◆はじめに
近年、携帯電話に代表される無線通信技術の飛躍的な進歩とともに、多岐にわたる無線データ通信ビジネスが大きく開花した。それに伴い情報端末機間、あるいはそれらと周辺機器をつなぐ近距離無線通信への需要も高まっている。その傾向はオフィスや開発現場、製造・流通などの業務用途にとどまらず、さらには一般家庭内や公共スペース、乗用車内などでの個人利用を目的としたものにまで拡大している。
そこで無線LAN、BluetoothなどGHz帯の通信規格が注目されている。一方、これまで音声通信での利用が中心であった300―500MHz帯域の微弱無線局および特定小電力無線局も再び脚光を浴びている。いずれも免許不要であるため、容易に無線通信システムを導入することが出来るからである。
三菱マテリアルは無線機器に内蔵可能なアンテナとして300―500MHzの帯域をカバーするMZAシリーズと、1.9―2.4GHz帯を中心としたAHDの2つのシリーズ製品を販売している。
それぞれの応用分野で最適化されたこれら2つの製品群は、高い性能と信頼性で各種無線機器の小型化や高性能化に貢献している。
◆アンテナ性能と特徴、その応用例
MZAシリーズ
MZAシリーズは三菱マテリアルが開発したIPベースの無線インターネットシステム“SWIFTcomm”(SmartWirelessInternetforFieldTeamwork
Communication)の無線端末用アンテナとして製品化した、表面実装型セラミックアンテナである。ニューヨーク・マンハッタン地区と金沢市でフィールド試験を実施したが、特にマンハッタンでは林立する摩天楼の間を走行する車中においても高い通信性を確保し、その優れたアンテナ性能を実証した。
性能と特徴
微弱無線、特定小電力無線はそれぞれ315MHz、430MHzと波長が1m近くのキャリア周波数を使用するため、λ/4ホイップアンテナを用いた場合には、それぞれ約240mm、170mmの長さが必要となる。
したがってアンテナの小型化が機器小型化のキーポイントであると言える。
MZA1603は寸法がL×W×T=16.0×3.0×1.5mmとホイップアンテナの1/10―1/15以下のサイズだが(写真1)、実装条件によってはλ/4ホイップアンテナと同等、もしくはそれ以上の利得を実現している。
図1、図2はアマチュア無線機器にMZA1603アンテナを実装した時のVSWR特性と、そのときの放射パターンである。
ホイップアンテナ同等の高い利得と、無線通信機に必須である無指向性を実現している。
これらは、チップアンテナ材料と構造設計技術、およびチップアンテナ周辺の回路技術によるものである。
また、表面実装型であることから、この周波数帯用途として代表的なλ/4ホイップアンテナもしくはノーマルモードヘリカルアンテナと比較すると、組み立てコストの飛躍的な軽減が可能となる。
応用例
300Mヘルツ帯の微弱無線、400MHz帯の特定小電力無線ともに、音声通話、データ伝送、テレメータ、テレコントロールなどが主なアプリケーションであるが、MZA1603アンテナは、テレメトリング機器および車載のテレコンコントロール機器に現在採用されている。
特に車載関係では、最近の車盗難事件の多発との状況を背景に、今後はスマートエントリーなどのアプリケーションへの応用が期待される。
AHDシリーズ
AHDシリーズは小型で表面実装が可能な機器内蔵型アンテナとして1999年に販売を開始した。以来、AHDシリーズは種々の用途で採用され、その実績により2000年6月には他社にさきがけ、アンテナメーカーでは世界初のBluetoothソリューションプロバイダーとしてErics―son社から認定された。
性能と特徴
AHDシリーズは、2.4GHz帯(ISM帯)で使用されるBl―uetoothや無線LAN用途向けに開発を開始し、現在では1.5―5GHz帯をカバーする製品をラインアップしている。モノリシックなセラミック基体の表面に導体パターンを形成した細長い構造で、小型機器の基板端に無駄のない実装を可能としている。
主力製品であるAHD1403シリーズは長13.5×幅3.0×厚0.8mmで、より小型化したAHD1103(10.5mm長、幅・厚は同じ)と2形状を標準的に取り揃えている(写真2)。
図3、図4に通信用モジュール(22×50mm)に搭載したAHD1403―244STシリーズのVSWR特性と放射特性を示す。
VSWR≦2での帯域は約160MHz、YZ平面で無指向性を示し、この面での平均利得は約―5dBdである。小型チップであるにもかかわらず、近距離無線通信に十分な性能を有している。また、AHDシリーズは下記の特筆すべき特徴を有している。
(1)高い信頼性
シンプルな構造のため、機械的強度・耐環境性に優れ高い信頼性を誇る。一般的な自動機による実装が可能で、アセンブリーの信頼性も高い。発売開始から現在に至るまで、アンテナに起因する故障事故は一件も発生していない。
(2)チューニングが容易で外部マッチング回路が不要
アンテナは搭載される基板のサイズや形状、近接部品などの周囲環境に影響を受けるため、搭載される製品ごとにチューニングが必要となる。AHDシリーズは表面導体パターンを変更することで周波数や入力インピーダンス特性を調整でき、チップインダクターやキャパシターなどの外部マッチング素子を必要としない。
さらに、周波数と入力インピーダンスについてシリーズ化した製品群を準備することで、チューニングの迅速化を図っている。
応用例
現在AHDシリーズはPHS帯や2.4GHz帯を利用したPC用の無線LANカードやヘッドセット、USBドングルなどのBlu―etooth製品と、おもに情報機器に応用されている。
さらに、任天堂ゲームキューブのワイヤレスコントローラーのようなアミューズメント製品へも搭載され、その応用範囲が広がっている。
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表面実装型セラミックアンテナMZAシリーズ |
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MZA1603のVSWR特性 |
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MZA1603の放射パターン |
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AHDシリーズ |
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AHDシリーズVSWR特性例 |
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放射特性例 |
◆ユーザーサポート
三菱マテリアルのチップアンテナを搭載いただいた製品の通信機能を最高のものとするために、ユーザー製品の回路基板設計時からアンテナ位置と周辺の推奨設計を提示している。また、試作機から製品実機に至るまでのキメ細かなチューニングなど、充実したサポート体制でアンテナ設計と調整に伴うユーザーの負担を解消している。アンテナ評価・設計システムとして、電波暗室、近傍電磁界評価システム、3次元電磁界シミュレーターを保有しており、ユーザーに最適なソリューションを提供する。
◆今後の展開
今後とも、さまざまな分野で無線によるデータ通信のニーズはさらに拡大するものと予想される。車載用途に特化したアイテムや、800―900MHz帯用、2.4/5GHzのdualバンド対応品などを開発中で、2003年中に製品リリースしていく予定である。
MZA・AHDシリーズはあらゆるシーンにおいて顧客ニーズを満足できるチップアンテナとして進化し続けていく。
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