東大など

印刷技術を使った薄くて柔軟なモーター開発

 東京大学大学院情報理工学系研究科の川原 圭博准教授と新山龍馬講師らの研究グループは、印刷エレクトロニクス技術を用いることで、薄くやわらかく軽量なモーターを作製することに成功した。低い温度で沸騰する液体が入ったプラスチックフィルムの袋を、導電インク技術を用いて印刷したヒーターで加熱することにより、袋の内部で液体が気化・膨張し、モーターの駆動力を得る仕組みとなっている。自然冷却によってモーターは繰り返し動作することができる。また、ヒーターだけでなく、配線やタッチセンサー、アンテナなども合わせて印刷し、モーターと一体化することができる。

 ロボットの関節を模した駆動実験では、開発した大きさ80mm×25mmのモーターで、モーター本体の重量は約3gと非常に軽量でありながら、最大約0.1N・mの回転力を発生させることができた。また、最大動作角度は90度に達した。やわらかく薄い特徴を生かし、ソフトロボットのアクチュエータとしての応用が期待される。

【 研究の内容 】

 やわらかなボディを持つロボットは「ソフトロボット」と呼ばれ、従来の硬いボディを持つロボットに比べると力は弱いものの、生物に似た動きや、人にぶつかった場合の安全性などが注目され、研究が進展している。その未来像は、人間と共存する安全でやさしいロボットである。

 これまでにも、硬い構造材料を柔らかい材料で置き換えたソフトロボット向けのパーツが多く提案されてきたが、ロボットの関節を曲げ伸ばしする駆動源には、金属材料や永久磁石を使った硬くて重い電気モーターを使うか空気ポンプを用いる必要があり、ソフトロボット自体の小型・軽量化には多くの課題が残されていた。

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 今回提案したモーターは、小さな袋に低い温度で沸騰する有機溶剤であるアセトンや3M™Novec™7000注1)などの液体を封入したもの。この液体を印刷技術により作製したヒーターによって加熱することで気化させ、モーターの駆動源としたことに新規性がある。ヒーターへの加熱を止めると気体は再び液体に変化し、モーターは元の形に戻る。ヒーターへの加熱を電子的に制御することでその動作をすることが可能になる(図1)。ヒーターはインクジェットプリンタを用いて厚さ135μmのPETフィルムに銀ナノインクを用いて印刷する。銀ナノインクを用いてヒーターを印刷することで、ヒーターへの配線やタッチセンサーも一括して造形することが可能である。

 作製したモーターは、大きさ80mm×25mm、重量が約3gと非常に軽量ながら、実験では最大約0.1N・mの回転力(小指程度の曲げ力に相当)を発生させることができた。また、最大動作角度は90度に達した。
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 提案するモーターの作製は大きく2つのプロセスに分かれる(図2)。まず、ヒーターとして利用される銀ナノインク回路を市販のインクジェットプリンタで印刷する。その際、所望の形状と発熱能力に合わせたヒーターのパターンを自動生成することができる。次にプラスチックフィルムの袋を作製する。この時、2枚重ねのフィルムをコンピュータ制御で熱融着することによって自由な形状を実現する。その後、袋への液体の封入や接着などを行って完成する。A4サイズ程度のモーターの作製には、数万円以下の安価な装置と数十分程度の作業時間しか必要ないため、工業用途だけでなく、家庭や学校教育現場など様々なシーンでの活用が期待される。

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(図5)折り紙ロボットへの応用可能性を示す
紙のような形状から立体的に自動で組み上がる箱の例
 この提案手法により、虫(図3)や植物(図4)などの生体を模倣したソフトロボットを試作した。また、折り紙ロボットへの応用例として、紙のような形状から立体的に自動で組み上がる箱を作製した(図5)。今後は、加熱方式を工夫することにより、モーターの動作速度や出力を向上する研究に取り組んでいく。

注1)3M™Novec™7000:化学的に不活性な低沸点液体。広く普及している有機溶剤であるアセトンのほか、人体や環境への影響を考え、3M™Novec™7000も利用した。
<資料提供:科学技術振興機構>