◆はじめに
携帯電話やパソコンなどの小型化・高機能化に伴い、使用される電子部品にも小型化・高機能化が同様に要求されている。積層セラミックコンデンサー(MLCC)は、誘電体と内部電極とを交互にサンドイッチさせた構造を持つ。
MLCCの小型化に伴う容量低下は、誘電体厚みを薄くし、積層枚数を増やすことで回避できる。このような薄層化・多積層化技術によるMLCCの小型化・大容量化に向けて、各社熾烈な競争を繰り広げている。多積層化は電極使用量の増大を意味する。したがって、製造コストを下げる目的で、高価な貴金属ではなく安価な卑金属が大容量MLCCでは用いられる。内部電極に卑金属であるNiを採用したNi―MLCCが、今では大容量MLCCの代名詞となっている。
太陽誘電では、薄層化に対応する材料を開発する上で、これまでさまざまな解析技術を駆使して来た。コンデンサーのユーザーにとって材料とはある種ブラックボックスであったと思われる。ここでは、読者にあまり親しみのない材料技術に関して紹介する。
◆MLCCの製造方法と微細構造
MLCCの製造は粉末から出発する。主原料はチタン酸バリウム(BaTiO 3:以下BTと省略)という物質であり、原料粉末はこの主原料BTと各種添加物を含む。BT粉末粒子の大きさは、約0.2―0.5μmという非常に小さなものである。この粉末にバインダーと呼ばれる高分子を加えて、薄いシート状に形を変え、内部電極を印刷して数百枚重ね合わせて積層体とする。その後炉に入れて焼き絞め焼結体とし、後工程を経てユーザーに送られる。
以上が製造工程を簡単に紹介したものであるが、コンデンサーとしての機能はいうまでもなく、内部電極に挟まれた焼結体の部分が主として担う。焼結体はグレインと呼ばれる粒子が主体となるが、それ以外にも粒子と粒子の境界である粒界やグレイン以外の組成や結晶構造を有する二次相と呼ばれる粒子、あるいはポアと呼ばれる残留する穴などから構成されている。これらをひとまとめにして微細構造と呼ぶ。
大容量Ni―MLCCの代表的B特性では、ほとんど粒成長が起きないように、組成およびプロセス設計がなされている。グレインの大きさは出発原料粉末の大きさとほとんど等しい。B特性ではコアシェル構造という大変興味深い構造が観察できる。
図1に典型的なコアシェル構造を示す。粒子の中央部(コア)は純粋なBTからなり、縞模様が観察できる。コアを囲む部分(シェル)はBTと添加物が反応した生成物である。したがって、シェルは純粋なBTではなく、縞模様は観察されない。一見、この粒子の回りを囲んでいる粒子はコアシェル構造でないように思われる。しかしながら、観察の仕方を工夫することによって、実に87%以上の粒子がこのようなコアシェル構造から成り立っていることが分っている。これは400粒子を統計的に処理して得られたデータである。
微細構造の設計は薄層化に必須である。微細構造が信頼性を含めた電気特性を決定するためである。
前述の通り、超薄層Ni―MLCCでは内部電極間に存在する粒子の数はせいぜい3―5粒ほどしかない。そしてそれら粒子のほとんどがコアシェル構造で成り立っているとすれば、微細構造の設計とは、すなわちちコアシェル構造の設計に他ならない。
太陽誘電では、上記のような考えの下、微細構造設計にこだわり続けて来た。現在では、出発BT粒子の大きさを変えることで、さまざまな微細構造を具現化できるようになった。その様子を図2に示す。
1.5μmの電極間に存在できる粒子の数は従来材料を用いると2―5粒子であった。出発BTの粒径を変化させることで、電極間に存在する粒子の数を変化させることが可能となった。
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典型的なコアシェル構造の写真 |
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微細構造設計の自由度 |
◆微細構造と電気特性の関係
微細構造に関して述べてきた。微細構造が重要なのは、微細構造によって電気特性が決定されるからだと述べた。その理由に関してここでは説明する。
コアシェル構造はB特性のような平坦な温度特性(TC)を発現させるために必要な構造である。ナノ領域での組成分析結果から、コアには添加物が存在しないが、シェルには存在することが分かっている。しかし、そのシェル中の濃度は一定していないことが、複数粒子を測定した結果確認できている。この添加物濃度のゆらぎはシェル部分のTCが図3に模式的に示すように、いろいろなピークを持った部分が重なっていることを意味している。
実際に測定されるのは、コアのTCとシェルのTCを合成した結果である。観測されるTCはコアシェル構造が安定な時にはフラットである。しかしながら、例えば焼結温度を高くしてシェルを大きく太らせるとTCが大きくなり、もっと焼結温度を高くすると、ついにはコアシェル構造が破壊され、ひどいTCに様変わりしてしまう。これらはシェルの組成や体積が変化することで引き起こされる。
このようにコアシェル構造はTCをフラットにする目的で安定に形成される必要がある。
つぎに信頼性、特に高温加速寿命に関しての微細構造の役割を述べる。解析技術の一つにインピーダンス測定がある。一般にユーザーの方々は、インピーダンス測定というと、ESRやESLあるいは自己共振点を測定するイメージを持つ方が多いと思われる。ここでのインピーダンス測定は、200度C以上の高温で、しかも1mHz程度の超低周波での測定である。直流領域に近い部分での測定を行う目的は、誘電体の寿命と関連付けるためである。
図4に2125B106のインピーダンス測定を各温度で行った結果を示す。
85‐150度Cで測定した結果は、ほとんど変化が見られなかった。しかしながら、200度Cで測定した場合には、低周波領域でインピーダンスが飽和する傾向を示した。この部分のインピーダンスから容量を計算すると、この飽和領域で著しい容量増加が起きていることが判明した。これは、低周波領域で新たな分極が容量成分に対して有効に作用できるようになったことを意味する。揺り動かす周波数が遅くなると追随できるような分極が目を覚ましたといえる。
このような高温低周波領域で得られたインピーダンス測定結果から、高温加速寿命の観点で見た等価回路を求めることができる。太陽誘電ではこの等価回路を先に述べた微細構造と関連付けることに成功した。その様子を図5に示す。電極間に存在するバルク的な要素としてコアとシェル、バルク的ではない粒界とセラミックス/電極界面の4つの微細構造成分を用いて等価回路を表現することができている。
これが正しいことの証明は、この等価回路を用いて物理現象をうまく説明できることである。この説明はあまりにも専門的過ぎるため割愛するが、事実、高温加速寿命特性を良く説明することができた。その結果、薄層Ni―MLCCの寿命特性には、主に粒界と界面が寄与していることが判明した。これら一連の解析結果を基に、薄層Ni―MLCCの寿命に関するモデルを提案した。
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コアシェル構造とTCの関係 |
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2125B106の低周波インピーダンス測定結果 |
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寿命の観点で見た等価回路と微細構造の関係 |
◆おわりに
材料的視点から小型・薄層大容量化に関して述べてきた。ここで述べてきた材料技術の高度解析技術/設計技術、積層技術の高度化によって、弊社では3225タイプ100μF品で各種アイテムのラインアップ、および、1608形状で4.7μF品などの量産化を実現している。今後も一層厚みがサブミクロンの薄層大容量Ni―MLCCの実現に向け、微細構造にこだわり続けていきたい。
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