高周波積層コイルの最新技術

望月宣典:TDK(株)
回路デバイスB.Grp.インダクタGrp.積層製品統括部技術部


◆まえがき
 昨年(2002年)は、携帯電話の高機能化が大きく進んだ年であった。小型カメラを内蔵し、液晶の画面も大型化・高精細化となり、GPSを搭載したモデルまで出現し、携帯電話は単なる言葉の伝達手段から、コミュニケーション・ツールへ大きく変わってきている。
 この多機能化に伴い、携帯電話に使用される各種電子部品、機構部品に対して、小型化・軽量化の要求は強くなってきている。
 ICなどの半導体は、パッケージの小型化、CSPなどの実装形態の対応により高密度実装対応が急速に進んでいる。また、受動部品に関しても同様であり、すでに抵抗、コンデンサーは、1608タイプ(1.6×0.8×0.8mm)から1005タイプ(1.0×0.5×0.5mm)へと移行し、0603タイプ(0.6×0.3×0.3mm)の量産化も進んでいる。抵抗、コンデンサーに比較して、構造が複雑な積層チップコイルについても、今後1005タイプから0603タイプへと小型化が進むことは確実である。
 今回は、高密度実装に対応し、TDK独自の積層構造で好評をいただいているMLK1005シリーズと、開発を終了し量産化を開始したMLK0603シリーズについて技術紹介を行う。MLK0603シリーズの外観を写真に、寸法図を図1に示す。

写真
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  図1
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高周波積層コイル「MLK0603シリーズ」
MLK0603シリーズ 形状寸法図と搭載用ランドパターン


◆現状の問題点
 移動体通信機器では、700〜2400MHzとラジオやテレビよりもかなり高い周波数の電気信号を取り扱う。これほど高い周波数では、コア材としてフェライトを使用できず、高周波特性に優れたマイクロ波誘電体材料を用いる。マイクロ波誘電体の中に3次元的に内部導体を構成することで、極小チップ形状の積層チップコイルを実現している。
 従来の積層チップコイルの内部構造図を図2に示す。この構造には大きく2つの問題点がある。
 従来構造の1つめの問題点は、実装向き(ハンダ付け方向)によりインダクタンス値が変化するという点である。インダクタンスの変化率はおおよそ5〜7%であり、許容差として±5%が要求される製品で、この変化率は非常に大きな値である。この方向性の問題に対しては1608タイプより大きい形状の高周波積層コイルでは、積層工程で製品自体に方向性マークを付けることで対策してきた。しかし、1005タイプから0603タイプへと形状の極小化が進んで行く方向の中で、このように小さい形状では方向性マークの認識エラーが起こりやすい。また、高密度実装化が進むと、この問題は致命欠陥にもなりかねなかった。方向性がある理由は積層構造の非対称性である。図3を用いて説明する。この図は、積層チップコイルをランドに、ハンダ付けしたときのイメージ図である。(a)を初期状態として、それを90。回転させると、(b)の向きになる。さらに90。回転させることにより(c)、(d)となる。積層チップコイルでは内部導体パターンが内部で対象にはなっていないので、製品の向きを変えると、実装基板と内部導体との位置関係が変わってくることがわかる。したがって、方向性の解決のためには積層体中心点より対象構造となっている積層構造を立案する必要があると考えられる。
 2つめの問題点は、従来構造では、これまで以上の高周波対応化が困難だという点である。積層チップコイルのモデル図を図4に示す。積層チップコイルの自己共振周波数は、インダクタンスLと分布容量Cによって決定される。より高周波まで対応させたい場合、すなわち自己共振周波数を高めるためには、Cを小さくすることしか方法はない。Cの発生個所は(1)導体電極間(図4中にC1で示す)(2)導体電極と端子電極間(図4中にC2で示す)の2カ所であり、(1)については導体電極間を離し(2)についてはコイル内径を小さくすれば、ある程度は解決できる。
 しかし、2GHzを超えた次世代のシステムでは、さらなる高周波化が必要であり、根本的な積層構造の見直しが必要となる。

  図2
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  図3
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  図4
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従来品の積層内部構造
従来構造品の方向性
従来構造品のモデル

◆高周波積層コイルMLKシリーズ
 MLKシリーズは、小型・軽量化を図るとともに、高度な構造シミュレーション技術と画期的な積層構造の採用により、方向性がなく、業界トップの高周波域でのQ値、自己共振周波数(SRF)を実現している。
 積層構造図を図5に示す。
 実装方向によるインダクタンスの変化を表1に示す。
 MLK構造ではインダクタンスの変化が1.5%以下となり、従来構造と比較すると大幅に改善されている。
 次に周波数特性比較を見てみる。インダクタンス―周波数特性およびQ値マイナス周波数特性の電気的特性を図6に示す。MLK構造での高周波帯域でのQ特性の向上、自己共振周波数の高周波数化がみられる。
 高周波帯域での特性が改善できた理由を図7のMLK構造のモデル図を用い説明する。先に述べたように、積層チップコイルの高周波特性は浮遊容量の大きさによって左右される。浮遊容量が小さければ高周波特性が良くなる。MLK構造では巻き上げ方向を変更したので、従来構造では値が大きかった導体電極と端子電極間の分布容量が発生しない。したがって、高周波特性が大幅に改善されることになる。
 MLK構造の高周波積層コイルは1005タイプ(MLK1005)で以前から量産していたが、このたび、0603タイプ(MLK0603)の商品化に成功した。
 自己共振周波数の高周波数化など、MLK1005の特徴は維持しつつ、積層技術の改良により0603タイプへの小型化を図ったものである。1005タイプに比較し、約80%ダウンの大幅な小型化を実現している。
 主要電気的特性を表2に示す。
 MLK1005は1.0nHから100nHまで25品種、MLK0603は1.0nHから22nHまで17品種ラインアップしており、携帯電話、無線LANなどの移動体通信機器の高周波回路部に最適な製品となっている。
 代表アイテムの周波数特性を図8に示す。
 また、本製品は鉛および鉛化合物を一切含んでおらず、鉛フリーハンダにも対応した完全鉛フリー製品である。

  図5
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  表1
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  図6
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MLK構造の積層内部構造
積層構造に依るインダクタンスの方向性
MLK構造による周波数特性比較(1005形状22nH品での比較)
  図7
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  表2
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  図8
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MLK構造のモデル図
電気的特性概要
周波数特性


◆将来動向
 携帯電話は今後とも、高機能を追求すると考えられる。高周波積層コイルについても、小型化・高性能化の要求が、さらに進むと思われる。市場ニーズに合った高周波積層コイルをこれからも開発していく所存である。






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