はじめに
電子機器の動作速度の向上、高機能化、小型化などによりノイズの問題は深刻化している。一方、短期間の製品化、モデルチェンジにより、ノイズ対策も短時間で行う必要性が増している。このようなことから最近では設計段階におけるプリント基板の設計によりノイズを抑制する努力がなされている。しかし、基板サイズ、コスト、納期などの制約により、基板の設計による対策のみではノイズ規制をクリアすることは困難である。従って、ノイズフィルターなどのノイズ対策部品の使用、シールディングなども含めた総合的対策が必要である。
今回は、ノイズフィルターの使用方法について基本的な考え方と、その一例を紹介する。
◆フィルターによるノイズ対策
ノイズの発生とその対策は、問題となっているノイズごとに、図1のようにノイズの発生源、伝搬、放射源と区別して考えることが有効である。
一般にデジタル回路の場合、それぞれについて以下のように考えることができる。
発生源 デジタル信号の急激な立ち上がり/立ち下がり、大容量・高速ICの電源デジタル信号に含まれる高調波、ICの動作によって発生する電源電流の脈動。
伝搬 配線パターンによる直接的な伝導、共通インピーダンスによるグランドの変動、クロストークなど。
放射源 配線パターン、グランドプレーン、筐体、ケーブルなど。
従って、対策を行う際にも、それぞれについて最も有効な対策を検討すべきである。一例を示すと、
発生源 信号の立ち上がり、立ち下がりの遅いIC(回路)に変更する。信号電圧/電流を小さくする。ICの動作速度、消費電流の小さいものに変更する。
伝搬 ノイズフィルターを挿入することにより、ノイズ放射の原因となる高次の周波数成分が放射源に伝搬されないようにする。エンクロージャーなどにより回路をシールドする。配線長を短くしクロストークを防ぐ。グランドを1点接続にする。
放射源 信号/リターン電流のループを小さくする。グランド―アース間が低インピーダンスとなるよう接続する。筐体―グランドが低インピーダンスとなるよう接続する。
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ノイズの伝搬を抑止 |
◆フィルターの効果的な使用方法
・フィルターの選択方法
フィルターのタイプ
ノイズ対策に使用されるフィルターにはさまざまなタイプのものがあり、用途に応じて選択できることが重要である。図2に表面実装型の小型ノイズフィルターについて、弊社製品を例に用途・特徴を示す。
フィルターの特性
ノイズフィルターは、前述のように不要な高次周波数成分を除去して、放射源に伝搬されないようにするものである。従って、フィルターの特性はローパス型となることが一般的である。このことから、とくに信号のノイズ対策においてノイズフィルターを選択する際には、そのノイズ除去効果とともに信号への影響に注意しなければならない。通常信号用のノイズフィルターは、減衰量が3dBとなる周波数をカットオフ周波数と定義している。
三菱マテリアルでは、ノイズフィルターの挿入による信号への影響を小さくするために、フィルターの選択にあたってデジタル信号の周波数の3倍から5倍のカットオフ周波数のノイズフィルターを選択することを推奨している。これにより、デジタル信号中の3次あるいは5次高調波までの成分の減衰量を抑えることができ、信号の歪みを小さくすることができる。
しかし、ノイズ除去効果を最大にするため、例外的に信号の周波数とほぼ同じカットオフ周波数のフィルターを用いて良好な結果を得たケースもある。
・フィルターのレイアウト
ノイズフィルターを用いる場合、その対策対象によってフィルターの配置に留意しなければならない(図3)。
【電源のノイズ対策】
ここでいう電源のノイズとは、高速動作ICの電源部に発生するノイズを意味している。高速動作のICに接続される電源ラインにはICの動作によって生じる電流の脈動と、電源ラインのインピーダンスによって、インパルス状のノイズが発生する。
この対策として、バイパスコンデンサーの代わり、あるいはバイパスコンデンサーに加えてノイズフィルターを使用する。この時、フィルターはICの電源端子およびグランド端子のできるだけ近くに接続する必要がある。また、インダクタンス成分を持ったタイプのフィルターをバイパスコンデンサーと併用する場合は、フィルターをバイパスコンデンサーの電源側に配置すべきである。
