ETC車載器用RFモジュールの技術動向

渡辺裕文:アルプス電気(株)営業本部


写真
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ETC車載器用RFモジュール



◆昨今の市場動向
2000年4月24日から、試行運用を開始したETC(ノンストップ自動料金収受システム:Electronic Toll Collection)も、昨年3月30日から一般運用が開始された。主に3大都市圏を中心とした175料金所でのサービスであったが、昨年11月30日から全国616カ所へサービス拡大された。

今後、2002年末までに、全国の約900料金所への導入が計画されている。

ETC車載器においては、車載電装品メーカーなどから、十数機種のETC車載器が販売されている。加えて、ナビゲーションシステムへ接続可能なオプションETCユニットの展開や、ETC車載器を搭載した車種も登場している。さらに、昨年11月30日からETC期間限定特別割引が実施適用され、登録することにより、2004年6月30日までの期間限定で、高速道路の通行料金がETC使用により、割引されることになる。

こうした展開により、ETC車載器の普及台数も徐々に拡大し、昨年末に10万台を突破し、今年1月末時点で、約13万台のETC車載器が自動車へ搭載されている。

ETCの利用状況は、国土交通省道路局の発表では、日本道路公団:約18,000台/日、首都高速道路公団:約5,000台/日、阪神高速道路公団:約1000台/日となっている。現状、商用車・トラックなどの業務用車両の利用がメインと考えられるが、今後、ETC車載器のさらなる普及により、一般車両での利用も拡大することが期待される。

このETCは、ITS(高度道路交通システム:Intelligent Transport Systems)の1分野(図1参照)として、高速道路など有料道路料金所での料金所での渋滞解消、キャッシュレス化による利便性の向上、さらに排気ガスによる大気汚染や騒音の減少などへ貢献するものとして、開発された無線通信システムである。そのシステムを構成する機器としては、以下の3点となる。
(1)車載器(利用者が購入)
(2)ICカード(利用者が契約)
(3)路側器(ETC路側無線装置)

実際には、自動車にセットアップされる(1)ETC車載器と、高速道路の料金所に設置された(3)路側器(ETC路側無線装置)との間で、5.8Gヘルツ帯の電波を利用して、高速道路の料金計算に必要な情報を通信している。

これから紹介するETC用RF(高周波)モジュールは、主に自動車へセットアップされるETC車載器で使用される高周波モジュールであり、5.8Gヘルツのアンテナおよび、送受信部から変調・復調部までをモジュール化している。

このほど、アルプス電気では、当社従来製品に対し、大幅な小型化を図った第2世代となるETC用RF(高周波)モジュール(写真参照)を開発した。この第2世代ETC用RF(高周波)モジュールについて触れていきたい。
図1
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ITS:高速道路交通システム



◆製品の紹介


◇開発の背景
現在、市場へ展開されているETC車載器は第1世代にあたる。今後、ETC市場の拡大に不可欠なのは、いかにETC車載器を普及拡大させ、その利用頻度を向上させるかに掛かっている。特に、ETC車載器の普及拡大にあたり、以下がポイントとなると考えられる。
(1)ETC車載器の低価格化
(2)ETCの自動車への搭載率拡大
(3)ETCとナビゲーションシステムとの融合

上記ポイントに対し、ETC車載器に使用される部品へ求められるニーズとして、以下があげられる。
(1)主要部品の小型化
(2)主要部品の低価格化
(3)主要部品の信頼性向上
(4)主要部品の性能と品質の向上

当社は、第2世代ETC用RF(高周波)モジュールの開発にあたり、これらのニーズへの対応を目標とした。この目標の達成に対し、アナログ・デジタルTV放送用受信チューナ、DECT・CDMA・Bluetoothなどの通信用RFユニットに代表される各種高周波製品開発で、長年培ってきた高周波技術の蓄積と高密度部品実装技術などの生産技術の駆使により課題を克服し、第2世代ETC用RF(高周波)モジュールの開発に成功した。


◇ETC用RFモジュールの構成
世界的には、ETCの通信方式は大きく以下2つがある。
(1)アクティブ方式(日本方式)
(2)パッシブ方式(欧州方式)

代表的な地域の通信方式と通信周波数を表1に示す。

パッシブ方式は、ヨーロッパで採用されているが、車載器に発振器を内蔵せず、高速道路へ設置された路側器からの電波を受信後、車載器からその電波を反射しデータを送信する。

