フェライト・ラバーボンデッド磁石(以下フェライトラバー磁石)は、フェライト磁性粉末とゴムまたは熱可塑性エラストマーから成る可撓性(柔軟性)を持った磁石であり、コストパフォーマンスに優れている(写真)。
TDKでは、フェライトの焼結磁石だけではなく、ラバー磁石についても高磁力化および高機能化を追求した開発を続けている。本稿では、おもに小型モーターに用いられるフェライトラバー磁石について、開発動向を交えて述べる。
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フェライト・ラバーボンデッド磁石 |
◆フェライトラバー磁石の用途と特徴
現在、産業機械・自動車・データストレージ機器・OA機器・家電・AV機器などのあらゆる分野の製品に、モーターが多く搭載されており、それらモーターの形状やスペックに合わせた各種の永久磁石が使用されている。大型・中型で高トルクが必要なモーターには異方性フェライト焼結磁石と希土類焼結磁石、小型で高トルクが必要なモーターには、希土類焼結磁石や希土類ボンド磁石が主に使用されている。
一方、小型で比較的トルクの低いモーターには等方性のフェライト焼結磁石やフェライトラバー磁石が使用されている。
とくにコストが重視されるモーターでは、磁石そのもののコストおよび磁石組み込み性のメリットからフェライトラバー磁石が多用されている(図1)。
フェライトラバー磁石は、DVDやVTR、オーディオ、カーエアコンのルーバー用モーター、PCのファンモーターなどに用いられており、モーター以外の用途ではプリンターや複写機などがある。身近な製品では、自動車の若葉マークのステッカーや冷蔵庫のドアパッキン、玩具、雑貨、健康器具があり、テレビやディスプレイのビーム補正用などにも使用されている。
フェライトラバー磁石の原料であるフェライト粉は、金属磁性粉に比べて安価であり、さらに柔軟性を持つことから、切断、切削、打ち抜きなどの方法で所望の形状への加工が容易である。
焼結磁石では高コストとなる複雑形状や長尺物が低コストで実現でき、形状の自由度の幅が広いという点もフェライトラバー磁石の大きなメリットの一つである。
最近の磁石に対する要求は、他の電子部品と同様に、「より小さいスペースで、より強い磁力を」という「高性能化」と、「より安く、より強い磁力」という「高コストパフォーマンス」の2極化が進んでいる。その中でフェライトラバー磁石は、コスト面で最も魅力ある磁石として位置付けられる。
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ラバー磁石の組込み方法 |
◆製造方法
フェライトラバー磁石の製造方法は、概ね次の3段階からなる。(1)フェライト磁性粉とゴムおよび添加助剤との混合(2)成型(押出しまたは、カレンダーロールなどによる圧延)(3)製品形状に切断加工。
フェライトラバー磁石は、その成型方法よって大きく2つに分類される。磁石の成形では機械的または磁気的に、磁性粉の磁化容易軸方向を揃える(配向する)必要がある。この手法として、カレンダーロールなどで、成形体を圧延することで機械的に配向を得る方法(図2※)と、押出し成形のときの口金出口付近に磁場を発生させて、磁気的に配向を得る2つの方法(図3※)がある。前者は薄いシート形状の製品に適しており、後者は円筒や扇形など複雑形状に適している。
ラバー磁石で使用されるフェライト粉の多くは、磁気エネルギーの高いSr(ストロンチウム)フェライトが用いられている。そのフェライト粉は、適用する成形(配向)方法によって、異なる性状のものが使用されている。圧延成形で使用されるフェライト粉は、外力による一方向への配向が容易な形状である。すなわち磁化容易軸が短い扁平な形状で細かい粒子が多い。一方、磁場押出し成形で使用されるフェライト粉は、磁場による配向が容易なように、不定形をなしている。
このフェライト粉と混合するバインダーは、主にニトリルゴム、アクリルゴムなどの合成ゴムまたは、塩素化ポリエチレンなどのエラストマーが使用されており、またいくつかの樹脂を混合する場合もある。
これらのバインダーの性状は、磁石製品の機械的・物理的特性へ大きく影響するため、各用途・目的に応じて最適なバインダーが使用されている。さらに、生産性向上や製品の高強度化を目的として、種々の添加助剤が選ばれる。
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圧延成型 |
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磁場押し出し成型 |
◆高性能化
磁石の性能を示す指標として、最大磁気エネルギー積(BHmax)があり、フェライトラバー磁石は、希土類焼結磁石に比べて約40分の1、フェライト焼結磁石に比べても約4分の1程度である。ボンデッド磁石の磁気特性を要素分解すると、以下のようになる。
(磁石の残留磁束密度)=(磁性粉の飽和磁束密度)×(磁性粉充填率)×(配向度)。
ボンデッド磁石の主要磁気特性である残留磁束密度(Br)は、上式左辺の3項目の掛け算で表記できる。ボンデッド磁石では、磁石に含まれる磁性粉の飽和磁束密度と磁性粉の充填率を乗じた値が成形される磁気特性の上限値となる。現在ラバー磁石に使用されるフェライト粉は、主にSrフェライトで、その飽和磁束密度は約455mTとほぼ理論値(460mT)に達している。フェライトラバー磁石の高磁力化のための要素は、第2、3項の充填率と配向度の向上と言える。ボンデッド磁石は、樹脂やラバーのバインダーの体積分だけ、元の磁性粉の磁気特性よりも磁束密度が低下してしまうため、この磁性粉の充填率を高めることが磁気特性の向上への有効な手法の1つである。しかし、磁性粉の充填率が高いとラバー磁石のメリットである柔軟性が著しく損なわれ、強度が低下する。
フェライトラバー磁石の高特性化は、多くの磁性粉を詰め込みながら、製品強度を満足することと言える。また、磁性粉の配向度向上についてもさらに検討の余地がある。
一方、高特性化だけではなく、高機能化も要求される。小型モーターの中でも、ファンモーターやDCブラシレスモーターなどに使用される磁石は、4極以上の多極着磁をして使用される。着磁極数が多くなると、着磁ヨークの巻き線スペースの制約などで十分な着磁磁場を発生できないことがある。TDKはこれまで800kA/m程度の十分な磁場で着磁することにより、高い保磁力を得るフェライトラバー磁石を提供してきた。高い保磁力を持つことは、低温減磁に強く、経時変化が少ないという利点がある。
これに対して比較的低い着磁磁場でも、十分な磁束密度を得ることのできるフェライトラバー磁石BQL15を2002年5月から製品化した。磁性粉の検討などにより、BQL15は、低い着磁磁場(240kA/m)で得られる磁束密度が、従来の当社製品BQC14よりも約60%高い着磁特性を有している(図4)。
着磁特性の異なるフェライトラバー磁石のラインアップにより、求められる磁束波形への対応の幅もさらに広がった(図5)。
さらなるモーターの小型化、高出力化のために、フェライトラバー磁石の高特性化、高機能化の開発を、低コスト化と合わせて継続している。
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磁場特性比較例 |
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フェライト・ラバー磁石の磁気特性分布 |
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