≪新技術≫
「高精細映像を低消費電力で配信」 
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 産業技術総合研究所(産総研)を拠点とする「光ネットワーク超低エネルギー化技術拠点」(産総研拠点)、情報通信研究機構(NICT)はNHK放送技術研究所(NHK技研)の協力を得て、高精細映像などの巨大情報を低消費電力で配信できる新しいネットワークの相互接続の合同実験に成功したと発表した。

  近年、ネットワークの大容量化への要求が増える一方で、その消費エネルギーの増大も問題となりつつある(図1)。特に高精細映像のネットワーク伝送は、遠隔医療、テレビ会議、スポーツ、映画などの高臨場感により人々の生活を豊かにし、またイノベーションの創出にもつながる期待があるが、現在のインターネットのルーターでは、情報量に比例して消費電力が増大するという問題がある。

  産総研では、インターネットベースのネットワークが消費電力の観点から映像流通のボトルネックとなると考え、「光パスネットワーク」と名づけた新しいネットワークをいち早く提案し研究を開始した。光パスネットワークはユーザーとユーザー間などENDマイナスtoマイナスENDを電気信号で処理することなく光のままで処理して伝送する技術である。この提案に、日本電信電話(NTT)、富士通研究所(富士通研)、古河電気工業(古河電工)、トリマティス(トリマティス)、日本電気(NEC)が参画して、産総研拠点(VICTORIES、Vertically Integrated Center for Technologies of Optical Routing toward Ideal Energy Savings)を形成し研究開発を進めている。ここでは、従来比1000分の1以下の低消費電力で大容量データ転送を実現する技術を目指しており、このために必要な光スイッチデバイス、伝送路の信号品質を保つ技術、さらにネットワークならびにネットワーク上に配置されたストレージの管理制御技術までの技術を垂直融合という形で開発している。

  NICTでは、2006年に新世代ネットワーク研究センターを創設し、インターネットの限界を超える新世代ネットワークの研究開発を開始した。この概念設計を行うAKARIアーキテクチャ設計プロジェクトの中で、「光パケット・光パス統合ネットワーク」の検討を行ってきた。これはユーザーがその時々の利用シーンに合わせて、高速で安価なサービスと遅延やデータ損失のない高品質なサービスを柔軟に選択できる環境を、全光化による大幅な省エネルギーかつ統合された簡易な制御のもとで提供するものである。

  一方、NHK技研では、スーパーハイビジョン(SHV)の研究開発を進めている。SHVは総画素数3300万(7680×4320)の超高精細映像システムである。今回のデモ実験では、2011年度をめざして開発中の技術から、SHVの信号を43Gbit/sの通信系のビットレートで送受する技術を導入している。

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実証実験の概要

 今回の実験では、JGN2plusテストベッドを用い、それぞれが開発してきたネットワークを相互接続した(図2)。JGN2plusは、1999年のJGN、そして2004年のJGN2と継続的に発展を遂げてきた世界的に優れた研究開発テストベッドネットワークの一つで、2008年4月から3カ年の予定でNICTが運用している。

  産総研・秋葉原事業所の中に産総研拠点の「光パスネットワーク」、NICTの「光パケット・光パス統合ネットワーク」の一部、NHKのSHVのストレージならびに送受信装置を設置した。大手町とNICT本部(小金井)には、NICTの「光パケット・光パス統合ネットワーク」を設置し、JGN2plusの回線を利用し、秋葉原から大手町、小金井を経由するSHVの映像配信を行った。SHVの秋葉原―小金井間の伝送には、産総研拠点で開発した伝送信号の品質を保つ分散補償技術、NICTで開発した光パケットを用いた光パス設定技術が使用された。

  「光パスネットワーク」は光スイッチのみを介してユーザー間を直接つなぐ回線交換型ネットワークである。ルーティング用の光スイッチの一部として産総研拠点で開発したシリコンフォトニクスベースの光スイッチを使用している。また、「光パスネットワーク」内に配信サーバーを分散配置し、ネットワークおよびストレージサーバー資源管理制御技術により、サーバーに保存された高精細映像を指定の端末に配信している。「光パケット・光パス統合ネットワーク」はNICTの先進技術である光パケット交換技術と、光パス技術を統合したノードから構成されるネットワークである。光パスの設定に必要な制御メッセージを光パケット交換技術で転送する機能を実装し、ネットワーク制御管理設備を簡素にする。パケットサービスとパスサービスに用いるデータを同一の光ファイバーに流し資源の効率利用を図り、かつ、ネットワーク内の資源を、双方のサービスのトラフィック量の変化により柔軟に変更する境界制御機能を持つ。今回はJGN2plusというフィールドテストベッド上に構築し、機能検証のみならず、より実際的な運用の実証も可能とした。

