チップサーミスタの最新技術

四元孝二:三菱マテリアル(株)セラミックス工場電子デバイス開発センター


はじめに
 NTCサーミスターは、温度の上昇に伴い抵抗値が減少する、いわゆる、負の温度係数を持つ抵抗体であり、その電気特性を利用して各種温度センサーや温度補償部品として広く用いられている。特に近年の電子機器の小型・軽量化、多機能化の進展に伴い、表面実装対応のチップサーミスターの需要が拡大してきた。対象市場としても、情報通信機器、OA機器、さらには、情報家電、医療機器、自動車関連など、新規用途が拡大、電子部品としての市場の裾野が広がっている。
 ここでは、三菱マテリアル製品を例に、チップサーミスターの最近の技術動向について紹介する。



◆製品のラインアップとその特徴
 三菱マテリアルの表面実装型チップサーミスターの製品ラインアップを図1に示す。製品シリーズとしては、高精度・高信頼タイプの「Tシリーズ」と汎用タイプの「Sシリーズ」に大別され、市場動向に対応し、小型化、高精度化、高信頼性化、高B定数(高温度係数)化、さらには環境保護の観点から鉛フリー化の方向で製品展開を進めてきた。
 図2に各シリーズの製品構造、特徴、および各製品を実現している要素技術についてまとめた。「Tシリーズ」は、サーミスターウエハーを高精度で加工するプロセス、素体表面(4面)をガラスで被覆する構造を採用しており、小型化、高精度・高信頼性化への対応という点で特徴を有する。
 一方、「Sシリーズ」は量産性の高いシート製造プロセス、内部電極を有する積層構造を採用しており、高B定数化への対応という点で特徴を有している。抵抗値品種としては、15Ω〜10MΩまで、形状としては、2012〜1005サイズ、さらには、業界最小の0603サイズまでラインアップしている。なお、端子電極としては、従来のハンダ(Sn/Pb)メッキに代わる、錫(Sn)メッキ化の技術を確立しており、端子電極の鉛フリー化への対応を完了している(全製品シリーズ対象)。
 以下、代表製品として、高精度・高信頼性対応の「TH05シリーズ」および超小型対応の「TS03シリーズ」について紹介する。

図1
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製品ラインアップ


◆高精度対応の  「TH05シリーズ」
 「TH05シリーズ」は、1005サイズで、抵抗値精度±1%に対応した高精度・高信頼性タイプの製品である。ガラスで被覆したサーミスター素体の両端にメッキ端子電極を形成した製品構造を採用しており、優れた実装性と高い信頼性を実現している(図2)。電気特性としても、結晶構造的に安定な材料を選定、緻密な組織の素体を形成していることに加え、抵抗値に影響を及ぼす素体形状の精度を確保することにより、抵抗値およびB定数の高精度化、すなわち、広い温度範囲での抵抗値精度を実現している(図3)。表1に品種のラインアップおよび、おもな仕様をまとめた。性能面では高周波特性(低容量性)や静電気放電耐圧性に優れる点も大きな特徴である。

  図2
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  図3
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  表1
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製品構造、特徴、要素技術
抵抗値偏差の温度特性
品種ラインアップおよび標準仕様


◆超小型対応の「TS03シリーズ」
 「TS03シリーズ」は、0603サイズで高B定数化に対応した超小型タイプの製品である。例えば、小型化が急速に進展している温度補償型水晶発振器(TCXO)向けとしては、小型化対応に加え、実装性、高精度・高信頼性、高B定数、低容量性の仕様を満足する必要がある。
 三菱マテリアルでは、これらの仕様を実現する製品として、ウエハー加工プロセス(Tシリーズ)および積層プロセス(Sシリーズ)を融合した新規プロセスを適用した「TSシリーズ」を製品化した(図2)。製品構造としては、内部電極を有するサーミスター素体をガラスで被覆し、両端にメッキ端子電極を形成した構造とし、性能としては「Tシリーズ」の特徴である高精度・高信頼性、低容量性、および「Sシリーズ」の特徴である高B定数化の両シリーズの特徴を併せ持つ、当社独自の製品を実現している。
 品種のラインアップ、および主な仕様を表1に、特性(抵抗値/B定数)マップを図4に示す。
 TS構造の適用により、対応可能な特性領域の拡大が可能となった。また、性能面では、超小型品で重要となるマウンター搭載時の実装性に優れている点も大きな特徴である。これは、ウエハー加工(高精度)法の適用により、良好な製品形状(寸法精度)を実現した結果である。

図4
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TS03シリーズの特性マップ


◆市場動向と応用例
 チップサーミスターの展開としては、小型化、高精度・高信頼性化、カスタム(多品種、高B定数)化の方向で進展しているが、その重要性や進展度合は各市場分野で趣を異にする。携帯電話に搭載される温度補償型水晶発振器(TCXO)向けについては、小型化が急速に進展、主流は1005から0603サイズへ変わりつつあり、さらには、0402サイズへの展開も検討され始めている。
 また、リチウムイオン二次電池などのバッテリーパック向けとしては、抵抗値精度±1%の高精度対応、静電気放電耐圧性などが必要とされ、形状としては、1608サイズから1005サイズへシフトしている。
 その他、対象市場としては、液晶(LCD)、プリンター、パソコンのマザーボード、CD・DVD用の光ピックアップ、ハードディスク、光通信用モジュールなど、新規用途への展開が進展、市場の広がりをみせている。
 とくに、製品の小型化、高精度化の進展に伴う検出精度(温度)、応答性の向上により、温度センサー素子してのさらなる展開が期待される。ここでは、応用例として、光ピックアップやハードディスクなどで使用されている温度検知の回路例を図5に示す。NTCサーミスターの場合、温度に対する抵抗変化が対数曲線的に変化するため、固定抵抗と組み合わせて出力電圧をリニア化させる回路構成で使用されている。

図5
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温度検知回路例と出力電圧/温度特性


◆今後の展開
 情報通信機器をはじめとする電子機器は、今後も小型・軽量化、多機能化、高性能化の方向で進展していくものと予想され、これら電子機器を構成する電子デバイス・部品についても、さらなる小型化、高精度化が要求されるものと考えられる。
 当社としても、高精度・高信頼性化の方向では、抵抗値精度±0.5%対応の「TH11/05シリーズ」、0603サイズで抵抗値精度±1%対応の「TH03シリーズ」、小型化の方向では、0.4×0.2×0.2mmサイズの極小品「TN02シリーズ」などの製品化を進めている。今後も市場動向を踏まえ、当社の要素技術を結集し、さらなる小型化、高精度・高信頼性化の方向で開発を進める予定である。






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