近傍電磁界分布の測定技術

風間智:太陽誘電(株)EMCセンター

◆はじめに
 電子機器のモバイル化が進むつれ、携帯電話などの無線機器に起因する自家中毒のような、高い周波数における近傍の電磁界によるEMCが問題とされてきている。これに伴って、EMC問題の解析ツールとして用いられている近傍電磁界分布測定においても、高い周波数において高い分解能が要求されている。
 この要求を満足する近傍電磁界分布測定装置を、太陽誘電において開発し、高度なEMC対策手法の確立や新たな新部開発に利用している。この測定装置は、新たな電磁界センサーを用いており、近傍の電界と磁界の分布を同時に、位相情報も含み、G¥HZ¥を超える高い周波数においても測定することが可能である。この手法は、今後のEMC対策に有効な解析ツールとなると考えられる。



◆電磁界センサー
 従来のセンサーの構造によって電界と磁界を切り分けて測定するのではなく、後段の演算により電界と磁界を分離して測定することにより、高い周波数まで使用できるセンサーが実現できる。図1にその構造と動作原理を示す。センサーは同軸ケーブルが2本束ねられ、その先にループ状の電磁界検出部がある構造となっている。このループ状の部分が電界と磁界と両方のセンサーとして働く。同軸ケーブルはそれぞれコネクターを介して測定器に接続される。このセンサーの2つの出力(A、B)を測定し、そのベクトル和とベクトル差を計算することによって、検出部における電界と磁界を分離することができる。これは、電界と磁界による出力方向が異なるためである。
 電界によって、ループと同軸ケーブルのグラウンド間には電位差が生じる。この電位差によりセンサーの2つの出力においては、電界による出力電流(Ie)は同じ方向で同じ大きさとなる。ループと交差する磁束によって、ループには磁界による電流(Im)が流れる。この電流は、電界による出力と異なり、出力Aと出力Bでは向きが逆となる。この違いのために、センサーの2つの出力は異なった値を示す。この出力のベクトル和と差によって、出力を分離する。この測定には、出力のベクトル測定が必要となる。このベクトル測定によって測定される電界と磁界はベクトル量となる。  このセンサーは、多層のプリント基板を用いて構成することも可能である。3層のプリント基板を用いて作製した電磁界センサーの例を図2に示す。


図1
クリックしてください。
  図2
クリックしてください。
電磁界センサー
プリント基板を用いた電磁界センサー


◆受動回路用近傍電磁界測定装置
 このセンサーからのベクトル出力をベクトルネットワークアナライザー(VNA)を用いて測定することで、受動回路の近傍電磁界分布の測定装置が構成できる(図3)。この測定システムには3ポートのVNAを使用している。ポート1には被測定物であるマイクロストリップラインが接続され、ポート1からの出力によって、このマイクロストリップラインに電磁界を発生させる。
 センサーからの2つの出力は、それぞれポート2、3と接続され、その大きさと位相(S 2 1、S 3 1)が測定される。このS 2 1と、S 3 1のベクトル和と差で電界と磁界出力を求める。パソコン(以下PC)で、測定器とセンサーを走査するアクチュエーターを走査して近傍電磁界分布を測定する。
 この測定装置を用い、測定物をマイクロストリップラインとすることで、8Gヘルツまでの、センサーの周波数特性を測定した。 図4の結果が示すように、電界出力、磁界出力とも周波数に比例する特性となっている。このように、高い周波数までこのセンサーは使用可能である。

図3
クリックしてください。
  図4
クリックしてください。
VNAを用いた近傍電磁界分布測定システム
電磁界センサーの周波数特性

◆能動回路用近傍電磁界測定装置
 VNAを用いた近傍電磁界測定装置は、基板やシールド材料の評価に有効である。しかしながら、実際の機器からのノイズ信号の測定はVNAではできない。このため新たに3入力位相差測定装置を作製し、これを用いて能動回路の近傍電磁界分布測定装置を作製した。
 図5に3入力位相差測定装置の構成図を示す。入力信号は、ミキサでダウンコンバートされ、その信号をA/Dコンバーターで取り込み、FFT(高速フーリエ変換)を行うことで、信号の大きさと位相と周波数を測定する。このとき、ミキサのローカル信号とA/Dコンバーターのクロック信号は同じ物を用いているため、各信号間の位相情報を保って測定できる。
 この測定装置を用いることで、周波数や位相が安定していないノイズ信号でも信号出力のベクトル和と差が計算可能となる。実際に作製した、3入力位相差測定装置の測定周波数は3GHzまでとなっている。
 この測定装置を使って、近傍電磁界分布測定装置を作製した。図6に示すように、位相の基準として使用される固定されたセンサー(例えばループ磁気センサー)からの出力と、アクチュエーターを用いて移動させて電磁界分布を測定する電磁界センサーからの2出力は、3入力位相差測定装置に接続される。そしてPCでアクチュエーターと3入力位相差測定装置を制御して近傍電磁界分布を測定する。この構成により、動作している基板の近傍電磁界分布などの、能動回路の測定が可能となる。

図5
クリックしてください。
  図6
クリックしてください。
3入力位相差測定装置の構成
能動回路近傍電磁界測定装置

◆測定例
 この近傍電磁界分布測定装置を用いて、基板上で動作しているICのパッケージ上の近傍電磁界分布を測定できる。測定したICは約40MHzのクロックで動作しており、大きさは32×32mmである。このパッケージ上の近傍電磁界の分布を約1GHzにおいて、1mmステップで測定した(図7)。この測定結果は、電界、磁界の大きさの分布が位相分布と同時にリードフレームレベルの解像度で測定できていることを示している。
 その他に、この測定を用いると、EMI部品挿入による対策効果を、電流電圧の変化として具体的に把握することが出来る。これらの結果を用いることで、ICの電源回りのコンデンサーやインダクターの設計や使用方法の最適化が可能となる。

図7
クリックしてください。
ICの近傍電磁界測定結果・・・


◆まとめ
 高い周波数まで使用でき、電界と磁界を同時に測定できるセンサーを開発した。このセンサーとVNAを用いることで受動回路近傍電磁界測定装置を作製した。また、センサーと3入力位相差測定装置を用いることで能動回路測定装置を作製した。これらの、近傍電磁界分布測定装置は、近傍電界と近傍磁界の位相情報も含む分布測定を行うことができる。さらにこの測定は、従来と比較して、高い周波数における測定、高い分解能の分布測定が可能である。これによって、従来の分布測定と比較して、測定によって得られる情報量が飛躍的に向上した。
 太陽誘電では、この測定情報を活用して、効果的で効率的なEMC対策を可能とする手法の確立を進めている。さらに、この技術を活用して新たなEMC対策部品の開発も進めている。
 今後、この測定装置の特徴を生かした、さまざまな測定アプリケーションの研究も進めていく。






最新トレンド情報一覧トップページ