◆はじめに
情報化社会と呼ばれて久しい昨今であるが、その取り扱われる情報量は、音声から動画といったように幅広く、しかも膨大になっている。これに伴い情報通信機器は、その取り扱う情報量に合わせて、より高性能、高精度化している。さらには、全く別の機器の機能をも併せ持つような多機能化を遂げている。そして、このように多くの機能を今までと同じサイズの機器に組み込むために、各機能に対してはより小型化が要求されている。このような背景から、受動部品であるコンデンサーに対しては、小型でより高容量、低ESR(等価直列抵抗)、低インピーダンスという特性が強く求められている。太陽誘電の積層セラミックコンデンサーでは、小型高容量タイプにおいて、0603形状のB特性で0.01μFを実現。そして大容量タイプではB、F特性ともに100μFを商品化し、ニーズに対応している。
一般的に、強誘電体を使用するB、F特性はバックアップ、バイパス、デカップリングなどの回路に使用されている。しかし、フィルター、共振、カップリング、時定数回路などの、よりデリケートな回路では、電圧変動に対して容量が変化するB、F特性が使用されることは少ない。そのような回路には通常、フィルムコンデンサーが使用されている。しかしながら、フィルムコンデンサーは、その材質ゆえ実装時の熱に弱いことや、誘電率が小さいために素子サイズが大きくなる、といった問題点があった。
当社では、この課題を解決すべく、フィルムコンデンサーの優れた電気特性を有しつつ、セラミックコンデンサーの優れた信頼性と実装時の耐熱性を併せ持つ、超低歪積層セラミックコンデンサー(以下CFCAP(R) と略)を開発した。
このCFCAP(R) は、DCバイアスや温度による静電容量変化が小さい、誘電損失が小さい、ESRが低い、絶縁抵抗が高いという電気特性を有している。したがって、前述のデリケートな回路において要望される特性を満足し、機器の最適化に貢献できるものと考え、フィルムコンからの置換提案を行っている。今回、このCFCAP(R) の特徴やその用途に関して解説する。
◆CFCAP(R) の特徴(材料、構造 および電気特性に関して)
◇材料およびその技術に関して
CFCAP(R) の誘電体材料は、図1に示すようにジルコン酸カルシウム系の常誘電体を使用している。この常誘電体材料は、所望の電気特性を満足するために、これまで当社で培われたF、B特性などの高誘電率系誘電体材料の技術をベースとして、新規開発を行ったものである。以下に、許される範囲内で具体例を記述する。
1)材料技術:積層コンデンサーの大容量化を達成させるには、誘電体の1層厚みを薄くしていく必要がある。このため材料技術としては、粉体微粉化、高分散化、均一化などの粉体ハンドリング技術の高度化を行った。特に、誘電体主成分(ジルコン酸カルシウム)は、1400度C程度で焼結する難焼結材料である。
一方、電極に使用しているNiは1100度C程度で焼結するため、誘電体材料との焼結温度差を小さくし(収縮カーブを近づける)積層構造体の構造欠陥を抑制する必要があった。これに対しては、所望の電気特性を損なわないよう組成(主成分、焼結助剤成分)を最適化することで低温焼結化を達成し、課題をクリアした。
2)分散、シート化技術:高精度に仕上げられた材料をより均質なシートにするため、バインダー成分などと十分に均一混合する必要がある。特にジルコン酸カルシウム系材料は、チタン酸バリウムに比べ比重が軽く硬い物質であるため、新たに高い解砕エネルギーを持つ分散技術を導入した。
◇構造に関して
CFCAP(R) の構造の特徴を以下に示す。
1)従来の積層セラミックコンデンサー同様に、セラミックスのモノリシックな構造で、無極性の表面実装部品(SMD)であるため実装性が良い(図2参照)。
2)内部電極に卑金属のNiを使用。従来からある低容量の温特品では、AgやPdといった貴金属の電極を使用。Ag電極ではマイグレーションの懸念、Pd電極ではPdのコスト高騰が懸念されたが、CFCAP(R) ではNiを使用することでこれらの懸念を解消した。
3)Pbフリーメッキを採用。フィルムコンデンサーでは、その材質からPbフリー化による実装温度上昇に起因する特性劣化(容量抜け)が懸念される。しかし、CFCAP(R) は完全Pbフリーメッキであり、実装温度上昇にも問題なく対応でき、環境を考慮した部品であるといえる。
◇電気特性に関して(表1参照)
