特集:高周波部品とモジュール技術

ワイヤレスモジュール製品の技術動向

BluetoothとワイヤレスLAN 複合製品など開発進める


【写真1】開発中のBluetoothとワイヤレスLANの複合モジュール

市場動向

 昨今、スマートフォン、ポータブルゲーム機、デジタルオーディオプレヤー、ノートPCなどの携帯情報端末は、各種機器との連携やインターネット接続を可能とする複数の無線機能の搭載が加速している。

  Bluetoothは、市場に登場した当初はデスクトップやノートPCへの搭載がメインであったが、2004年頃から海外の携帯電話への搭載が急激に加速し、現時点では海外の携帯電話の約6割に搭載されている。

  また、携帯電話のハンズフリー通話のために、カーナビゲーションやPND(Personal Navigation Device)にもBluetoothの搭載が拡大しており、全世界においてBluetooth搭載機器は、2008年には約10億台の市場規模に達すると予測されている。

  ワイヤレスLANは、現在はデスクトップやノートPC、海外のスマートフォンで主に使用されているが、今後は、ワイヤレスLANの新規格IEEE802.11nの登場により、さらなる高速化が図られ、高画質の映像伝送用としてTVやDVDレコーダといった家電製品への搭載も進んでいくと予想している。

  将来的には、さらなる無線ブロードバンド化への対応に向けて、高速での移動中にも、数十Mbpsの高速通信が可能なWiMAX(2008年から米国、台湾でサービスが開始)や、移動を行わない固定時で、480Mbpsの高速通信が可能なUWB(Ultra Wide Band)などの新しい無線システムの搭載も検討されており、ユビキタス化を実現するために、端末内に複数の無線システムが存在することになると想定している。

  また、新しい無線システムは、電波の有効利用や伝送速度の高速化に向けてさらなる高周波化に向かっており、UWBやBluetooth3.0では、3Gヘルツから9Gヘルツ帯、HD(High Definition)画像を非圧縮で転送可能なIEEE802.15.3cやWiHD(Wireless High Definition)は60Gヘルツ帯の周波数が利用される見込みである。


技術動向

【1】複数システムの搭載と機器の小型化

  一つの機器に複数の無線システムを搭載することが増えているが、機器本体のさらなる小型化も相まって、単機能のワイヤレスモジュールを複数個使用するよりも、スペースメリットのある複合モジュールへの要求が強い。

  アルプス電気では、市場要求に応えるべくBlue−toothとワイヤレスLAN機能をワンパッケージ化した複合モジュールの開発を進めている。

  現在、開発中の複合モジュールは、従来の当社のBluetoothモジュールUGNZ9シリーズ(縦6.2×奥行き5.25×高さ1.4mm)と、ワイヤレスLANモジュールUGGZ3シリーズ(縦8.9×奥行き8.9×高さ1.3mm)の機能とアンテナ切替用スイッチ、レギュレータを内蔵しながら、小型化(縦9.8×奥行き12.5×高さ1.4mm)を実現した製品である(写真1)

  BluetoothとワイヤレスLANの複合モジュールは、小型化実現の技術としてチップ部品間隔0.1mmの高密度実装と、WLCSP(ウエハーレベルチップサイズパッケージ)のICを高い接続信頼性が実現可能なC4(Controlled Collapse Chip Connection)方式で実装を行っている。

  C4方式は、ハンダでパターンとの接続を行うために高速での実装が可能ながら、熱圧着や超音波接合とは異なり、基板やICへの負荷が少ないことが特徴である(図1)

  さらに、他の表面実装方式の部品と同時にリフローでハンダ接合が可能なため、製造コストを抑えることができる。

  今後、さらなる小型化のためには、狭ピッチでも実装可能なベアチップや基板への部品内蔵が重要な小型化技術となる。また、回路技術による小型化を図ることも重要である。

  開発中のBluetoothとワイヤレスLANの複合モジュールでは、RF部の部品点数を削減するためにBluetoothのICとアンテナ端子のインピーダンス変換回路(バルン回路)をパターン内層で形成し、モジュールの小型化を図っている。

【2】MIMO(Multi Input Multi Output)技術

  通信の高速化を実現するため、ワイヤレスLAN(802.11n)、WiMAX、セルラLTE(Long term evolution)では、複数の受信、送信パスを有するMIMO技術を採用している。


 

【図1】C4方式の実装

 MIMO技術とは、複数のアンテナを使い、それぞれのアンテナから異なるデータ(ストリーム)を送信し、これを複数のアンテナで受信することで高速化する技術のことである。

  このために、以前よりRF部の回路規模が大きくなっており、機器の小型化を実現するためには、このRF部の回路をいかに小型化できるかが鍵を握っている。

  当社では、MIMO技術を使用したノートPC用途の802.11nに対応したワイヤレスLANモジュール(写真2、図2)の開発を現在進めており、本製品はPCI Expressインターフェイスに対応し、送信側のストリームが2本、受信側のストリームが2本のMIMO技術を用いて、計算上では最大伝送速度300Mbpsを実現可能である。

  まずは、ノートPC用途での802.11n対応のワイヤレスLANモジュールの開発を進め、MIMO技術を用いたシステムでの技術的な課題や問題点を明確にして、将来的には小型携帯機器へ搭載可能な小型モジュールの開発を行う予定である。

  今後は、MIMO技術を使用する通信システムの複合化が進んでいくために、お互いの干渉を避ける複数のフィルターが必要となる。このため、RF部の回路規模はさらに大きくなり、小型化を実現するには、複数存在するフィルター回路をいかに省スペースで実現するかが鍵となる。

  WiMAXやUWB、Bluetooth3.0では周波数が高くなり、かつ使用帯域幅が広くなることにより、SAW(Surface Acoustic Wave)フィルターでは、特性が実現できないシステムが増えていく。

  この課題の解決のため、当社では、セラミック基板へのフィルター形成に関する技術を開発しており、今後開発を行うWiMAX、UWBなどの新規モジュールへ本技術を展開していく。

 

【写真2】開発中の802.11n対応のワイヤレスLANの複合モジュール

 

【図2】開発中の802.11n対応のワイヤレスLANモジュールのブロック図

今後の展開と課題

   今後はWiMAXやUWB、Bluetooth3.0対応のモジュールや、これらシステムと既存のワイヤレスLANやBluetoothのバージョン2.0、2.1との複合モジュールの開発を進めていく予定である。

  各種無線システムの基板への内蔵化に伴い、互いの干渉や妨害をいかに低減するかが今後の課題となる。

  この課題を解決するために、当社では、既に開発中のノイズ抑制用のリカロイTM磁性シートなどを利用して、モジュール内でシステム間の妨害を低減する方法の実現と、各種フィルターや部品の基板への内蔵化を進めていくことで、当社の開発思想であるAlps’SiP(システムインパッケージ)を実現し、携帯機器の小型化に寄与していく。


<金子久幸:アルプス電気(株)通信デバイス営業部>