゥースタイプ
 現在、双方向は赤外・電波方式の2種類がある。アンプやレシーバーなどの大きなディスプレイを持たないセットや、MP3やMDのように曲情報もデータとして保存できるメディアを再生できるセットに使われることがある。
 また、電波法の課題を解決するものが当社でも開発、生産を行っている全世界共通のブルートゥース方式となる。
 出始め当初は、リモコンに搭載する引き合いがあったが、リモコン専用の電波方式ではなく、現状のリモコンにとっては送信スピードなどのプロトコルがオーバースペックであること、セット側でも開発パワーが必要であること、もしくはコストとパフォーマンスの折り合いがつかないことなどで、採用に至っていない。
 しかし、今後セットにブルートゥースが標準インターフェイスとして搭載されるようになり、リモコン自身に求められる操作性や機能が増えてくれば、将来的に使用する可能性は十分にある。
(5)LCD表示付き
 キャラクター表示タイプとドットマトリクスタイプの2種類がある。
 前者はビデオの録画予約やエアコン用の条件設定するリモコンとして良く使われ、後者はタッチパネルと兼用してオプション製品として使われたり、多機能リモコンとして市販されることが多い。
 キャラクタータイプはリモコン用のマイコンで制御可能なセグ数だが、ドットマトリクスタイプは通常ドライバーICを介して制御を行う。
(6)照光・蓄光
 光源はLED、EL、蓄光ゴムの3種類があり、光らせる対象はゴム・印刷文字・LCDなど。ホームシアターなどの暗所での操作ニーズがあるリモコンで良く使われる。
(7)プリセット・学習
 他社製のセットをコントロールできるリモコン。AV機器のミドルエンド以上のリモコンに良く使われる。
 リモコンメーカーであらかじめ、リモコンのマイコンに他社製セットの送信コードをソフトとして作り込むプリセットタイプと、エンドユーザーがコントロール対象のセットのリモコン送信コードを学習リモコンに覚えさせる学習タイプの2種類がある。
 設定操作に関してはプリセットタイプはエンドユーザーでの設定操作が簡単であるのに対して、学習タイプはひとつのキーごとに覚え込ませる必要があり、非常に手間がかかるという違いがある。
 また、操作対象セットの範囲に関しては、プリセットタイプはソフトとして作り込んだセットだけであることに対して、学習タイプは特殊なリモコンを除くほとんどのセットが操作可能の対象となる。
 プリセットタイプのマイコンは十数メーカー分の送信コードを作り込める簡易的な物から、数百メーカー・セット分の送信コードを作り込めるものまで、非常にバラエティに富んでいる。
 当社製の学習タイプは現在約1350個(256KbitのEEPROM使用時)の送信コードを覚えることが出来るようになった。
 また、駆動電圧も3V(電池2本)での対応が可能となり、併用してLCDも装備可能といったように開発が進んでいる。
 それぞれに一長一短があるが、現在はプリセットタイプが主流である。
  写真2
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  写真3
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  写真4
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  図1
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最近のリモコン例
最近のデザイン例
各種のデバイス操作例
ロケーターリモコンのシステム概要

◆将来展望
 現在、ひとつのセットにひとつ専用リモコンが必ず標準装備されており、家庭からリモコンの数が減ることはない。また、新しいセットの登場や新機能追加などにより、リモコン数増加や、操作性の複雑化に拍車をかけている。
 そういった中で前項で記したように各種技術の導入により、より使い勝手の良いリモコンを開発してはいるが、ひとつのリモコンで全セットを楽々操作という状態には程遠い状況。
 このような状況はまだまだしばらく続くと思われる。
 昨今は携帯電話やPDAも赤外線インターフェイスを持っているため、アプリケーションソフトによる対応でリモコンとして動作するものもある。エンドユーザーが必要なセットのアプリケーションソフトのみダウンロードすれば、自分だけのリモコンとして機能するが、自分が操作したいセットの、さらに押したいキーにたどり着くまで小さな画面で選択・決定操作の繰り返しが必要となり、リモコン自身を見ないでブラインドタッチすることも出来ず使いやすいとはいえない。しかし、今後セット自身がiLINKやブルートゥースやエコネットなどでネットワークで接続されるとリモコンの状況も一変すると推測する。
 ネットワーク化はリモコンの統合の可能性を大きくする。例えばテレビを中心としてパソコンとマウスの関係と同様に、リモコンでテレビ画面上のセットアイコンを選択・決定してコントロールするといったように、すべてがテレビ用のリモコンだけで操作可能となるのである。そのようなリモコンのマウス化に必要となるのは、セット側のアプリケーションを含んだリモコンの操作性の向上である。
 今後もそういった将来に向けて操作と動作イメージがピッタリとあう操作デバイスやリモコン自身のソフト・ハードの開発を行い、セットメーカーへの提案を続けていく必要がある





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