◆はじめに
昨年10月にNTT−DoCoMoにより開始されたFOMAは、W−CDMA(Wide―band―CodeDivisionMultipleAccess)による第3世代通信システムで、この新しい携帯電話のシステムには広帯域で温度安定性の良い中間周波段の弾性表面波フィルター(IF−SAWフィルター)が要求される。とくに、基地局に要求されるIF−SAWフィルターには、他通信システムとの干渉回避が重要で、通過域外の阻止域において十分な減衰量が要求される。 STカット水晶基板を用いたフィルター単体では、この減衰量をカバーすることが出来ず、通常2個をカスケード接続する必要がある。この時、挿入損失も2倍になるのでゲイン用のアンプを用意しなければならず、また、それぞれのフィルターに対して整合素子が必要になってくる。もし、1つのフィルターで要求仕様を満たすことが出来るならば、回路の煩雑さ、部品点数、部品装填工数、占有スペースといった問題が大きく改善され、低コスト化が見込まれることになる。ランガサイト基板を使用したIF−SAWフィルターがこれを可能にした。
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ランガサイトIF−SAWフィルター(W−CDMA基地局用) |
◆ランガサイト基板の特徴
ランガサイトは、やや大きな電気機械結合係数(k2=0.3−0.5%)と良好な温度安定性(TCD=1ppm/度C)を持つ。この2つの性格の両立は一般に困難で、それゆえ、ランガサイトはタンタル酸リチウム(LT)と水晶の中間の性格を持つという形で登場してきた。こうした特徴を持つランガサイトは、W−CDMA用の基地局あるいは携帯機用のIF−SAWフィルター基板として最有力候補となったのである。しかしながら、ランガサイト基板を最も特徴付けているのは、音波とエネルギーの伝搬方位の差を示すパワーフロー角が非常に小さく、同時に、伝搬する表面波の回折が非常に小さくなるカット面と伝搬方位を有するウエハーが存在するということにある。
回折係数γは、パワーフロー角を伝搬方位角で微分したものであり、エネルギー分散の程度を示すが、回折のない理想状態でγ=−1となる。物理的には、スローネスカーブ(逆速度面)が平面になっている部分に波数ベクトルが存在する場合である。この時、逆速度面の法線はエネルギー方位を示し、これが音波の伝搬方位にかかわらず一定になる。パワーフロー角が0に近いこと、回折係数γが−1に近いことは、後述するように音波、エネルギーとも、非常に狭い実効アパチャーを伝搬するようなテイパード・トランスデューサーからなるフィルターでは非常に重要なポイントとなる。
このようなフィルター特性にとり、好ましい基板カット―伝搬方位はランガサイトの誘電率、圧電定数、熱膨張率、弾性定数などの物質定数のもとに計算される。ここで示すW−CDMA基地局用のIF−SAWフィルターの基板には、48.5Y26.6X基板(48.5度回転Y板26.6度X伝搬)が使用されている。これはオイラー角表示で(0°、−41.5°、26.6°)となる。また、ランガサイトは、機械的強度にも優れ、焦電性もなく、化学的にも適度に安定であるため、フォトリソグラフ、ダイのダイシングなどのデバイス製造において、水晶フィルターと同様なプロセスを利用することができる。
◆ランガサイトIF−SAWフィルターの特徴
写真にW−CDMA基地局用にSAWTEK社と共同で開発されたIF−SAWフィルターを示す。パッケージのサイズは19×6.5mmである。
使用したランガサイト基板は自然一方向性(NSPUDT:NaturalSinglePhaseUnidirectionalTransducer)という性質を持つため、シングル電極から励振される音波は内在的に方向性を持って伝搬する。これは、表面波が櫛型電極によって反射されるときに位相がずれる(反射係数が虚数項を持つ)ことに関係し、一方向性の電極構造として従来開発されてきたEWC、DARTなどを直接使用するわけにはいかない。
また、阻止域で大きな減衰量を見込むには通過域のスカート特性が急峻であること、すなわち、形状ファクター(−15dBと−3dBにおける帯域幅の比)が1に近いことが必要である。この時、通過域の両側ができるだけシャープであることが肝要で、これには回折係数γが−1に近いことが要求される。
さらに、カスケード接続して使用されるSTカットの水晶に比べ、電気機械結合係数は3倍大きく、また、表面波速度は14%小さいので、ウエハー1枚から取得できるダイの個数は34%も増加する。
◆ランガサイトIF−SAWフィルターの構造
挿入損の減少や、TTS(TripleTran‐sientSuppression)は、一方向性のSPUDT(SinglePhaseUnidirectionalTra‐nsducer)構造により改善されるが、ここでは、テイパード・トランスデューサーの採用により、ランガサイト特有のNSPUDTの問題が解決されている。トランスデューサーの形状がテイパー状であるため、それぞれの電極の周期が一定でなく、波長の分散が電極に対し横方向にあり(バス・バーに対しほぼ平行)、電気的にはいくつもの狭帯域のフィルターをパラレルにつなぐことで目的の帯域を形成していることになる
したがってそれぞれの電極の曲率を変えるなど設計の自由度が大きく、通過域の傾きをなくすには、入出力のトランスデューサーのテイパー形状(外側に膨らむか、内側に絞り込むか)によって容易に調整できる。また、狭帯域のそれぞれのチャンネルが入力信号をそれぞれに応じた周波数に分割するので、位相直線性や群遅延性の改善は通常のフィルターより行いやすい。
阻止域における減衰量は、電極重みづけによって決定される。これまでテイパード・トランスデューサーでは、間引き重みづけ法とブロック重みづけ法が採用されてきた。前者は通過域隣接での大きな減衰確保に有利で、後者は全般に渡り40−50dBの減衰量を確保することができ、インピーダンス変換の機能も備えている。ここでは、これらの方法とは異なるストリング重みづけ法という新しい手法を採用している。これは、n個(奇数)のタップが連続してつながっており、間引き法での重みづけが0か1であるのに対し、ストリング法では、1/3、1/5、1/7……1/nの重みづけが可能となるので、より細かいレベルでの量子化が扱える。連続したタップには同じ1/nの重みづけが適用されるので、形状ファクターを小さくするための数百波長の長さを持つトランスデューサーに有利である。このようなフィルターでは、従来の間引き法やブロック法に比べ、最大20dBも減衰量が大きくすることが出来る。
◆ランガサイトIF−SAWフィルターの性能
今回開発したフィルターでは、入出力トランスデューサーの距離とトランスデューサー間距離の合計に対するアパチャーの比は、17:1となっている。しかし、エネルギーが集中している実効アパチャーは、さらに中央の1/15程度であるので、伝搬総距離に対する実効アパチャーの比は、250:1と非常に大きなものになる。ここでは、パワーフロー角がほぼ0で、かつ、エネルギーの回折がない非常に良い直進性が実現されている。
中心周波数、fcは約400MHzである。図1、2、3、4に周波数特性、通過域拡大、群遅延性、TTS(tripletransientsuppression)の特性を示す。阻止域での減衰量は60dBが確保され、隣接チャンネルでは70dB近くまで落ちている。また、挿入損は14dBであり、カスケード結合された水晶フィルターの場合に比べ24dBも改善されている。また、群遅延変化は、TTSや通過域にわたるうねりが原因となっているが、3.8MHz幅で、最大最小のピーク間で120nsの成績となっている。このように他の基板では実現できない急峻なフィルター特性が示されている。
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ランガサイトフィルター周波数特性 |
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ランガサイトフィルター通過域特性 |
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ランガサイトフィルター群遅延特性 |
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ランガサイトフィルタータイムドメイン特性 |
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