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コアロスを大幅に低減したPC95材 |
◆はじめに
近年の小型、高効率および信頼性の高いスイッチング電源の急速な普及に伴い、DC―DCコンバーターやインバーターなどに使用されるトランスにも小型化、高効率化などの要求が高まっており、トランス用磁心として磁心損失(コアロス)の小さい材料が求められている。コアロスは入力された印加磁界のエネルギーの一部が熱として外部に放出される損失であるため、効率の低下や温度上昇を招く原因となる。したがってコアロスを低減することができれば、トランスの損失および温度上昇を低減することができ、トランスの小型化、高効率化が可能となる。
TDKでは各種用途の電源トランスに適した低損失MnZn系フェライト材料をラインアップしている。
今回は広い温度範囲においてコアロスを低減したPC95材を開発、製品化したので紹介する。
◆電源トランス用MnZn系フェライト
MnZn系フェライトはNiZn系などのフェライトに比べて、結晶磁気異方性定数および磁歪定数が小さく自発磁化が大きいという特徴がある。したがって、コアロスが小さく飽和磁束密度が高くなるためスイッチング電源のメイントランス用として最適である。
TDKでも、これまで微量成分の最適化や、焼成条件の精密な制御などにより電源トランス用材料の低損失化を図ってきた1) 。
一般にMnZn系フェライトの結晶磁気異方性定数k 1は温度依存性を有しており2)、3)、4)、k 1が零となる温度付近で初透磁率μiが極大となることが知られている。厳密には異なるがコアロスもμiと同様にk1が零となる温度付近で極小となる温度特性を示す。実用上、コアロスが負の温度係数を有する極小温度付近でトランスを動作させることにより、トランスの温度上昇の抑制はもちろん、熱暴走などの異常も防止することができる3) 。そのためこれまでは、結晶磁気異方性定数が零となる温度をFe 2プラス量などにより制御することにより、コアロスの極小温度が異なるフェライト材料をシリーズ化して各種用途に対応してきた。
しかしながら、自動車の電装化に代表されるように近年の電子機器は多種多様な温度条件下で使用されるため、広い温度範囲で高効率化の実現が求められている。
このような要求に応えるため、TDKではコアロスの低減と温度依存性を格段に小さくすることを同時に実現し、広い温度範囲において、コアロスの小さいPC95材を開発した。
◆広温度域低損失フェライトPC95
表1に電源トランス用フェライトの材料特性を、図1に100kHz、200mTにおけるコアロスPcvの温度特性を示す。コアロスの極小温度を各種制御した従来材(TDK製PC44、PC45、PC46、PC47材)と比較して、PC95材はコアロスの温度依存性が格段に小さいことがわかる。PC95材は、25〜120度Cの広い温度範囲で350kW/m3 以下(100kHz、200mT)のコアロスを有し(80度Cでは、280kW/m3 )、PC44材よりもすべての温度範囲においてコアロスが小さい業界トップクラス*の電源用広温度域低損失材料である。
図2に初透磁率μiの温度特性を示す。各種フェライトの初透磁率の極大温度はコアロスの極小温度と一致している。PC95材では初透磁率もコアロスと同様に温度依存性が小さいことがわかる。これは前述したようにPC95材の結晶磁気異方性定数が広い温度範囲において低減していることに他ならない。PC95では主成分であるFe、Mn、Znのほかに第4の金属イオン成分を加えることにより、結晶磁気異方性定数の温度特性を制御した。その結果、コアロスの主要成分のひとつであるヒステリシス損失を広い温度範囲において低減することが可能となった。一方、微量成分のコントロールや材料、焼成プロセス技術により結晶粒界構造の制御や高密度な焼結体を実現して、ヒステリシス損失および渦電流損失を低減した。図3にPC95とPC44材の微細組織の比較を示す。PC95とPC44材の結晶粒子径はほとんど変わらないが、PC44材に比べてPC95材は空孔が少なく高密度であることが明らかである。
図4にコアロスの周波数および駆動磁束密度Bmの依存性を示す。数100kHz以下の周波数帯域ではコアロスは周波数に比例するヒステリシス損失と、周波数の2乗に比例する渦電流損失に分離される。PC95材はすべての条件においてPC44材よりも低損失であり、ヒステリシス損失、渦電流損失ともに低減していることがわかる。
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電源トランス用フェライトの材料特性 |
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100KHz、200mTにおけるコアロスPcvの温度特性 |
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初透磁率μiの温度特性(100KHz) |
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PC95とPC44材の微細組織の比較 |
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PC95とPC44材のコアロスの周波数・・・ |
◆PC95材の応用例
PC95材は広い温度範囲において最適に近い状態で使用できるという長所があるため、通常のスイッチング電源だけではなくさまざまなアプリケーションでの使用が期待される。例えば、HEVやFCEVなどの電気自動車用DC―DCコンバーターでは駆動時の環境温度条件に加えて、駆動時の負荷の大きさにより動作する温度範囲が大きく変化する。このような用途にPC95材を使用すると電源の小型化、高効率化や車体重量の軽量化、燃費の向上に貢献できる。
図5にPC95材を電気自動車用DC―DCコンバーターのメイントランスとして実装した場合のトランスの総損失を、動作温度を考慮に入れてシミュレーションした結果について示す(グラフ中のトランスの総損失は、PC95材を1としたときの従来材の損失比で表記)。PC95材を用いることにより、トランスの総損失が約30〜40%も低減できる計算となる。また、LCDのバックライト用インバータートランスにおいては、トランスが装置内に複数個使用され、装置内のそれぞれの場所での温度バラツキが大きい。そのため広温度帯域でコアロスが小さいPC95材を用いることにより、装置全体としての発熱や消費電力を効果的に低減することができる。
TDKでは今後もさまざまな使用条件下での低損失、高飽和磁束密度化をすすめることにより、多種多様な電子機器の小型化、高効率、高信頼性化に対応していく。
*2003年4月9日現在、TDK調べ。
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PC95材を電気自動車用DC-DCコンバーター・・・ |
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