◆市場動向
近年、自動車は電子制御化が著しく進み、安全性・環境性・快適性などをキーワードに、今後ますます新しい電子制御システムが搭載されていくことが予想される。
また、DBW技術(Drive By Wireの略。従来の機械式リンケージを電気式リンケージに置き換えることにより、電子制御化する技術)の進化により、アクセルバイワイヤ、ステアリングバイワイヤ、ブレーキバイワイヤなどのより高度なシステムも実用化されている。これらDBW技術は、走る・曲がる・止まるといった自動車の基本性能をより高次元に電子制御化することで、安全性・環境性・快適性を向上させる優れた技術である。
一方、自動車の基本性能に関わるこれらのシステムには、今まで以上の高信頼性・高精度が要求されるため、われわれセンサーメーカーへの要求も年々厳しさを増している。
◆製品の開発背景
アルプス電気ではAV機器用ポテンショメーターで培った抵抗体・接点技術をベースに、1977年のエアフローメーターを皮切りに各種電装用センサーを提供してきた。
ここ数年、アクセルバイワイヤ用スロットルポジションセンサー(以下、アクセルバイワイヤ用TPS)の引き合いが活発化し、当社電装用センサーのさらなる性能向上に向けた取り組みを行ってきたので、その内容を紹介する。
アクセルバイワイヤとは、アクセルセンサーから検出されるアクセルペダル踏み込み量の信号と、その他センサー(車輪速、角速度など)から得た走行情報信号を元に、ECUがモーターを駆動してスロットルバルブを制御するシステムで、高精度な燃料噴射制御とトラクション制御が可能となる。
アクセルバイワイヤ用TPSは、スロットルバルブ開閉量(モーター作動角度)を検出してECUへフィードバックする重要な役割を担っており、高信頼性・高精度が要求されるセンサーである。
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各種車載電装用センサー |
◆技術ポイント
アクセルバイワイヤ用TPSの主な技術ポイントは以下の通りである。
・高信頼性
1)作動耐久性向上
・高精度
2)高精度マイクログラディエント
3)ヒステリシス低減
◇1)作動耐久性向上
長期間にわたって性能を維持し続けるためには、ポテンショメーターの心臓部である抵抗体とブラシ間の接触をいかに安定させるかということに尽きる。接触を安定させるためには、初期接触状態をいかに維持していくかが重要であり、ブラシの繰り返し摺動による摩耗粉の発生を抑えることがポイントである。
一般的に摩耗量は下記の関係式で表される。
摩耗量=定数×摩擦係数×ブラシ接触力―硬度×引張強度×伸び
当社では上記パラメーターに優れた新しい抵抗体を開発することにより、摩耗粉が少なく、長期接触安定性に優れた製品の開発に成功し、従来の機械式リンケージ用TPS比10倍の作動耐久性を実現した。
抵抗体に関する主な技術ポイントは以下の通りである。
(1)摩擦係数の低減(抵抗体形成プロセスの開発)
摩擦係数は抵抗体の表面粗さに密接に関連しており、表面の平滑化が摩擦係数の低減に大きな効果を示す。
表面の平滑化を得るために、転写による抵抗体形成プロセスを新たに開発し、表面粗度Rmax0.5μmという鏡面状態に近い表面粗さを実現することができた。
(2)引っ張り強度向上(バインダ樹脂の開発)
ブラシが抵抗体上を摺動する際、抵抗体表面はブラシによって引っ張りと圧縮の力を繰り返し受けている。このため、高温下で数百万回から数千万回の往復摺動を行うと、疲労破壊によって抵抗体表面が摩耗しやすくなる。この疲労破壊限度を高めるために、高分子設計への取り組みにより耐熱性・引っ張り強度に優れたバインダー樹脂を独自開発した(図1)。
(3)抵抗体硬度向上(添加物の選定)
ブラシと抵抗体の硬度バランスは非常に重要で、どちらかが極端に硬いと、柔らかい側の摩耗量が大きくなる。ブラシは非常に硬い材質を使用しているため、抵抗体硬度を向上させるべくあらゆる検討を行った結果、最適な硬度を有する物質を添加することにより、ブラシと抵抗体の硬度バランスを最適化した。
一方、長寿命を保証するためには常時モニターによる評価技術も重要である。従来はインターバルで出力チェックを行ってきたが、この方法だと特定の温度域・作動域で瞬間的に発生する出力ノイズを捉えることは困難である。この課題を解決するために、数msecごとのデータ取り込みと、しきい値によるNO/GO判定が可能な独自の常時モニター計測システムを製作することにより、評価精度の向上と効率化を図った。
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疲労破壊模式図 |
◇2)高精度マイクログラディエント
マイクログラディエントとは、リニアリティを微小区間で規定した規格のことである。
高精度なマイクログラディエントを達成するためには、ブラシと抵抗体の接触面が均一であることが求められる。
前述した、作動耐久性を向上するための抵抗体表面の平滑化に加え、添加物の粒経を最適化し、粒径を揃えることで抵抗体表面を均質化し、従来比1/4のマイクログラディエントを実現した(図2、3)。
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リニアリティ・マイクログラディエント規格 |
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マイクログラディエント比較 |
◇3)ヒステリシス低減
ヒステリシスとは正転/逆転時の同一位置での出力差を示す特性で、スロットル軸とセンサー回転体の結合方法に大きく左右される。アクセルバイワイヤ化による高精度な制御を実現するためには、リニアリティ、マイクログラディエントと同様にヒステリシスの低減も必要不可欠である。
スロットル軸のセンターずれがない理想状態であれば、スロットル軸とセンサー回転体(成形部品)を強勘合すればよいが、実際には0.1〜0.2mmくらいのセンターずれを許容できる構造でなければならない。
当社ではピボット構造の採用およびスロットル軸とセンサー回転体間に緩衝部材(板バネ)を介在させることにより、スロットル軸のセンターがずれた場合でもヒステリシスを最小化することが可能な製品構造を実現した(図4)。
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ピポット構造図 |
◆今後の市場動向
最近のアクセルバイワイヤ用TPSは、センサー部本体に加え、モーターに電源を供給する端子(モーター端子)を備えた形態が多く、センサー用端子(2出力4本or6本)にモーター端子2本を加えた6ピンあるいは8ピンコネクターを直結した形態が主流である。このことは、センサーハウジングの大型化を意味する。すなわち、大型ハウジングを精度良く形成する成形加工技術が今まで以上に重要になってくる。
当社では金型設計前に3Dモデルを作成し、樹脂流動のシミュレーションを行った上で、最適な製品形状・材料・ゲート位置を設計しているが、これらシミュレーション精度を向上させ、より品質の安定した製品を開発していくことが必要不可欠と考えている。
◆今後の取り組み
当社では、電装用センサーとして、TPSを含む各種接触式センサー、MR素子を応用した磁気式センサー、抵抗素子を応用した歪センサー、圧電素子を応用したジャイロセンサーを開発している。これら各種センサーのさらなる性能向上を図り、市場要求に見合った製品をタイムリーに提供していく。
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