次世代通信システムUWBとその評価システム

谷田邦雄:TDK(株)テクノロジーグループ技術企画部

写真
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UWB評価用電波暗室の一例


◆UWB通信とは
 UWB(Ultra Wideband)通信は従来の無線システムと異なり、特定の周波数帯域の搬送波(キャリア波)を使わずに通信を行う新しい無線通信方式である。送受信される電力は非常に広い周波数帯域に拡散される。米国FCC(連邦通信員会)の定義ではUWB通信では比帯域幅(=周波数帯域幅/中心周波数)が25%以上または周波数帯域幅が500MHz以上の電波を利用する。
これは、従来方式の中でも、広い帯域を利用する2.4GHz無線LANの比帯域幅、0.90%に比較して非常に広く、これがUltra Wideband(超広帯域)と呼ばれる所以である。
このような広い周波数帯域に電力を分布させるためには1nsを下回る非常に短いパルス(インパルス)を利用する。現在では単独のインパルスではなく強度の異なるインパルスを組み合わせた独特のUWB信号を用いて通信を行う方法がUWB通信規格の有力候補となっている。MBOA(Multiband OFDM Alliance)では、さらにOFDM(直交周波数分割多重方式)を組み合わせた通信方式の実用化を目指している。
 MBOAが提唱する方式では表1に示したように3mの距離において480Mbpsの通信レートを実現できるとしており、高画質の動画でも複数同時にストリーミングすることが可能である。また、パソコンなどで利用されているUSB2.0の無線版であるWireless USBの物理層として、MBOA方式のUWB通信が採用されることが発表されたばかりである。微弱電力を利用することに加えて通信時間が短くなることから、Bluetoothをも下回る非常に低い電力レベルで通信が実現できる点もUWB通信の大きな特徴であり、携帯電話をはじめとするモバイル機器への実装も検討されている。

表1
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UWB通信における通信レートと距離の関係(MBOAによる)

  ◆UWB通信と他通信システムの干渉懸念
 UWB通信では、微弱な電力とはいえ非常に広い周波数にわたって信号伝送を行うので既存の無線システムと周波数を共用することになり、相互干渉による悪影響の懸念が持たれてきている。特に公的機関が使う無線システムやGPSや電波天文など微弱な電波を利用する無線システムへの影響を心配する声がある。
米国FCCでは他の無線システムとの干渉が起きないように考えられた図1のような周波数マスクを設定している。最も強度が高い周波数でもノイズの規制レベルと同等である。UWB通信の普及・促進を進める企業などでも科学的な根拠に基づいた検討によって、周波数マスクに従い、周波数の利用方法を工夫することによって、UWB通信が他の無線システムと重大な干渉問題を引き起こすことがないことを示す努力を続けている。UWB通信のように、従来とは異なる周波数の利用をするシステムでは、干渉問題についてひとつずつ理解を得ていくことが必要であろう。

図1
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米国FCCのUWB周波数マスク(室内)


  ◆UWB通信評価システム
 このような干渉問題がその実用化の議論の初期から大きな問題とされてきたUWB通信においては、相互干渉や電磁波状態などについて再現性があり、正確な測定データを得ることは非常に重要である。
地球上に数多く存在する電波源から隔離され、また、気候などの影響を避けて安定した測定を行うためには電磁波環境が整えられた電波暗室を利用することが必要である。
とくにUWB通信では非常に広い帯域で微弱な電波を利用しているため、注意深く設計された電波暗室内で専用のアンテナなどを備えた評価システムを用いてUWB通信の電波状態を調べることが必要である(写真)。
 干渉問題を議論する上では、整えられた環境中で規格や標準に則っていることが確認された通信機を用いて、他の無線システムとの干渉について実験を行うことが、他システムの利用者からの理解を得るために必要であろう。
TDKでは1968年に世界で初めてフェライトを電波吸収体として用いた電波暗室を開発して以来、高性能の電波暗室やEMC(電磁両立性)評価システムの開発を続けてきており、この分野をリードしてきた。
TDKでは培ってきた技術をベースにUWB通信評価システムを開発した。UWB通信における超広帯域、高周波、および微弱電力という非常に難しい技術的条件をクリアして測定ができるように、電波吸収体、測定用アンテナ、およびシステムを構成する各部分に細心の注意を払って設計・開発を行っている。とくに測定用アンテナは、UWB通信で利用するよりも広い周波数帯域をカバーできる新設計のアンテナを用意している。
 また、このような評価システムはUWB通信における干渉問題の検証のためだけではなく、UWB通信機やそれを構成する部品の開発にも必要なツールである。
この評価システムを用いれば、放射されるUWB信号や電磁波を正確に測定することができ、そのデータは通信機や部品の改良に役立つであろう。さらに、無線通信においては公的あるいは中立の第三者機関から、その無線機が規格や標準に準拠していることが認証されることが必要である。このような認証は決められた機関でしか行うことができず、この機関では高いレベルの評価システムを備えることが必要である。
図2のようにUWB通信の開発、普及、あるいはビジネスを進めるためにはUWB通信に最適化された評価システムが必要不可欠であり、TDKではそれを世界に先駆けて実現・提供してきている。

図2
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UWB開発、ビジネス、普及における評価システムの役割


  ◆UWB通信評価とUWB開発
 現在、UWB通信用のチップセットやそれを用いた通信機の開発が多くの企業によって進められている。UWB通信機は非常にシンプルな構成で形成されるとされており、例えばUWB通信モジュールは2〜3個のチップセットにアンテナを含む数個のRF部品、クロック、そしてコンデンサーや抵抗などの受動部品で構成されるものと考えられる。このようなモジュールではRFチップとRF部品のそれぞれの特性や、相互のマッチングが非常に重要である。
現在、RFチップや部品、あるいはそれらを組み合わせたモジュールなどの開発が急ピッチで進められている。50社を超えるUWB開発企業が加盟しているMBOAでは2004年4Qにチップセット、2005年1Qにモジュールの開発をアナウンスしている(表2)。このためUWB評価システムによる評価を行う必要性と重要性が高まってくるものと予想されており、TDKでは継続的にUWB評価の場を提供し続けていく予定である。
 また、UWB開発が進むにつれて高まるであろう評価技術に対する要求にも応えられるように、UWB評価システムの改良を進め、常に最先端の評価技術によってUWB開発をサポートしていくべく努力を重ねている。
TDKでは、電子機器のEMC評価・認証サービスも提供しており、UWB通信機に関するすべての電磁気的評価をワンストップで実現できる。さらにはEMC対策部品や低ノイズの電源も提供できる体制をとっている。

表2
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UWB通信の開発スケジュール(MBOAによる)


  ◆まとめ
 新たな高速無線通信方式であるUWB通信では、他の無線システムの干渉とUWB通信機の開発の両面からUWB評価システムの利用が不可欠である。TDKでは長年培った電波暗室・EMC評価システムの技術を核にUWB評価システムを開発し、その改良を続けている。今後もUWB評価システムを軸に、UWB開発や普及に貢献するために多角的に製品やソリューションを提供していきたい。


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