◆はじめに
日本国内のADSL加入者は既に300万件を超え、増加の一途をたどっている。政府が進めるeマイナスJapanプロジェクトの目標である「2005年までに3千万世帯が高速インターネット通信網に常時接続する」も実現できそうな勢いである。
ADSLサービスの価格も手ごろになり、家庭はもちろん専用線を持たないオフィスでも高速通信を体感できるようになった。ADSLに加入すると写真1のようなケース(スプリッタ)を設置することになる。
この小さなケースの中にはアナログ信号とデジタル信号を切り分ける仕組みのほか、外来のサージ、ノイズを後段のADSLモデムや一般の電話に伝えないような機能を搭載している。サージ対策部品としては、三菱マテリアルのDE37マイナス401Wが3個使用されている。このようなブロードバンド機器に使用されるサージ対策部品について、その一例をご紹介させていただきたい。
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ADSL用POTSスプリッタ |
◆POSTスプリッター用サージ対策部品
ADSLは既に設置されているインフラとしての電話回線網(Plain Old Telephone Service)を使用しながら、ダウンロード側の通信速度を高速化する技術である。通常のアナログ音声信号と高速のデジタル信号が同じ線路から入力される。POTSスプリッタではこれらを別々にして、アナログ信号は電話機などに、デジタル信号はPCなどに出力する。
送信の場合、逆にこれら2種類の信号を混ぜて出力することができる。スプリッタは宅側のみならず、電話局側にも必要であり、両者とも基本的には同様の働きをしている。
これらスプリッタにはITUマイナスT(国際電気通信連合試験規格)K.20(局側)、K.21(宅側)のBasic test conditionへの準拠が求められることが多い。同規格にはサージ試験(10/700μsec.4kVのサージを25Ωの抵抗を介して5回印加)やAC誘導試験(AC600Vを600Ωの抵抗を介して1秒間印加、これを5回繰り返す)などが含まれており、これら試験後にスプリッタが機能することが求められる。 三菱マテリアルでは、POTSスプリッタ用 サージ対策部品DE37マイナス401W(写真2)を昨年から発売し、前出の宅側スプリッタだけでなく、電話局側にも広く採用されている。同部品の特徴としては、次の通りである。
(1)1pF以下という低静電容量であり、メガビットクラスの高速通信信号を阻害しない。
(2)マイクロギャップを利用しており、サージ応答特性、絶縁特性に優れる。
(3)5mmピッチのラジアルテーピング形状で、自動実装に対応している。
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POTSスプリッタ用サージ対策部品 |
◆サージ対策部品の静電容量
一般に通信速度が速くなるほど、そこに使用される部品に対しては静電容量が小さいことが望まれる。
現状の8Mbps程度の通信速度は、ADSLモデムの性能向上などにより10Mbpsに引き上げられる可能性もある。さらにVDSL化することにより10Mbps以上になってくると、サージ対策部品の低静電容量化がますます重要となる。通信回線用サージ対策部品としては上記DE37シリーズに代表される放電管タイプのほかに、サイリスターを応用した半導体型サージアブソーバーや酸化亜鉛バリスターなどがある。電話回線で一般に用いられる動作電圧300V程度のサージ対策部品で比較した場合、それぞれの静電容量は放電管タイプが1pF以下と最も低く、半導体型サージアブソーバーおよび酸化亜鉛バリスターでは、さまざまな改良が加えられ、低静電容量タイプが紹介されているものの、数十から数百pFと比較的大きくなるため、高速通信回線への適用が難しいケースも出てきている。
◆サージ応答特性を高めた
新製品の開発動向
三菱マテリアルでは通信回線用サージ対策部品として、20年近い実績を誇るマイクロギャップ方式を利用したDSSシリーズを提供している。数十ミクロンにカットされたマイクロギャップで放電をトリガーするため、急峻な立ち上がりを持つ雷サージにもすばやく応答する。既に一般の加入者電話、モデムなどに広く使用されているが、通信機器の小型化・高速化に伴い、機器を構成する部品の耐サージ電圧の低下が問題となるケースが増えてきている。
そこで、長年にわたり培った金属表面処理技術をセラミックス素子製造に応用し、従来の構造を生かしながら、全く新しい製造技術を導入することで、サージ対策部品の最も重要な特性であるサージ応答性を飛躍的に向上させた小型サージアブソーバーDM33シリーズ(写真3)を開発した。DM33マイナス301LHはガラス管を使用したメルフタイプ(φ3.3×7mm)であり、電気特性は表1の通りである。DSSなどの現行品と同等のリード線形状(DA33マイナス301LH)も用意されている。
急峻な立ち上がりを持つ雷サージを想定した波形(1.2/50μsec.10kV)に対するサージ応答特性比較を図1に示す。これらは縦軸に電圧、横軸に時間を取っており、それぞれのサージ対策部品のサージに対する応答電圧および応答後に残留する電圧を見ることができる。
放電管タイプの現行品DSSの応答電圧は約700Vである。この場合、DSSの後段に位置する通信機器は700Vのスパイク状異常電圧の侵入を受けることになるわけである。
これに対して酸化亜鉛バリスターでは、応答電圧は約500Vであるが、応答以降、400V程度の残留電圧が確認できる。つまり後段の通信機器はサージが印加されている間、400V程度の電圧の侵入を受けることになる。
DM33マイナス301LHのサージ応答性は従来品の中で特に優れた応答性を有する半導体型サージ対策部品とほぼ同等で、1.2マイクロ秒で10kVまで駆け上がる急峻なサージに対し、約400Vで応答し、応答後の残留電圧もごく低いレベルであることがわかる。
これにより、後段の通信機器への負荷は大幅に低減されている。もちろん、マイクロギャップ方式を用いていることで、1pF以下という低静電容量や100MΩ以上という優れた絶縁性はそのままであることから、VDSL関連機器など高速通信回路に最適な製品である。
今後、これら優れた電気特性を、より小型のチップタイプも含めて製品化し、各種ブロードバンド機器のサージ対策に貢献したいと考えている。
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高速応答性サージ対策部品 |
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高速応答性サージ対策部品DM33-301LHの電気的特性 |
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通信回線用サージ対策部品のサージ応答特性 |
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