◆はじめに
本格的なネットワーク社会に突入した現在において、デジタル機器からのノイズは無視できない。特に媒体が小型・高機能化していく傾向にあるものは、ネットワークのなかでノイズ発生源となると同時にノイズを受けて誤動作しやすい。なかでも通信インフラが進んでいる携帯電話・ノートパソコン・PDAなどはその傾向が強く、ノイズの高周波化も顕著である。
また、パソコンのCPUにおける低電圧化・大電流化が、それらデジタル機器にも波及して来ている。そういったなかで、すべての機器に付随している電源ラインから発生または侵入する輻射ノイズに関心が高くなっている。
このような市場動向において、太陽誘電は新たにICなどの電源ライン用として、電源用積層ハイロスインダクター(BKPシリーズ)を開発した。
また、従来からある角チップビーズインダクター(FBMHシリーズ)ではノイズの高周波化に対応するため、新アイテム(FBMH1608HLシリーズ)を追加した。今回紹介する製品は機器の小型化に合わせた1608サイズのものを中心に行う。
◆電源用積層ハイロスインダクター
積層要素技術のグリーンシート工法を向上させ、内部電極の生成技術と合わせることにより、今までのAg内部電極厚膜よりも高アスペクト比のAg内部電極厚膜を形成することが可能となった。これにより大幅な低Rdcが実現でき、BKPシリーズを製品化した。BKPシリーズは1608サイズで定格電流が1Aから3Aまで、インピーダンス範囲は33Ωから390Ωをラインアップ(図1参照)。インピーダンスカーブは電源ラインに侵入または発生する広帯域なノイズを対象に、数MHzから立ち上がるものとした。これらの用途としては、パソコンのみならず、HDD、DVD、デジタルスチルカメラなどのDC電源ラインからの輻射や、それの周り込みノイズの対策。また、多機能化している携帯電話のデジタル回路間の干渉防止としても威力を発揮する。
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電源用1608サイズのビーズインダクター |
◆角チップビーズインダクター
従来のFBMH1608HMシリーズに新たに高インピーダンス品(FBMH1608HM102)と、材料特性を見直し、GHz帯域のノイズ対応が可能なFBMH1608HLシリーズを追加した。FBMHは独自の巻線構造を採用していることから、浮遊容量が少なく高周波帯域までインピーダンスが伸びていることが特徴である。また、純度の高い銀線を内部導体に使用することで低Rdc特性を実現している。そして、内部/外部導体の接続面積も大きいことから、高エネルギーに対して高い信頼性を確保している。FBMH1608HMシリーズでは今回新たに加わったアイテムにより、定格電流は0.7Aから3.5Aまで、インピーダンス範囲は47Ωから1000Ωとなった。そして、材料特性の見直しから新たに製品化したFBMH1608HLシリーズでは、定格電流は0.9Aから2.5A、インピーダンス範囲は30Ωから120Ωとした。これらの用途としては、CD−R/RW、DVDレコーダー、光ピックアップモジュールなどの高周波ノイズが発生しやすいもの。また、携帯電話や無線モジュールなどの通信周波数の漏れが発生して、内部結合しやすい機器、静電気やサージ電流の影響を受けやすいモバイル機器などにも対応可能である。
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電源用1609サイズのビーズインダクターZ特性 |
◆電源ラインのバイパス特性
ICなどの電源ラインには一般的にバイパス用またはデカップリング用としてのコンデンサーが使用されている。
これは、ICの駆動時に発生する電圧変動の抑制やDC/DC回路からのノイズを妨げるためで、電源供給の安定化を狙ったものである。ただ、今回取り上げる電源ラインからの輻射ノイズに対しては、コンデンサーだけでは不十分な面がある。図3にその結果を示す。
まず、図3−aでは1μFの積層セラミックコンデンサーだけを、電源ラインに挿入した際のバイパス特性を示す。そのとき、輻射ノイズとして問題となる周波数帯域のバイパス特性は、積層セラミックコンデンサーがもつESL(等価直列インダクター)によって弱くなってしまう。
この帯域のバイパス特性を改善するには、ESL低減が直接的手段であるが、手軽で改善効果の高い対策としてビーズインダクターを追加する方法がある。まず、今回新規に開発した電源用積層ハイロスインダクターBKP1608HS181を挿入した。ESLの影響を受けて弱くなっていたバイパス特性が広帯域にわたって改善されている(図3−b)。つぎに角チップビーズインダクターFBMH1608HM221を挿入した。高周波帯域でバイパス特性がさらに改善されている(図3−c)。最後に高周波対応の材料を使用したFBMH1608HL121を挿入した。GHz帯域が大きく改善されていることがわかる(図3−d)。
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電源ラインのバイパス特性 |
◆評価回路を用いた効果事例
セットメーカー側においてEMC部品の効果は、実際に機器に使用した際の効果を基本としている。しかし、われわれ部品メーカーではセットメーカーすべてに沿った機器を使用して、効果を示すことは不可能に近い。また、いろいろな不確定要素が絡み再現性も問題となる。一般的にはカタログなどの特性(静特性)から部品を選び、EMC対策に使用する。その場合も輻射測定に不確定要素(部品実装状態、機器の開閉、ケーブル・機器配置など)があるために、EMC部品の実力がわかりづらいケースが発生する。そのような中で、実際の使用に近く、不確定要素が少ない環境下での特性(動特性)を示すことが必要である。
そこで、今回はICの電源ラインから漏れるノイズを測定する規格であるIEC61967−6を用いて、EMC部品の評価を行った(図4参照)。この規格はマグネティックプローブ(MP)を使用したもので、今回紹介した電源ライン用のEMC部品の評価に以下の点で適している。
(1)電源ラインに実装:実際にICを駆動させるDCラインに部品を実装することで、実際の機器に近い状態での評価が可能。
(2)不確定要素が少ない:ICだけが実装された基板を使用するので、他からの影響を受けない。また、近磁界プローブを使用するので輻射ノイズよりも再現性が高い。
(3)標準化された評価方法:規格化されているので、同じ条件下での評価が可能。以上のことから、EMC部品単品での実力がわかりやすいものとなる。
図4に示す評価結果は、電源用積層ハイロスインダクターBKP1608HS600と角チップビーズインダクターFBMH1608HL600を使用したときのものである。BKPは広帯域ノイズを対象としているので、評価回路のクロックに8MHzを選択し、その高調波レベルを部品の有無で比較した。部品を挿入してない場合と比較して、挿入したときは広い帯域で高調波を低減していることがわかる。つぎに、FBMHでは高周波ノイズを対象としていることから、評価回路のクロックには高い周波数帯域まで高調波が発生するように84MHzを選択した。同様にFBMHを挿入した場合ではGHz帯域で、大きな低減効果を示している。
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評価回路を使用した効果事例 |
◆まとめ
近年における機器のモデルチェンジのサイクルはめまぐるしいものがある。ことEMC対策に関しては次々にEMC担当者がこなしていかなければならない。そこでEMC担当者は単なるカタログデータの部品選択から脱却した、実際の機器に沿ったデータを欲している。そして、今回示した部品評価はそのひとつである。
また、電源ラインのEMC部品においては、今まで以上に低Rdc・小型化・高周波化が求められていることから、それらに応じた製品を紹介した。
以上のとおり、太陽誘電ではEMC部品の提供だけではなく、セットメーカー側に立った部品評価も取り入れ、EMC対策に役立ててもらうことを目指している。
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