物質・材料研究機構(NIMS)超伝導材料センター強磁場線材グループの菊池章弘主任研究員は、ヒキフネと共同で1キロメートル級のニオブ・アルミ超伝導線材に、150マイクロメートル(0.15ミリメートル)厚みの高品質銅を高速電気メッキすることに成功した。 処理速度は、1日あたり120メートルと効率を格段に高めている。しかも高速メッキでありながら表面にざらつきや凹凸がなく、線径の寸法精度を±3マイクロメートル(0.03ミリメートル)に保つことができ、メッキ内部にもボイドなどの欠陥はない。 また、従来のクラッド圧延で複合していたものと比較し、極低温において4〜5倍も電気抵抗が小さく、超伝導安定化導体として1000A(アンペア)級の運転電流に十分耐えるものとなっている。 【図1】従来のクラッド圧延により作製した平角形状のニオブ・アルミ線材の断面写真。外側の薄い灰色部が安定化材となる銅。 昨年、絶対温度4.2度で19.5テスラの世界最高磁場を発生させた線材 ニオブ・アルミ線材は、現在のニオブ・スズ線材に代わる次世代の強磁場超伝導線材として期待されている。最近では、絶対温度4.2ケルビン(K)における超伝導コイル発生磁場としては世界最高の19.5テスラの磁場を発生させることに成功している。 このニオブ・アルミ線材は、約2000℃の高温で連続的に急速加熱する特殊な熱処理(急熱急冷処理)を行うため、銅が溶融するため銅を母材とすることができない。この線材を実用化するには超伝導安定化材として銅の複合化が不可欠で、これまでは急熱急冷処理を行った後に銅箔を張り合わせながら線材を平角成型するクラッド圧延を行っている。昨年19.5テスラの磁場を発生させたニオブ・アルミ線材も平角成型することで銅を複合している。 しかし、硬さが大幅に異なる材料の複合加工は困難で、線材と銅との密着性が乏しいという問題があった。図1の線材断面では銅とニオブ・アルミ線材の間には多数の亀裂が確認される。これらの亀裂は超伝導線材の不安定化の要因となる。また、薄い銅箔しか扱うことができないため、多量の銅を複合化するには限界があった。しかも平角形状の線材にしか銅を張り合わせることができず、ニオブ・アルミ線材の用途は限られたものになっていた。 ■従来の電気メッキと高速電気メッキ技術 【図2】従来の電気メッキにより銅を複合したニオブ・アルミ線材の断面写真。外側が銅 【図3】今回開発した高速メッキ技術により銅を複合したニオブ・アルミ超伝導線材の断面写真。外側が銅で厚さは150マイクロメートル(0.15_b) 今回、メッキ浴の硫酸銅および硫酸濃度、メッキ浴の温度、アノード電極の材質及び純度、アノード電極と処理線材との距離、およびメッキ浴内の電解分布等の各種パラメータを最適化したところ、図3のように約33A/dm2まで電流密度を高めても均質な銅メッキができている。図4はこれまでのメッキ処理速度の推移。 【図4】長尺線材への厚メッキ処理速度の推移。2年前と比較すると、5倍まで高速化に成功 また、接続強度を得るために厚メッキの前に1マイクロメートル(0.001ミリメートル)の薄い銅下地を被覆するイオンプレーティング処理が施されている。これに要する時間は1時間あたり120メートルと非常に速く、1キロメートル以上の長尺線材も短時間で容易に完了する。図5は外径1.0ミリメートルの丸線材の密着曲げ試験を行ったもの。180度まで極端に曲げてもニオブ・アルミ線材とメッキ銅の間で剥離はない。 さらに、図6は外径1.0ミリメートルの丸線材を様々な厚さにロール圧延した結果で、このような大きな加工を行ってもニオブ・アルミ線材とメッキ銅の間で剥離は認められず、ニオブ・アルミ超伝導線材の安定度を確保することができるとしている。
(a)外観写真
(b)断面写真 【図5】高速メッキ線材の密着曲げ試験の結果。線材の外径は1.0mm。180度まで極端な曲げを行ってもメッキ銅の剥離はなく、強固に密着している 【図6】外径が1.0mmのメッキ線材を圧延加工試験した結果。大きな機械加工を行っても、メッキ銅は強固に密着している 今後の展開 開発に成功した高速電気メッキ技術は、機械的ひずみに強いことで期待されているニオブ・アルミ超伝導線材を実用化する成果で、強磁場超伝導磁石を必要とする加速器や核融合炉への実用化を加速させるとともに、超伝導線材以外の分野でも、機械的な複合加工が困難な高強度ピアノ線や光ファイバなどにも高品質の銅を多量に効率よく複合することができ、電気自動車や航空機部品などに幅広い応用が開けると期待される。 今回作製した1キロメートル級の銅安定化ニオブ・アルミ超伝導線材は、米国・フェルミ国立加速器研究所と共同で今夏、次世代加速器のための新しいラザフォードケーブルが試作される予定になっている。 <資料提供:独立行政法人物質・材料研究機構> |