【機器内部から直接放射される場合】
クロック信号、内部データ信号などを原因とするノイズが、機器内部の配線などから直接外部に放射される場合、ノイズフィルターはその発生源のできるだけ近くに配置し、発生源―フィルターまでの配線長を短くすべきである。また、ここで3端子型フィルターを用いる場合には、ノイズ成分が最短径路で発生源に戻るように留意すべきである。
【インターフェイス】
USB、IEEE1394、オーディオ、ビデオ信号などのインターフェイスにおいては、機器内部で発生したノイズが、クロストークなどによりインターフェイス回路に侵入して、機器外部のケーブルから放射されることがある。このような場合の対策においては、ノイズフィルターをケーブルコネクター部の近くに配置し、フィルター―コネクター間からノイズが侵入しないようにすることが重要である。
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表面実装型小型ノイズフィルターの用途と特徴 |
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対策対象によるフィルターの配置 |
◆使用例
ここでは、2端子型LCフィルターLZA10シリーズを用いて、クロック信号ラインのノイズ対策を行った例を紹介する。
2端子型LC複合EMIフィルターLZAシリーズは、「信号への影響を抑えつつノイズを除去可能な、使いやすいノイズフィルター」というコンセプトに基づき開発したものである。LCフィルターの急峻な挿入損失と、2端子型の使いやすさを併せ持った新しいEMIフィルターと考えている。このLZAシリーズは、内部にLC並列共振回路が構成されており、その結果、急峻な挿入損失特性を実現している。フィルターのタイプとしてはバンドストップ型となるが、ノイズ対策を行う上で十分な減衰域を持っている(図4)。
クロック信号は、周期的である、配線長が長くなることが多いなどの理由から、ノイズ放射の原因となることが多い。ほとんどの場合、クロック信号ラインにはフェライトビーズが挿入されているが、フェライトビーズを用いる方法では、クロック信号の歪みが問題となる場合が多い。
図5(a)および図6(a)はノイズ対策前のノイズ放射とクロック波形を測定した結果である。この場合、特に90―130MHzのノイズ放射レベルが大きく、この周波数帯のノイズに対して対策が必要となった。このケースでは、フィルターの挿入による立上がりの遅れが2Vにおいて10nsec以下という制限があった。
図5(b)および図6(b)は、インピーダンス120Ω(@100MHz)のフェライトビーズを挿入した場合のノイズ放射とクロック波形の測定結果である。波形の歪みは小さく、立ち上がりの遅れは問題ないが、90―130MHzのノイズの放射はほとんど減衰していない。
図5(c)および図6(c)は、インピーダンス1000Ω(@100MHz)のフェライトビーズを挿入した場合のノイズ放射とクロック波形の測定結果である。問題となっている90―130MHzのノイズは抑制できたが、波形に大きな歪みが発生し、立ち上がりの遅れが条件を満足できなかった。
図5(d)および図6(d)は、LZA10―2ACB104Mを挿入した場合のノイズ放射とクロック波形の測定結果である。波形の歪みは小さく、立ち上がりの遅れも条件を満足しており、問題となっている90―130MHzのノイズを抑制できた。
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LZA10シリーズの種類と特性 |
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ノイズ対策前と対策後の特性(1) |
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ノイズ対策前と対策後の特性(2) |
◆まとめ
以上、ノイズフィルターの使用方法について述べたが、ノイズ対策部品を有効に使用することによりノイズ対策に要するコストを抑え、製品のトータルコストを下げることが可能と考える。今後もさらに、小型化、高機能化などニーズにマッチしたノイズフィルターの製品化を行う予定である。
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