メタルフェルールの技術動向

吉田光宏:SMK(株)コネクタ事業部第3設計部


◆はじめに
 フェルールとは、光ファイバーを固定し光ファイバー同士、もしくはレンズなどを介して光軸を機械的に接続するためのキーパーツである。一般的には、光コネクターのプラグに使用される円筒状の部材を指すことが多い。光コネクターに要求される特性は、安定した低接続損失、十分な反射減衰量ならびに長期信頼性などである。  これらの特性において低接続損失を満足させるためには、ファイバーを挿入・固定するキャピラリーと呼ばれる微細な孔の精度(:孔径、同心度、真直度など)や外形精度(:外径、真円度、真直度など)をシングルモードファイバーの場合にはサブミクロンの精度で仕上げる必要がある。  また、反射減衰量を確保するためには、PC(PhysicalContact)研磨と呼ばれる技術が確立されており、フェルールの端面を球状に仕上げ、フェルールの突き合わせにおいて、ファイバーコア部が隙間なく完全に密着接続が行われることにより、屈折率の不連続部をなくし反射を低減するものである。この際のPC研磨にはAdPC(AdvancedPC)やAPC(AngledPC)などがあり、高レベルの反射減衰量を得ようとする場合に適用されることがある。  さらに、信頼性確保のためにはフェルールの材料や、ファイバー固定のための接着剤を吟味し、必要な用途における仕様を満足する材料を選ぶ必要がある。  このフェルールには、従来からジルコニア素材のものが多く使用されているが、最近では、その他、結晶化ガラス、プラスチック、メタル(電鋳ニッケル)とその用途に応じ、いろいろと開発されており、一部実用化されてきている。  ここでは、これらの製法や特徴を簡単に紹介し、最後にSMKで開発したメタルフェルールについてその技術動向を説明する。
(1)ジルコニアフェルール
  @製法;射出成形または、押出成形後、焼結し、内外径の精密な研磨を行い、寸法精度を得る。
  A特徴;機械的特性、特に耐摩耗性に優れている。またビッカース硬度Hv1200を得る。
(2)結晶化ガラスフェルール
 @製法;線引き法により製造。内径精度は、線引き加工で形成されるが、外径面取りなどは、簡単な加工で作
  製する必要がある。
 A特徴;光ファイバーと同等の熱膨張係数を持つ。紫外線硬化型接着剤の使用が可能である。
(3)プラスチックフェルール
  @製法;プラスチックでの射出成形。
  A特徴;寸法再現性に優れ、低コストであるが、耐摩耗性はジルコニアと比較すると劣る。
(4)メタルフェルール(写真1)
  @製法;電鋳による製法であり、SUS心線に、ニッケルを積層させ、定寸切断後、SUS心線を抜く。この
  SUS心線を抜くことで、内径の仕上げ加工をせずに、十分な内径精度を得ることができる。また、外径に関
  しては機械加工により仕上げる。
  A特徴;膨大な市場実績のあるジルコニフェルールと比較して、以下の点が特徴としてあげられる。
  ・加工工程が少ない。
  ・初期光学特性(接続損失、反射減衰率/AdPC研磨時)は同等(図1)。
  ・研磨後の端面は同等形状(図2)。
  ・温湿度サイクル、繰り返し挿抜試験(500回)などで同等の信頼性を有している。
  ・金属同士の溶接に優れるYAG溶接が可能。
  ・ハンダ付けが可能。
  ・細径化、多心化が容易に対応可能。
  ・大口径化、細孔径化が容易。
  ・薄肉化が可能。
  ・金型を必要とせず、従来設備で、カスタム形状が容易に対応できる。
  写真1
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  図1
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  図2
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各種のメタルフェルール
INITIAL CHARACTERISTICS
3次元端面形状図


◆製品へのアプローチ
 ここで、メタルフェルールの特徴を生かした製品へのアプローチ(技術的観点より)について5点ほど、さらに触れていきたい。  第1に、YAG溶接を生かしての気密性の確保である。モジュール用フェルールでは、気密性確保の市場要求が多くなってきている。このモジュール用フェルールは、従来はジルコニアフェルールとSUS製または、コバール製スリーブとの圧入方式による2ピースタイプが一般的であった。  このジルコニアフェルール部をメタル(ニッケル)にすることにより(図3)、YAGでの貫通溶接が可能となった。それを全周に施すことにより、気密を保つことが可能となる。また、ファイバーとメタルのキャピラリ部はファイバーをメタライズしハンダ付けすることにより、気密が保てることも確認済みである。  これらが実現できれば、既存設備(YAG溶接機)での対応が可能となり、製品全体の製造コストの低減に期待がもてる。  第2に、容易な細孔径化対応であり、細径クラッドファイバー用フェルールの実用化が可能となる。機器の小型化を推進するにしてもファイバーの最小曲げ半径(30mm)に制約され、小型化が難しかった。  しかし、その曲げ半径を小さくするために細径クラッドファイバ(クラッド径;80μm最小曲げ半径;10〜15mm)がここ2〜3年前から開発されてきた。
 その細径クラッドファイバーに関して言えば、ジルコニアフェルールでの実現は成形条件など厳しいものがあり、非常に難しかった。  今回電鋳製法により内径φ80μmのメタルフェルールを開発した(写真2)。外径はφ1.252.5と対応可能であり、特に制約もなく通常のSC、MU、LCコネクターそれぞれに使用可能である。  第3に、接着剤レスであるファイバー内蔵型フェルールである。メタライズしたファイバーに電鋳することにより(従来は、電鋳の元になるもの、すなわち、SUS心線を抜いて使用していたが、この場合は抜かずに使用)、接着剤を使用せずファイバーとフェルールの固定が可能である。これは、ラマンアンプやDWDMなどハイパワー伝送における発熱などで、接着剤(エポキシ系)のガラス転移点(120度C)を超える温度になっても接着剤レスであることにより、接着剤の問題点を解決できるメリットがある。  現在の固定減衰器への応用展開をはじめとして、機器内でのファイバー使用において、高温化での接着剤の信頼性問題の解決が期待できる。  第4に、多芯化では、前述のSUS心線を必要ピッチに整列させて電鋳することにより可能となる。  多芯になればなるほど、それぞれのピッチ精度の確保が厳しくなるが、SUS心線の整列ピッチ精度を上げることにより対応が可能となる。また、ファイバー挿入孔の2次元から3次元化への対応やレンズとの一体型などの開発も推進していきたい。
 第5に、細径化である。前述の電鋳製法により、SUS芯線にニッケルを積層していくが、この細径化ほど電鋳製法の最も得意とするところである。細径化もさることながら、薄肉化も容易であり、要は電鋳時間(ニッケルの積層時間)が少ないほど成形が容易となる。  内径φ125μmにおいては、フェルール外径φ0.5mmまで量産可能であり、薄肉化では、フェルール内径φ1.25mm、外径φ1.8mm(最小肉厚0.275mm)まで実用化されている。  最後に、通常の光コネクター分野では、ジルコニアフェルールが市場を席巻し、安定市場を確定している。一方、モジュール用フェルールや細径クラッドファイバー用フェルールなど、従来のジルコニアフェルールでは、対応が難しかった分野への取り組み(上述)を強化し、ジルコニアフェルールの分野との棲み分けを明確にさせる必要があり、メタルフェルールならではの特徴を最大限生かした開発を進め、市場の要求に対応して行きたい。

図3
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  写真2
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モジュール用フェルールの構造
メタルフェルール端面穴径比較写真





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