  いずれのネットワークもルーティングを光化することでネットワーク基幹部の省電力化が可能となる。光パス交換では1000分の1からそれ以上の省電力化が可能で、光パケット交換ではビットレートが10倍以上増えても消費電力を増やさないことが示されている。

  今回の実験では、産総研拠点の「光パスネットワーク」とNICTの「光パケット・光パス統合ネットワーク」のパス部分が相互につながり、産総研拠点の「光パスネットワーク」からの要求を基に、NICTの「光パケット・光パス統合ネットワーク」が秋葉原―大手町―小金井―大手町―秋葉原に光パスを提供し、テレビ会議やSHV信号を伝送するという連携動作に成功した。これにより、高精細映像情報などの巨大情報をそれぞれが開発してきた新しいネットワークで共通に取り扱えることが実証された。新しいネットワークの相互接続に関する本研究の成果は、高精細映像情報などの巨大情報を低消費電力で配信することを可能にするもので、グリーンイノベーションの推進を加速することが期待できる。

  今回の実験には以下の研究成果を取り入れている。

1)産総研拠点「光パスネットワークに関する研究開発の成果」
・伝送速度によらない高精細映像の配信
  光パスネットワークでは、任意の伝送速度の信号を送ることができる。今回、1Gbit/s、10Gbit/s、43Gbit/sの信号を同じネットワークで配信している。

・ネットワーク資源と映像ストレージの統合管理
  NTT未来ねっと研究所と産総研拠点で開発した、ネットワークと映像ストレージサーバーを統合して管理する技術で秋葉原事業所内の光パスネットワークの映像配信を統合管理している。

・シリコンフォトニクススイッチの初めての実装
  小型・省電力でルートを切り替えることのできるシリコンフォトニクスによる光スイッチ(産総研開発のものと富士通研開発のもの)を一部に実装している。

・新規方式によるファイバーの分散補償
  光の波長に依存した伝搬速度の僅かな違い(分散)による波形劣化を補償し、高精細映像などの高速の光信号を長距離伝送しても、波形を保つために、光パラメトリック波長変換という手法の分散補償技術を開発、SHVを秋葉原から小金井のNICTまで往復させるのに適用している。この技術には、波長変換に古河電工の高非線形ファイバー、トリマティスの高速制御技術が用いられている。

・ダイナミック波長資源管理技術
  波長による光パスの拡張を狙い、NECが開発したダイナミック波長資源管理装置を導入している。

2)NICT「光パケット・光パス統合ネットワークに関する研究開発の成果」
・光パケット交換
  パケットを光信号のまま交換。光バッファを利用し、データ衝突による損失を極力なくした。2009年には1.28Tbit/sの光パケット交換を基礎実験で達成。今回はIPパケットを含んだ80Gbit/sの光パケットを交換している。

・光パケット交換と光パス交換の同時利用
  同じ光ファイバーで光パケット(間欠的光信号)と光パス(ビットストリーム)を伝送。光パケット交換でファイル転送など多くのユーザー利用と同時に、別のチャンネルの光パスで安定性とリアルタイム性を確保したTV会議の利用が可能である。

・ネットワーク資源の動的変更(境界制御機能)
  光パケットと光パスの資源量(チャンネル数)を動的に変更可能。光パケット交換と光パス交換の両交換方式を柔軟に使い分け、突発的なユーザーニーズへの対応が容易である。

・光パケット交換と光パス交換の制御部統一
  従来、別のネットワークに転送していた光パス制御メッセージを、光パケット交換ネットワークを使って転送。両交換の制御ネットワークを一元化し、制御管理設備を簡素にする。

  以上の世界初の本格的技術を、汎用的な分散補償光ファイバと40kmを超えるJGN2plus光ファイバによる光路を含むネットワークにおいて適用できることを実証した。

<資料提供:(独)産業技術総合研究所、(独)情報通信研究機構>