超小型・低価格で高速認証が可能
指紋照合LSIの開発に成功


 科学技術振興機構(JST)はこのほど、ビヨンド・エルエスアイ(東京都目黒区大岡山2―12―1)に委託して実用化を進めていた「汎用指紋照合LSI」の開発を成功と認定した。この技術は東京工業大学・國枝博昭教授の研究成果を基にしたもの。新開発のLSIは、プログラムサイズが小さく、使用メモリー量の少ない高精度な認証アルゴリズムを採用し、センサーや用途に合わせてプログラムの変更が可能な汎用プロセッサLSIとしてワンチップ化させている。

■バイオメトリックスを用いた認証システム

 バイオメトリクス(生体認証)を用いた本人認証システムは、パスワードまたはIDカードなどを用いた認証と比べ成りすまし脅威からの防御性に強く利便性の高い本人認証技術として、指紋、虹彩、顔、静脈認証など各種の技術が開発されている。現状では指紋認証が一般的で過半数を占めている。

 また、生体認証技術は、認証アルゴリズムをパソコン(PC)上で稼働させるソフトウエア技術から、単独で動作するハ一ドウエアモジュール技術へと移行しつつある。しかし、その大半はPCと同じ環境を機能モジュールに搭載したもので、プログラムサイズが大きいために照合速度が遅い。

 指紋照合システムの場合、プログラムを100Kバイト以下にすることは困難で、1指の登録データのサイズは200バイト以上のため、多人数登録する場合には非常に大きなメモリーが必要となる。



【図】製作したLSIとBSFPGAのレイアウト




【表】設計したLSIの主な仕様

■高速指紋照合LSIを実現

 新技術は、ソフトウエアとハードウエア処理の最適な組み合わせを可能にする周辺I/O用のハードウエアとプロセッサ、高速照合エンジンとプロセッサで構成され、その間のデータ交換を効率良く行える小型高速の1:N指の指紋照合用のシステムLSIの実現である。この開発ではプログラムサイズが小さく、使用メモリー量の少ない高精度な独自の認証アルゴリズムを採用している。指紋照合センサー、LCD表示装置、ICカードなどインターフェイスの使用に応じた変更可能なプログラムや高速照合エンジンをビットシリアルFPGA(BSFPGA)で実現させ、指紋画像処理、指紋照合を高速で処理できるLSI(表、図)を設計・製作した。

 指紋認証方法には、指紋の盛り上がった曲線の端点や分岐点を特徴点として、その2次元座標情報を用いた独自の「特徴点抽出法」を採用し、認証は画像処理、特徴点抽出、照合処理という方法で行われる。

 従来の方法では、1指あたりの登録データサイズは200バイト以上が必要とされてきたが、新開発の特徴点抽出法では、それを64バイトまで圧縮、認識のためのプログラム格納サイズも32Kバイトで従来の1/3に低減している。この開発により、LSIチップの設計、動作検証、量産テスト技術を確立し、これまで3チップが必要であった機能モジュールを、超小型(5×5mm)のワンチップで可能にした。

 実際の指紋センサーと組み合わせた試験では、1秒で1000指のデータと照合できることが測定された。これはソフトウエアのみの場合と比べ約10倍高速で、照合速度は単一チップLSIとしては世界初とのこと。

■認証LSIは、多くの分野で応用が可能

 このLSIの認証システムは、汎用性を持たせるためにRISCプロセッサとBSFPGAの組み合わせとしているため、毎年製品化されるセンサーや周辺機器の変化に対してハードウエアを追加することなく対応できる。

 また、高速照合機能を持ちながら超小型・低価格で量産可能なため、電子鍵、金庫などのアクセス制御用のほか、指紋照合としては従来のセキュリティカードにチップを搭載して個人認証を取り入れるなどの用途拡大も考えられる。PCやネットワークのセキュリティ制御用、携帯電話およびICカードの電子商取引における個人認証など多くの応用が可能となる。