CFCAP(R) の電気特性であるが、その特徴を以下に示す。
1)歪率:分極に寄与する機構が、チタン酸バリウムのような強誘電体のTiイオンの自発分極と異なり、常誘電体による電子分極のため、容量の電圧依存性が小さくなる。これにより、フィルムコンデンサーと同等の歪率を実現した。
2)バイアス特性:先の常誘電体の電子分極に加え、低εであることや一層の厚みが数μm程度あり電解強度が低くなることでバイアス特性が良好となる。
3)周波数特性:内部電極には導電率の高いNiを使用、さらに材料も常誘電体を使用することで、より低いESRを実現した。このため、損失係数(tanD)が小さくなり、充放電時の発熱による温度上昇が小さくなる。
4)絶縁抵抗(漏れ電流):絶縁抵抗が高く(つまり漏れ電流が非常に小さい)、電圧をホールドする用途にも十分対応できる。
5)ショックノイズ:ショックノイズは、誘電体材料の誘電率と弾性に依存する傾向がある。CFCAP(R) は、常誘電体でεが小さいため圧電現象を起こしにくいこと、そしてセラミックスで硬くたわみにくいため、フィルムコンデンサー同等以上の性能を有する。
6)誘電吸収:CFCAP(R) は常誘電体で電子分極のため、誘電吸収が小さい傾向にある。
以上のような優れた電気特性を有することで、従来使用されているフィルムコンデンサーしか対応できなかった用途にCFCAP(R) は最適であるといえる。
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CFCAPの材料 |
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CFCAPの構造 |
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電気特性および機械特性(100nFを代表として記載) |
◆CFCAP(R) の用途
優れた電気特性を有することで、以下の回路への対応が可能である。
1)PLLフィルター回路:携帯電話、コードレス電話のLPF部のコンデンサーに最適。容量のDCバイアス特性、温度特性が優れていることでフィルターの定数が安定。さらに、絶縁抵抗が高いため、間欠動作時の充電電圧が下がりにくくなり、周波数の安定性が向上。
2)サンプルホールド回路:誘電吸収が小さく絶縁抵抗が高いので、ホールド時の電圧降下が小さいため、ADC使用機器のデジタル出力の安定化に最適。
3)時定数回路:DCバイアスによる容量変化が小さく、誘電吸収も小さいことで高周波用の時定数回路も対応可能。
4)カップリング回路:波形歪率が小さく、DCバイアスによる容量変化も小さいので、音声や映像といった信号系の回路に最適。
5)共振回路:ESRが小さいため、ピーク電流による発熱も比較的小さい。また容量も温度に対する変化が小さいため、液晶バックライトの共振部に最適。
6)発振回路:DCバイアスによる容量変化が小さく、誘電吸収も小さいことから発振周波数が安定。
なお、現在CFCAP(R) のラインアップであるが、表2に示すように1608形状1nFから3216形状で100nFまでのE6系列を品揃えしており、先にあげた回路ニーズをおおむね網羅している。
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CFCAPのラインアップ一覧 |
◆まとめ
以上のようにCFCAP(R) は、新規に開発した常誘電体材料とNi電極を使用することで、今後ますます高速作動するであろうデリケートな回路にも、その機器の特性を十分発現させうる。特にフィルムコンデンサーからの代替には最適で、電解コンデンサーからの置換も可能だ。
なお、さらなる小型高容量化を実現すべく、実験レベルでは2012形状で100nFのメドを立てた。この技術を応用展開すれば、高容量では3225形状で1μFも見えており、オーディオ回路への対応も可能性が広がる。
なお、今回はCFCAP(R) のSD(スタンダード)タイプをメインに記載したが、より温度特性の良いものを要望されるお客様には、HG(ハイグレード)タイプの製品化も現在検討中であることを付け加えておく。
*CFCAP(R) は、太陽誘電(株)の登録商標です。
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