タッチパネルの技術動向

<石橋弘敏:SMK(株)タッチパネル事業部営業部販売促進課>


 タッチパネルと呼ばれている入力機器は、PDAなどの小型機器からATM、券売機などの大型機器に至るまで幅広く用いられている。
 一般にタッチパネルといってもその方式はさまざまであり、大別すると次の5種類に分けることができる。
1)電磁誘導方式
2)静電容量方式
3)抵抗感圧方式
4)光学式(赤外線方式)
5)超音波方式
 この中でSMKでは、抵抗感圧方式と光学式を製造、販売している。
 今回は、現在もっとも広く普及している抵抗感圧方式タッチパネルに的を絞り、製品レパートリー(写真1)や特徴、最近の技術動向について説明する。
写真1
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SMKのタッチパネルレパートリー

◆抵抗感圧方式タッチパネルとは
 ITO(酸化インジウム)と呼ばれる薄い透明電極を膜状に着けたフィルム(またはガラス)を張りあわせた構造となっている。
 押圧位置検知方式については、デジタル方式、アナログ方式の2種があり、用途展開の広いアナログ方式が主流となっている。アナログ方式の中でも検知方式により4線式、8線式、5線式などに分類され、機能が異なる。
 抵抗感圧方式タッチパネルは他の方式に比べ軽量、薄い、安価、低消費電流というメリットを持っている。このため、PDA、ビデオカメラなどの携帯機器に、また、カーナビゲーションに代表される車載用操作パネルやPOS、コピー機などのOA機器、医療機、FA機器などに幅広く用いられている。

◆タッチパネルに対する市場ニーズ
 タッチパネルは液晶などの表示装置と組み合わせて使用されるため、操作性や耐久性以外に画面の視認性、表示の鮮明さも重要なポイントとなる。
 近年、タッチパネルに求められる市場ニーズは次の4項目があげられる。
1.タッチパネルをつけても液晶本来の発色・鮮明さが損なわれないこと。
2.周囲の光・物体の映り込みによる視認性が劣化しないこと。
3.指紋などの汚れによる視認性が劣化しないこと。
4.入力した/しないを感覚で感じ取りたい(スイッチのような操作フィーリングが欲しい)。
 これらのニーズに対して当社で商品化を行ったアイテムについて個別にその内容を説明する。

1)高透過(液封入)タッチパネル
 近年、液晶の高画質が損なうことのないようタッチパネルに高透過、無彩色の要求が高まってきている。
 タッチパネルの透過率を高める場合、透過率の高いフィルム材、ガラス材を用いるのが一般的である。
 しかし、透過率を下げる要因としてタッチパネルに入射した光が屈折率の異なる材料間(境界)で屈折し、反射光に変わる現象があげられる。
 光の屈折率の変化が大きいほど反射は大きくなるため、透過率の向上には限界があった。
 タッチパネルの構成において、屈折率の変化が一番大きい部分をあげると、ITO膜と空気層の部分となる(屈折率 ITO:1.9、空気:1.0)
 この点に着目し、空気層をITO膜の屈折率に近似した液体層に置き換えることで屈折反射を低減した製品が“液封入タイプ”と呼んでいる高透過タッチパネルである(特許出願済み)。
 この技術を用いることでMAX92%という世界最高の透過率を実現している(図1参照)。
 富士通研究所と富士通は、MEMS(マイクロマシン)ミラーを用いた80チャンネル光スイッチの開発に成功した。この光スイッチは、多チャンネル光スイッチとしては世界最高の1ミリ秒の切り替え速度を達成しており、次世代の光通信ネットワークに不可欠な光クロスコネクト装置の実現を可能にする。
 多チャンネル光コネクト装置としてはMEMSミラーに光を反射させてミラーを偏向することで光路を立体的に切り替える3次元型MEMS光スイッチが有望とされている。
 しかし、従来のものはMEMSミラー自体の応答速度が遅く、切り替え時にミラーの機械的共振が発生するため高速切り替えがむずかしく、多チャンネル化すると光スイッチのサイズが大きくなるという問題があった。
 今回開発した光スイッチは、光信号切り替え時に発生するMEMSミラーの機械的共振を抑圧するため、ノッチフィルターを搭載し、MEMSミラー駆動電気波形からMEMSミラー共振周波数成分のみを除去する制御技術と高速応答の櫛歯電極MEMSミラーにより、信号切り替え時間の高速化を実現した。
 また、光ファイバーから入力した光を屋根型のミラーを用いて出力側に折り返す構造の光スイッチファブリックを開発。平面ミラーで折り返す場合に比べて光路長を半分に短縮して小型化を達成した。
 さらにMEMSミラーの変更角度をフィードバックにより高精度に制御し、所定の光パワーレベルに調整する機能を内蔵。これにより各チャンネルの光パワーのばらつきが補正でき、光スイッチの外側に配置されていた可変光減衰器を不要にすることができる。
 両社では、これらの技術を用いることにより、多チャンネルスイッチとしては世界最高の信号切り替え時間1ミリ秒と光スイッチの小型化(150×400×30mm)、そして光パワー安定度プラスマイナス0.5dB以下を実現した。
 今回開発した技術は、多チャンネルMEMS光スイッチを光クロスコネクト用途だけでなく、より高速切り替えが必要な将来の光バーストスイッチングを用いたネットワークへ適用することも可能となる。
 両社では、今後はさらなる多チャンネル化、高速切り替えの実現に向けて開発を進めることにしている。
 画質の鮮明さと写り込み(反射)が低減できることから、おもに屋外での使用も想定される携帯機器(ペンPC、タッチパネルモニター付ノートPC、PDAなど)に用いられている。
図1
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従来品と高透過(液封入)タイプの比較

