低抵抗積層チップインダクターの最新技術

望月宣典:TDK(株)回路デバイスビジネスグループ

◆はじめに
 デジタル情報機器の発展で、われわれの生活は大きく変わろうとしている。とくに携帯電話、PDA、デジタルビデオカメラ、デジタルスチルカメラなどは、小型化、軽量化、多機能化、高機能化、低価格を追求した製品が次々開発されている。このような技術の変遷は今後も続くと予想される。電子機器の回路のデジタル化、高周波化は、時代の流れであり、各機器ともに新製品の開発競争はいっそう激しくなっている。
 インダクターへの市場要求も小型、高性能が高まってきており、積層工法を用いた積層チップインダクターが脚光を浴びてきている。このような市場背景を踏まえながら、最近開発した新製品である「低抵抗積層インダクター」の開発・技術動向について述べる(写真)。

写真
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低抵抗積層チップインダクターMLZ2012シリーズ


◆積層チップインダクターのプロセス
 インダクターは、フェライトのコアに巻線された導線に電流を流すことにより発生する電磁気の作用を利用したインピーダンス素子である。この原理のためにコンデンサー、抵抗など他の受動部品に比べ構造が複雑となり、SMD化は比較的遅れていた。
 積層チップインダクターは、ワイヤの巻線を一切用いず、フェライトと導体材料をミクロンオーダーで積層するという積層集積技術を駆使して、超小型SMDを実現している。
 機械的巻き線が一切なく、積層パターンのファイン化が行えば、小型化が可能であるという大きな利点があり、小型、軽量化に向いている。



◆積層チップインダクターの種類と用途
 積層チップインダクターには、その使用用途により3つに分類できる(図1)。ひとつは、携帯電話のRF部に用いられる「積層高周波コイル:MLKシリーズ」である。数百MHz帯域と非常に高い周波数帯域で用いられる。これほど高い周波数では、コア材としてフェライト磁性体材料を使用できず、高周波特性に優れたマイクロ波誘電体材料を用いる。マイクロ波誘電体の中に3次元的に内部導体を構成することで、極小チップ形状の積層チップインダクターを実現している。
 携帯電話の小型・軽量化とともに、チップ形状の小型化は急速に進んでおり、すでに0603形状(0.6×0.3mm)のマスプロ化も行っている。形状の主流は、1005形状でありインダクタンス値は1〜100nHまでE−12シリーズで取りそろえており、鉛フリーハンダにも対応している。
 2つめは、信号用と言われている「積層チップインダクター:MLFシリーズ」である。数MHzから百MHzで使用される。コンデンサーと組み合わせて共振回路やマッチング回路、フィルター回路を構成するので、Qが高いほど良いインダクターとなる。
 MLFシリーズは、磁気シールド構造により高密度実装が可能で、Qも高く、機器の小型・軽量化に最適なインダクターである。
 現在、1608形状(1.6×0.8mm)が主流である。最近、携帯電話のIF帯域用途、セットトップボックス、チューナーなどで、インダクタンス値の狭公差(±5%)の要求が高まってきており、この要求に対応するため高性能フェライト材料の開発を行い、「狭公差積層インダクター:MLF1608−Jシリーズ」をリリースした。インダクタンス±5%保証は、フェライト磁性体を用いた積層インダクターでは業界初の製品となる。インダクタンス値は0.1〜4.7μHまでE−12シリーズで取りそろえており、鉛フリーハンダにも対応している。
 積層チップインダクターの3つめの用途は、チョークコイルとして使用される「低抵抗積層チップインダクター:MLZ2012シリーズ」である。これについて詳しく説明する。

図1
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積層チップインダクターの種類


◆低抵抗積層インダクターの開発技術
(1)製品設計  直流の信号を通し、周波数の高い交流電流の通過を阻止するのがチョークコイルである。
 この用途のため、直流抵抗は小さく、インダクタンス値は大きいほどよい。とくに、最新の電子機器では、低消費電力化、ICの低電圧化に伴い、直流抵抗の低いチョークコイルの要求が高まっている。
 インダクターに電流を流すと、損失により発熱をする。チョークコイルの場合、フェライト磁性体の損失は少ないので、損失のほとんどは直流抵抗である。バッテリーで駆動する携帯電話、PDAをはじめとする携帯機器では、損失が大きいものを使うとバッテリー寿命が短くなり、商品の魅力に影響を与えかねない。これが、直流抵抗の低いチョークコイルの要求が高まっている理由である。
 低抵抗積層チップインダクターの直流抵抗を低くするためには、内部導体の断面積を大きくする必要がある。そこで導体厚を上げる設計を行った。
(2)構造設計  導体厚を上げると電極からフェライト素体にかかる応力が大きくなり、クラックを誘発する恐れがある。このため焼成過程においてフェライト磁性体と電極の収縮特性をマッチングさせる必要があり、マッチングに優れた新規開発の電極材料を採用している。
 また、フェライトと電極材料の熱膨張係数は基本的に異なるため、独自の構造シミュレーションにより積層構造の最適化を行い、高信頼性を実現している。



◆低抵抗積層インダクターの特徴
 「低抵抗積層インダクター:MLZ2012シリーズ」は、工法の最適化、高性能フェライト材料の開発を行うことにより、業界トップクラスの低抵抗化を実現している。数十〜数百mA程度が流れる回路で、チョークコイル用途として使われることを想定している。消費電力を抑えるために、直流抵抗値を弊社従来品に比べて最大40%低減することが出来た。インダクタンス値は、1.0〜10μHまでE−3シリーズで取り揃えている。シリーズラインアップを表1に示す。
 チョークコイル用途としては、小型の2012形状であり、特にインダクタンス値4.7μH以下の3点は厚み0.85mmと薄型化にも対応している。このため小型、薄型化が要求される携帯用機器に最適である。図2に形状寸法図ならびに推奨ランドパターンを示す。
 端子電極は、Snメッキを施し、鉛フリーハンダにも対応している。
 インダクタンス−周波数特性、インピーダンスマイナス周波数特性を、それぞれ図3、図4に示す。

  表1
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  図2
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  図3
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  図4
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MLZ2012シリーズの製品ラインアップ
MLZ2012シリーズの形状寸法図とランドパターン図
MLZ2012シリーズのインダクタンス-周波数特性
MLZ2012シリーズのインピーダンス-周波数特性


◆まとめ
 デジタル携帯情報機器のニーズに合った、小型かつ低抵抗の積層チップインダクターを開発することができた。
 低抵抗積層チップインダクターの小型化・高性能化の市場要求は、強まっていくものと予想される。今後とも、市場ニーズに対応した製品を開発していく所存である。






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