◆はじめに
20世紀終わりから始まった高度情報化社会の発展は、21世紀に入ってもますます成長を続け、インターネット・イントラネットなど、私たちの生活から切り離せないものとなっている。また、携帯電話やパソコンなどをはじめとし、私達の身の回りにおける家電製品は、機器のより小型化、より高付加機能化へと進んでおり、最近の携帯電話では動画も見ることができるようになった。また、先日始まったサッカーのワールドカップやプロ野球などの途中経過を、どこにいてもリアルタイムに情報を得ることができる。
これらの家電製品はより一層高密度高集積化へと目覚ましいスピードで発展を続け、私たちの生活も今後より一層便利になっていくであろう。しかしその半面、機器の耐電圧の低下が問題となり、サージの影響をより受け易くなってきていることも事実である。従来では考えられなかったサージによる誤動作や機器停止が大きな社会問題となっている。
そこで今回、これらのサージから機器を防護するシリコンサージアブソーバーについて、主な特徴とその活用法を説明する。
◆サージアブソーバーの種類と特徴
現在市場に出回っているサージアブソーバーは、次の3つに大別することができ。
1.ガスチューブアレスター
2.金属酸化亜鉛バリスター
3.シリコンサージアブソーバー
これらのサージアブソーバーの特徴を表1に示す。また、シリコンサージアブソーバーについてのさらに詳しい特徴を以下に述べる。
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各サージアブソーバーの特長 |
◆シリコンサージアブソーバーの特徴
シリコンサージアブソーバーとは、P−N接合半導体のアバランシェ効果を利用したサージアブソーバーであり、おもに、通信・信号回路などの静電気や開閉サージ・雷サージ対策に用いられている。シリコンサージアブソーバーの大きな特徴は、他のアブソーバーに比べて応答速度が非常に速いことである。バリスターとの比較データを図1に示す。
ここで、応答速度に関して理想的なサージアブソーバーとは、100V/sのような立ち上がりが緩やかなサージと5kV/μsのような立ち上がりが急峻なサージとで、クランプ電圧にほとんど変化がないことである。図1からシリコンサージアブソーバーの場合、あらゆる立ち上がりのサージ波形に対しても、ほぼ一定のクランプ電圧である。一方バリスターの場合、急峻なサージになるほどクランプ電圧が上昇し、サージに対する応答性に遅れが生じている。
また、サージに対する制限電圧がフラット(図2参照)であることも、シリコンサージアブソーバーの大きな特徴の1つである。
これらのことから、シリコンサージアブソーバーは、特にサージに対して敏感な半導体素子を防護するのに最適である。
さらにシリコンサージアブソーバーの特徴は、繰り返しサージに対してほとんど劣化せず、通常時の漏洩電流が非常に小さいことである。つまり、シリコンサージアブソーバーは、適切な耐量設定をすれば、半永久的に繰り返しサージ寿命を持つサージアブソーバーである。
ここまで、シリコンサージアブソーバーの長所ばかり紹介してきたが、他のアブソーバー同様、シリコンサージアブソーバーにもいくつか短所がある。シリコンサージアブソーバーを使用する際には、以下の点を十分に考慮する必要がある。
その1つとして、内部に使用しているシリコンチップの大きさによって最大許容電力が決まっていることである。この最大許容電力とは、シリコンサージアブソーバーに非繰り返しで通電できるサージ電流値と、その時に端子間に発生する電圧との積であり、つまり、ブレークダウン電圧が高い製品になるほど、サージに対する耐力が低くなってしまうということである。また、ブレークダウン電圧が低い製品ほど、端子間の静電容量が大きくなってしまうこともシリコンサージアブソーバーの欠点の1つである。
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シリコンサージアブソーバーとバリスターとの比較データー |
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シリコンサージアブソーバーの制限電圧データー |
◆シリコンサージアブソーバーの使い方と注意点
近年の情報機器の特徴として、以前にも増して屋外で使用されるケースが目立ってきている。屋外であるがゆえに、ケーブルの引き回し距離も長くなり、電力供給ケーブル・情報通信ケーブル・アンテナケーブルなど、機器への入力系統が多くなっているために、サージの侵入する経路も多くなっている。
一般に、サージアブソーバーでサージを制限しても、その後に10mのケーブルがあると、ケーブルのインダクタンスなどにより、その制限電圧は約2〜3倍に増幅してしまう。そのため、サージアブソーバーを接続する際に注意しなければならないことは、サージの進入経路を明確にし、ICなど守りたい部品の直前に取り付けるということである。
通信回線に関するサージ対策では、進入してくるサージは、同電圧・同位相であるため、サージアブソーバーをライン−アース間に接続する必要がある。また、ブレークダウン電圧の低いシリコンサージアブソーバーほど静電容量が大きくなるため、通信周波数によっては波形が鈍ってしまうこともあるので、十分に注意する必要がある。
◆シリコンサージアブソーバーを用いた多段防護回路
シリコンサージアブソーバーで、静電気サージや開閉サージなどは単体で十分防護することができる。しかし、シリコンサージアブソーバーはP−N接合半導体を利用しているため、サージ電流に対する耐力は他のアブソーバーに比べると低くなってしまい、IEC61000−4−5などで求められている試験条件に対して、シリコンサージアブソーバー単体では耐力的に厳しい点もある。一方、バリスターなどの他のアブソーバー単体では、応答速度などの問題により、制限電圧が機器の耐電圧を超えてしまい、ICなどを破損してしまう事例も報告されている。
そのため、半導体素子など特にサージに対して敏感な製品を保護するためには、図3に示すような多段回路を構成する必要がある。ここで重要なことは、前段と後段の間に入れるインピーダンスブロックである。この定数により、後段のシリコンサージアブソーバーから前段のアレスターなどへいち早く転位させることが可能となり、高いエネルギーを持った急峻なサージをより確実に防護することができる。この多段回路がユニット化された製品も数多く用意され、最近ではEthernet・LAN10/100BASE用のサージアブソーバー(写真)も販売され始め、より高速通信に対応したタイプもリリースされている。
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多段回路構成例 |
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Ethernet・LAN10/100BASE用のサージアブソーバー |
◆今後の課題
現在市場からの要求は、すべての電子部品に共通して、より小型化への流れが大きい。しかし、それ以上に低コストがあげられる。小型・高性能はいうまでもなく、より低価格の商品を市場へ供給していくことが、私たちが新製品を開発していくうえで絶対条件であるといえよう。
また、インターネット網がますます整備されていくにつれ、GHz帯へのさらなる高速通信化が進む中で、これらに対応するアブソーバーも求められてくるであろう。
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