2)低反射タッチパネル(写真2)
 SMKでは、低反射仕様タッチパネルとして、ガラスプラスガラスタイプを製品化している。
 この構成は、上部電極板の基材にフィルムとほぼ同じ厚みのガラス板(t=0.2)を用いている。ガラスは温度/湿度による収縮が小さい材料であるため、信頼性を損なうことなく操作面側および裏面側に偏光板や位相差板、ARフィルムなどの特殊光学フィルムを張り付けることが可能となっている(図2参照)。
 この処理により、反射率を1%まで低減可能となった。また、耐環境性にも優れており、車載部品の仕様(使用温度範囲―30〜85℃)を満足することも可能となっている。
 この製品はおもに車載用操作パネル(特に純正仕様)用途に広く用いられている。また、屋外での使用が前提となるビデオカメラや屋外に設置されるガソリンスタンド用操作パネル(GASPOS)にも採用されている。
 当社では最近、上部電極板に、耐環境性に優れ、特殊光学フィルムの張り付けが可能なフィルムプラスガラスタイプを開発、商品化した。これはガラスプラスガラスタイプと比べ(1)安価(2)同レベルの反射率仕様(3)一般のフィルムプラスガラスタイプよりも耐環境性が強い、という特徴を持つ。
写真2
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  図2
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低反射(ガラス+ガラス)タッチパネル
低反射仕様タッチパネル

3)指紋対応タッチパネル
 指でタッチパネルを操作した際、指紋(指の油汚れ)が付着し、画面が汚くなる、見づらくなる、と言う声をよく聞く。近年、タッチパネルに最も求められているニーズがこの防汚(耐指紋性)である。防汚処理については、次の2つの方法がある。
・指で触れる面の濡れ性を高い値にすることで撥水性を高め、拭き取り易さの向上を図る。
・表面ハードコートの凹凸をキメ細かくして汚れを見え難くする。
 この2つをうまく組み合わせることで指紋が付きにくく、かつ拭き取りやすいタッチパネルができる。
 当社の場合、ガラスプラスガラスタイプでは、操作面に特殊コーティング処理を行い、撥水性を高め、汚れが付きにくく拭き取りやすくしている。また、フィルムプラスガラスタイプでは、フィルム表面のAG(アンチグレア)ハードコートをキメ細かくして、汚れを見え難くし、かつ拭き取り易くしている。

4)フォースフィードバック(以下FFB)(写真3)
 タッチパネル入力時に、入力したと言う指への感覚(感触)がないというタッチパネルの最大の欠点を解決し、画面変化や入力音だけでは限界のあった用途への拡大を可能にしたのがこのFFBタッチパネルである。
 これは、タッチパネルに振動素子が組み込まれており、正弦波や矩形波等のアナログ信号をタッチパネルへ直接印加すると、この波形信号に応じてタッチパネル自身が歪む仕組みとなっている。このため、与えるパルスによって、あたかもスイッチを押したようなクリック感や入力面が振動するような感覚などさまざまな感触を実現することができる。
 構造がシンプルであり、別途アクチュエーターや振動体を外部に付加していないため、外形は一般のタッチパネルとほぼ同一である。
 また、タッチパネルの基本性能(電気的、機械的、光学的性能)は従来のタッチパネルと同一である。
 対応パネルは、2.5〜12インチまでの各種サイズおよびフィルムプラスガラス、ガラスプラスガラス両方のタイプに対応可能である。
 入力面とあわせて、簡便に振動波形が入力できるFFB機能専用のコントローラーの開発も行っている。
 用途としては、カーナビなどの車載用操作パネルやATM、券売機の分野を有望視している。
 最後に、画面の指示に従って画面を直接操作できるタッチパネルは今後もますます普及することが容易に想像できる。より分かり易い入力インターフェイス(GUI)に加え、ボタン画面を押したときに絵から想像できる感触を指に伝えることで、タッチパネルの使い勝手は劇的に向上すると考えられる。
 また、感触と言う機能をもう一歩進めると、タッチパネルを見ないでボタンの突起(立体感覚)の有無、ボタンの境目、アイコンの形状が認識できる「ブラインドタッチ」が可能となる。
 これが実現すると、新たな操作感覚を生み出すことができる。そして、目の不自由な方もタッチパネルの操作が可能になる。
 今後もユーザーの声を大切にして、より人に優しい入力装置を目指して、商品化を進めていく。
写真3
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フォースフィードバックタッチパネル&コントローラー





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