高信頼性ギアトゥ−スセンサー

福岡誠二:TDK(株)センサアクチュエータ事業部商品開発部


はじめに
 近年の急激な自動車の電子制御化に伴い、以前よりも車載用センサーの重要性が増してきている。
 車載用センサーに要求されるのは、自動車の過酷な使用環境において、温度検知・圧力検知・回転検知などの必要な機能を維持することである。そのためには、耐熱性・耐振性・耐水性などの高信頼性であることが不可欠である。
 車載用センサーの中でも回転センサーは車輪の回転数・エンジン回転数・ピストンの位置検出など、走行状況やエンジンの状態を検知し、スピード表示・点火時期制御・燃料噴射制御などを行うための基本センサーである。車載用の回転センサーを大別すると次の2種類になる。
 1つはコイルに発生する誘導起電力を利用したパッシブタイプ(アナログ出力)であり、もう1つは、半導体の磁電変換素子などを利用したアクティブタイプ(デジタル出力)である。
 近年、極低速時の検知および耐ノイズ性のニーズが高まり、急速にアクティブタイプに移行されつつある。
 ここでは、半導体磁電変換素子としてホール素子を使用した回転センサー(以下ギアトゥースセンサー)の動作原理と高信頼性に向けたTDKの取り組みおよび、今後の展開について紹介する。



◆ホール素子を利用したギアトゥースセンサーの動作原理
 ホール素子とは図1に示すように、米国のE.H.Hallにより発見されたホール効果を利用した半導体素子である。半導体に外部電源から電圧を印加し、感磁部に磁束密度B外部磁界を加えると、キャリアはクーロン力とローレンツ力を受けて外部磁界と異なる方向に移動するため、内部に式(1)のように磁束密度に比例したホール電圧VHが発生する。この電圧をモニタリングすることで磁界の強弱を検知することができる。
V H∝(K H/d)・I H・Bcosθ(1)
K H:ホール係数 d:素子厚さ I H:電流 B:磁束密度 θ:角度
 ギアトゥースセンサーでは一対のホール素子と波形処理回路を組み込んだホールICを使用するのが一般的である。基本構成は図2に示すように、鉄などの軟磁性材からなるギアに対向するようにホールIC、バイアス磁石を配置する。
 この配置でギアが回転すると、離間配置された一対のホール素子位置に位相がずれた磁束変化が発生する。それぞれの素子では磁束変化に比例した電圧が出力され、波形処理回路で電圧を差動増幅・シュミットトリガー回路を介して、出力トランジスターをスイッチングして図3に示すようなデジタル波形信号を出力する。

  図1
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  図2
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  図3
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ホール素子の動作
ギアトゥ−スセンサーの構造と配置
ギアトゥ−スセンサーの出力


◆高信頼性に向けた取り組み
 当社ではATV(おもに北米市場において農耕・狩猟・レジャーなどに用いられる四輪バギー)向けに世界トップレベルの耐環境性を備えた独自の構造設計によるギアトゥースセンサーを量産し、数多くの採用実績と長期信頼性に対する高い評価を得ている。
 図4のように、ATV(All Terrain Vehicle/全地形車)は、その名の通り、沼地や水田、砂利や小石が跳ね飛ぶ悪路、雪中など、過酷を極める環境にも対応できるように設計され、薄氷の張る厳冬の沼地にフルスロットルの高温状態で突入しても、異常なく走行できるだけの強靭な耐環境性を備える必要がある。
 ギアトゥースセンサーは、スピード検知や2WD―4WDの切替用に、検知したギア数をECU(Engine Control Unit)へ伝達する重要な役割を担っている。
 取り付け個所はエンジンやクラッチユニットであるため、高温・水没・飛来物の衝撃・振動などの過酷な環境にさらされる。耐環境性においては自動車に適用される場合をはるかに超える強靭さが求められるが、当社ではこの要求を確実にクリアしながら、センシング能力とコストの面においても大きなメリットを提供する設計ノウハウと量産体制において、独自の領域を確立している。

図4
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ATVの使用環境例


◆キメ細かなデザイン・イン設計支援体制
 現在、自動車の完成レベル・部品レベルに限らず、コストと構造に関連するさまざまな課題を乗り越える取り組みが展開されているが、ギアトゥースセンサーに対しても、それらの取り組みに迅速かつ柔軟に対応できる体制の充実が求められる。具体的にはギアトゥースセンサーに用いるホールICは2つの感受ポイントがあるが、それぞれの感受ポイントにおける磁束変化の様態がギアの間隔、溝の深さ、歯の形状、マグネット(厚み、面積、形状)、ヨークの有無、ホール素子位置など、さまざまなファクターの相互バランスで変化する。
 当社では、図5に示すように多様なギア形状に対応した豊富な磁場シミュレーションモデルを蓄積し、初期設計段階からギア形状をはじめとする各ファクターの理想的な組み合わせを提案し、迅速なデザイン・イン体制を整え、パワフルな設計支援体制を確立している。
 また、現行の量産車種についても、ジッタの改善、センシング精度の向上など、各種の改善要請はもちろん、不具合が発生するなど、迅速な対応が必要となるケースにおいても、磁場シミュレーションによる原因の早期解明とギア形状の検討、改良提案など、量産ライン直結型のキメ細かな改良支援体制を積極的に展開している。

図5
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磁場シミュレーシヨン解析


◆今後の展開
 地球環境保護の観点から、自動車分野において、平均燃費の向上と排気ガス中に含まれる環境負荷物質の一層の低減化が焦眉の取り組みテーマとなっている。四輪車を中心に進められてきた電子制御によるFI(Fuel Injection:燃料噴射)システムへの移行は、自動車の電子制御化に伴い、ここ数年の間に急速に進展した。各種センサーからの情報をリアルタイムに処理しながら、各気筒ごとに理想的な空気吸入量、供給燃料量、燃料噴射タイミングを制御するFIシステムは、従来のキャブレター方式の制御限界を払拭し、低速から高速まで、あらゆる回転領域で混合気と燃焼をほぼ理想的な状態にコントロールすることが可能となる。また、始動時や低速走行時、あるいは加速時における燃料噴射の最適化や、減速時、高速時の燃料カットなどの制御も緻密に行うことが可能となる。
 一方、構造の複雑さとコストの両面からこれまで難しいとされてきた大型・中型の二輪車用へのFI化適用も進んできている。
 このようなFI化技術の進展を背景として、二輪車に適用される環境規制も、国際的コンセンサスのもと、より厳しいクラスへのシフトが検討されている。今後は二輪車に対しても2004年11月から実施される「世界で最も厳しい」といわれる排気ガス規制「台湾四期規制」に代表されるように一酸化炭素・炭化水素・窒素酸化物などの排気量削減が厳しく求められるであろう。
 そもそもアクセルの伝達機構が繊細かつダイレクトな二輪車用エンジンのFI化には、自動車用の大型エンジンに適用されるFIシステムを上回る緻密な電子制御技術と省スペース化を図るためのコンパクトでシンプルなシステムが求められる。二輪車用ギアトゥースセンサーにおいては小型・ローコスト化の要求はもちろんのこと、高精度な電子制御FIの一役を担うカムセンサー・クランク角センサーには高精度・低ジッタ出力化が求められている。このような市場ニーズに対し、当社では高精度出力ホールICの適用及び磁場シミュレーションをフル活用した最適磁気回路設計を通して、ギアトゥースセンサーの開発・設計に取り組んでいる。将来、予想される環境規制の強化、拡大を視野に入れた次世代FI技術への取り組みを通じて、地球環境保護に貢献していきたいと考える。






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