これに対し、アクティブ方式はトランシーバー方式とも呼ばれ、車載器にも発振器を内蔵、車載器と路側器が自由に電波を発射し合うことが可能である。パッシブ方式に対して、高速かつ大量の情報通信が可能で、かつ、高い信頼性の確保に優れており、多様なITSサービスでの活用が可能である。さらに国内ETCシステムは、民生用双方向通信としては最も高い5.8Gヘルツ帯の周波数を使用し、マンチェスタ符号化されたデータ信号にASK変調を掛けることにより、高速で通過する車に対し、1Mbpsの高速通信を行うものである。国内ETCシステム仕様を表2に示す。

ここで紹介する当社:ETC用RFモジュールは、国内ETCシステム用であるアクティブ方式に対応した第2世代モジュールである。

ブロック図を図2に示す。図2にあるようにETC用RFモジュールは発信器ブロック、送信ブロック、受信ブロック、送信と受信を分けるアンテナスイッチブロック、アンテナで構成されている。第2世代ETC用RFモジュールでは、送信出力:13.2dBme.i.r.p、受信感度:マイナス65dBme.i.r.p、アンテナ利得:3.5dBiを実現した。

  表1
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   表2
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   図2
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ETC Type in Wprld Wide
国内ETCシステム仕様
ALPS ETC RF Module
(Active Type)Brock Diagram


◇第2世代ETC用RFモジュールの特徴
(1)当社従来品「UGHP1シリーズ」比約50%減となる外形サイズ23.0mm(W)×50.0mm(D)×7.1mm(H)、容積8.16mlの大幅な小型化を達成し、業界最小を実現。
(2)独自のアンテナ設計/評価技術を駆使し、RF回路部とアンテナ部の最適な組み合わせを採用することで低消費電流を実現。
(3)セット開発を容易にするデジタル・インターフェイス仕様。
(4)固有の誘電体技術により、独自開発した超小型バンドパスフィルターを採用。



◆技術的なポイント
当社ETC用RFモジュールでは、第1世代モジュールから発信部周波数逓倍器(×2)、アンプ(PA)、変調部、アンテナスイッチなどを高価なMMICは使用せず、ディスクリート部品で構成。さらに、高周波シミュレーション技術を駆使して、これらディスクリート部品での回路設計を行っている。加えて、第1世代モジュールに対し、以下の内容について大幅な見直しをかけた。
(1)変調回路部の回路構成を大幅に見直し、回路を簡素化。
(2)発信回路部後段フィルター部の見直し。
(3)アンテナスイッチ回路部の再設計による小型化。
(4)従来別ピースであったアンテナの一体化と小型化。
(5)回路レイアウトの簡素化。
(6)使用部品の小型化と実装密度アップ。
(7)部品の両面実装化。

上記内容に対し、高周波回路設計技術および、高周波回路シミュレーション技術、アンテナ設計・評価技術を駆使し、第2世代ETC用RFモジュールをハイパフォーマンスに完成することができた。当社ETC用RFモジュールの製品バラエティとして、車載器用アンテナ内蔵タイプおよび、今後ナビゲーションへの展開を考慮したアンテナセパーレートタイプのETC用RFモジュールを揃えている。表3に第2世代ETC用RFモジュール:UGHP4タイプの主な仕様を示す。

表3
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ALPS ETC RF Module(Active Type) Specs



◆今後の展開
一般運用が開始され、約1年が経過し、業務用車両への搭載が本格化し、さらに一般車両への搭載拡大が期待される。ETC車載器についても、次世代モデルの投入、ナビゲーションシステムとの融合、自動車へのETC車載器の標準搭載が展開されることが予想される。このETC車載器市場に対し、第2世代ETC用RFモジュールを提供し、ETC車載器市場を活性化の一翼を担いたい。

さらに、2000年4月に5.8Gヘルツ帯のDSRC(DedicatedShortRangeCommunication:狭域通信)が法制化され、車と道路を双方向通信で結び付ける情報通信インフラとして期待されている。このDSRCを使用した物流・バス・タクシーなどの運行管理システムや駐車場、ドライブスルーショッピング、ガソリンスタンド、カーフェリーなどの料金決済システムなどの新しいITSサービスの実用化に向けた取り組みが始まっている。

このDSRCへ対応した小型・高性能な次世代RFモジュールの開発を進め、よりハイパフォーマンスなETC/DSRC用RFモジュールを提供していきたい。




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