実装面積世界最小のホールICの開発




【写真1】ロームのホールIC「BU52000シリーズ」

■はじめに

  携帯電話は通話やメール機能に加え赤外線通信機能の搭載、最近ではお財布ケータイサービスの開始など、高機能化がますます進んでいる。携帯電話の普及期においては、ストレートタイプで小型・軽量化が最優先されていたが、近年ではメールの送受信、カメラの搭載などのため、液晶を使うアプリケーションが主となり、液晶画面が大きくできる折りたたみ式が主流となっている。また、高機能化に伴い消費電力も増大し、バッテリーの長寿命化に対する対策が必要となってきている。折りたたみ式の場合、バッテリーの長寿命化のために携帯電話を閉じた時に液晶画面をオフする機能が必要で、当初開閉の検知にはボタン式のスイッチが用いられていた。

  しかし、ボタン式スイッチはその構造上、液晶側の突起でキー側にあるくぼみを押し込む形でスイッチのオン/オフを行っていたため、くぼみに異物が詰まるなど誤動作が発生していた。さらにデザインの観点からも、突起とくぼみをなくならせる非接触式のスイッチが求められるようになった。そこで現在では、磁石と磁気センサーICを使った非接触式のスイッチが主流となっており、液晶画面が回転タイプの回転方向検知や、スライドタイプのスライド位置検知にも磁気センサーICが採用されている。

■磁気センサー開発動向

  携帯電話の高機能化と軽量化の両立、バッテリーの長寿命化の要求に対応するべく、ロームは磁気センサーIC(ホールIC)の開発も小型、薄型化、低消費電力化を主な目的として行った。また、セット工程での信頼性の向上も開発の目的とし、静電耐圧の向上を行った。

1.小型、薄型化
  磁気センサーICは磁気を検出し、磁界の強さを電気信号に変換する磁気検出素子(磁気マイナス電気変換)と、その微弱な電気信号を増幅、検出、2値化と状態保持、MPUとの接続のためのインターフェイス回路で構成される。この磁気検出素子は、InSb、GaAsなどの化合物半導体で作られるホール素子が一般的である。回路ブロックはSiであるため、化合物半導体のホール素子を使うと、素子と回路ブロックの2チップ構成となり、小型化の障壁となる。そこで、ロームではSiのホール素子を採用することで、ホール素子をICの中に作り込み、ワンチップ化を行うことでホールICの小型化を目指した。ホール素子はホール効果を利用した素子で、ホール素子のある一方向から電流を流した状態でホール素子に直交する方向に磁界を加えると、ホール素子の中点に電位差が発生する。この発生した電位差を検出し磁界を検知することができる。磁気に対する感度はこの電位差で決まり、電位差は磁束密度に比例する。この感度はホール素子の物性で決まり、キャリアの移動度に依存する。SiはInAs等に比べキャリアの移動度が低いため磁気感度が低い。また、ホール素子は中点電圧にDCオフセットが発生し、感度アップの妨げとなる。

  この対策としてホール素子のDCオフセット電圧をキャンセルする回路を開発し、アンプのゲインアップで感度を補完した。また、ホール素子はパッケージ応力、基板実装時の応力などの応力が印加されると、ピエゾ効果によりオフセット電圧が変化し感度特性が変動してしまう。今回開発したオフセットキャンセル回路は、応力によるオフセット変化もキャンセルできるため応力の影響を受けることなく安定動作でき、感度特性を一定に保つことができる。

  また、化合物半導体のホール素子に比べ、Siのホール素子は感度の温度変動が少ないため、ホールICとしても感度の温度変動も少なくでき、動作温度範囲をマイナス40〜プラス85℃とし、十分な温度範囲を確保した。薄型化に関してはウエハーレベルCSPパッケージの採用によりパッケージ厚0.5mmTyp.を実現した。

  以上の結果、パッケージサイズは1.1×1.1×0.5mm(厚み)となり、実装面積世界最小のホールICを実現した(図1)。


2.低消費電力化
  ホール素子の感度はホール素子に流す電流に比例するため、感度を良くするためには電流を多く流す必要があるが、低消費電力化と相反することとなる。そこで感度と低消費電力化を両立するため、常時センシングするのではなく、一定周期に一度だけセンシングを行う間欠動作方式とした。すなわち、センシング時のみホール素子とその信号を増幅するアンプ部および検出部(コンパレータ)のアナログブロックに電源供給を行い、それ以外の時間はアナログブロックをオフさせている(図2)。この間欠動作の周期を作り出すため、発振回路とカウンタを内蔵しているが、アナログブロックのオフ時にも発振回路は動作しているので、極力この回路の消費電流を抑えることでさらに低消費電力化を行った。

  以上により平均消費電流を8μA(Typ.)に抑えることができた。また、出力形式は磁石検出時も電力を消費しないCMOS出力を採用した。

3.高信頼性設計
  素子構造と回路の最適化により静電気耐量8kV(HBM)の高耐圧を実現し、あらゆる環境下で高信頼性を提供できるようにした。

  製品ラインアップはスタンダードタイプとして単極検出タイプ(S極検出、N極検出)、磁石の実装方向を気にせず使えるS極、N極両極検出1出力タイプ、両極検出でS極、N極それぞれに対応した出力を持つタイプの4機種と、様々なアプリケーションに対応できるようにした(図3、表1、2)。


【図3】ホールIC(ホールスイッチ)出力動作

■今後の市場要求と課題

  これからも携帯電話の高機能化は進み、バッテリーの長寿命化の要求が高くなると予想される。今後、ロームはこのように市場ニーズに合致したバッテリーの長寿命化、さらなる低消費電流化のホールICの開発に取り組んでいく方針である。

<ローム(株)LSI商品開発本部>


【表1】ホールICのラインアップ


【表2】ホールIC「BU52001GUL」 の特性表