◆はじめに
三洋電子部品が1997年3月から生産・販売をしている高分子有機半導体固体電解コンデンサー“POSCAP”は、低背、低ESR、さらに安全性の高い面実装型コンデンサーとして、現在コンピューターや携帯情報端末機器、デジタルカメラなどの電源部などあらゆる電子機器に採用されている。近年、これら電子機器では高密度実装化や低背化そして小型化の要求が強くなっており、コンデンサーに対しても小型大容量化や低背化、高周波への対応など市場から強い要望がある。
当社では、このような市場の要求に応えるため、新たに独自の下面電極構造を採用し、低ESL化を図った新製品として2つのシリーズを開発した(写真)。
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高分子有機半導体固体電解コンデンサーPOSCAP |
◆TPLシリーズ
近年、サーバーをはじめとするコンピューターのCPUは、高速化に伴い大消費電力化が著しく、スイッチング電源にも大電流化と高速化に加え、高速な過渡応答特性が要求されてきている。このような回路では、コンデンサーの持つESRだけでなくESLが大きく影響し、ESLが大きいと過渡応答特性が悪くなり、その結果CPUのパフォーマンスを十分に引き出すことが困難となる。大容量・低ESRのみならずESLも低いコンデンサーを用いることにより、電源回路の過渡応答特性が大幅に向上し、CPUのパフォーマンスを十分に引き出すことが可能である。
当社では、上述のような市場からの強い要望に対応するため、ノートパソコンやデスクトップパソコンからサーバー、ワークステーションなどの次世代CPUの電源用として最適なTPLシリーズを開発した。TPLシリーズでは当社従来品のTPEシリーズの低ESR、大容量という特徴に加え、新たに独自の下面電極構造を採用することにより導電性高分子タンタルコンデンサーとしては格段に低ESL化を実現している。
1.低ESL化を実現
独自の下面電極構造を採用することにより低ESL化を実現しており、ESL値は当社従来品の約3/1の1nH以下(当社測定方法による実測値)と4532サイズのセラミックコンデンサーのESL実測値と同等以下と非常に小さくなっている(図1)。
2.ESR規格9〜15mΩMax.(100kHz)を実現
導電性高分子を電解質に用いたタンタルコンデンサーとしては最高水準の低ESR化を実現しており、ESR規格は、9〜15mΩMax.(100kY、20℃)と当社従来品と比較して約20%もESRを低減している(図2)。
パソコンやサーバー、ワークステーションなどの次世代CPUが要求するESR規格をより少ない員数で実現可能となり、実装面積の削減に貢献できる。
3.大容量
陽極にタンタル焼結体を用いているため静電容量が大きく、高さ1.8mmのD2Eサイズで330μF/2.5Vと大容量を実現しており、高速で大きな負荷変動を伴う電源回路において優れたバックアップ能力を発揮できる(図3)。
4.3,100〜3,900mArms(100〜500kY)の高許容リップル電流
最大許容リップル電流値は、3,900mArms(100〜500kY、45℃)と高許容リップル電流を実現しており、大きなリップル電流が流れるCPUの電源回路などの出力平滑コンデンサーに最適である。
TPLシリーズは、5月からサンプルの出荷を開始しており、量産は8月から月産200万個を予定している。
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ESL特性 |
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ESR・インピーダンス特性 |
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TPLシリーズ製品ラインアップ |
◆AQUシリーズ
AQUシリーズは、導電性高分子固体コンデンサーにおいて、当社が得意とする高耐圧化を展開していくなかで、低背をキーワードとした製品として、顧客ニーズのさらなる多様化に対応できる製品である。以下の3つの大きな特徴がある。まず第1に、Dサイズ(L7.3×W4.3mm)で高さH1.0mmの低背化を実現したことである。これは、電極端子構造に下面電極を採用することにより、製品モールド体積の圧縮を図り、従来POSCAPの同一サイズ品の中では最低であったD1サイズ(L7.3×W4.3×H1.4mm)より、さらに低背化が可能となった。図4にその外形寸法の概略を示す。
現在、高さ1mmと1.5mmの2種類を開発中であり、電子機器のさらなる薄型化に貢献できると考えている。
第2の特徴は、陽極体にアルミニウム箔の積層構造を採用することにより優れた低ESR特性を実現できたことである。
アルミニウム箔陽極体の積層は、コンデンサー素子単体での並列接続効果の作用を同一素子内で実現できるため、現在開発を進めている16V―10μF品で、100kYで20mΩMax.という極めて低いESRを実現可能とした。図5にそのインピーダンスとESRの周波数特性を示す。
当社TQCシリーズ16V―33uF(D2サイズ;L7.3×W4.3×H1.9mm)と比較しても、高さ寸法を半減したにもかかわらず、AQUシリーズのESRが実力で4/1もの低減を実現できた。
ESR特性は使用するコンデンサーの個数を決定する重要なパラメーターであり、設計時のコンデンサーの員数減により、実装面積のさらなる省スペース化が可能となる。
3番目の特徴は、高周波域での優れた低ESL特性である。下面電極構造を採用しているため、内部コンデンサー素子から電極までの引き出し分(インダクタンス分)が低減され、その効果によりMヘルツ帯で1nH以下(当社測定方法による実測値)の低ESL化が可能になった。図6に示すように、ESL特性は1nH以下となっており、高周波ノイズの除去効果を大いに期待できる。
現在、開発を進めている16V―10uF(D10サイズ)の主な仕様を表1に示す。カテゴリー温度範囲や耐久性など、現在量産中である当社の高分子有機半導体固体電解コンデンサー“POSCAP”の高耐圧TQCシリーズ(16〜25Vを量産中)と同等性能を維持しながらも、ESRやESLの改善が可能となっていることがわかる。
このように、1mmという極めて低背で、16Vもの高耐圧においても10uFもの静電容量を確保でき、しかも優れたESR特性やESL特性を持つAQUシリーズは、薄型・小型化が特に要求されている、LCDモニターなどのLCDバイアス電源用やノートPCなどのDC/DCコンバーター入力側などへの採用を狙っている。現在、D10サイズの開発を中心に行っており、量産は2003年10月開始を予定し、月産500万個となっている。なお、サンプル出荷開始は2003年7月である。
また、今後、さらなる高耐圧・高容量化を目指し、表2のようなラインアップを検討中であり、高耐圧を必要とする情報関連機器、民生用電子機器へのさらなる採用を目指していく。
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外形寸法 |
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インピーダンス・ESR特性 |
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ESL特性 |
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16V10μF品の主な仕様 |
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AQUシリーズ製品ラインアップ |
◆最後に
今後、導電性高分子コンデンサーは、小型大容量と低背化そして高周波低インピーダンス化がますます進むものと思われる。これらを実現する上でコンデンサー外装ケースに対するコンデンサー素子の容積効率の向上や低ESR化、低ESL化を図るためには下面電極構造が最適である。しかし、下面電極構造のコンデンサーは新しい商品であり、市場での認知度も低く、また構造上ハンダフィレットができないことがユーザーに受け入れられにくいという問題がある。しかし、当社ではそのような問題を考慮し、コンデンサーの側面に電極端子が露出する構造を取っており、ハンダ付け時には完全なフィレットレスとはならない設計としている。当社では、この下面電極構造を採用した高性能コンデンサーのメリットをユーザーに訴求し、市場で認知されるように働きかけていく所存である。
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