次世代I/Oコネクタ「MRJ21」の技術


ギガビット・イーサネット(GbE)の普及により、ネットワーク運用のメリットが明白になるにつれて、スイッチやルータなどの高性能で高価なネットワーク機器に使用する部品の品質が重視されるようになった。ギガビット・イーサネットへの移行や新たに構築する場合、コネクタやケーブルなどの構成部品の性能が問題となってきた。近年はI/Oコネクタの技術が進み、ネットワーク機器を簡単にアップグレードまたは設計できるようになった。

■I/Oコネクタ

ネットワーク配線や電気通信のI/Oコネクタには、主としてモジュラ・ジャック(RJ45)とCHAMPコネクタ(RJ21)が使われている。ごく普通に使われているRJ45とRJ21にも多くの製品があり、それらの製品は1000Base-Tネットワーク向けに、信頼性、使いやすさ、扱いやすさなどを提供している。しかし、ギガビット・イーサネットの導入が進むにつれて、従来のRJ45とRJ21製品では対応しきれなくなってきた。

市場にはギガビット・イーサネット対応のRJ45コネクタが多数あるが、25ペアのRJ21製品ソリューションはごくわずかである。ギガビット・イーサネットへの移行を支援するには、既存の製品を改良するか新しいI/Oコネクタを開発する必要がある。MRJ21は、従来のRJ21に比べて、ポート密度が3倍に設計されており、ギガビット・イーサネットなどの高速アプリケーションに簡単に展開できるように工夫されている(写真1、2)。


〔写真1〕MRJ21コネクタ


〔写真2〕MRJ21コネクタとRJ21コネクタのサイズ比較

■MRJ21コネクタ

MRJ21コネクタは、標準的なモジュラ・ジャックや50極のCHAMPコネクタを備えたネットワーク機器に使用できる。イーサネット・スイッチ、ネットワーク・クローゼット、ルータ、デジタル・クロス・コネクト、DSLAMなどのネットワーク機器を製造しているOEMメーカーは、MRJ21コネクタに合わせた設計を簡単に取り入れることができる。また、MRJ21はギガビット・イーサネットの性能に対応しているだけでなく、従来のモジュラ・ジャックやRJ21よりも非常にコンパクトに設計されている。ポート実装密度の高いMRJ21コネクタは設計、試験、検証を通して、ギガビット・イーサネットの多ポート同時通信だけでなく、パワー・オーバー・イーサネット(PoEまたはPoLAN)にも優れた信頼性を持つことが実証されている。

ハードウエア設計者にとってコネクタの高密度実装化は、コネクタのポート密度がスタック型RJ45モジュラ・ジャックに比べて1.5〜3に向上したことを意味する。

MRJ21のサイズは、RJ21に比べて1/3に省スペース化されている。直角なレセプタクルの長さは、標準的なスタック・ジャックの半分となっている(図1)。


〔図1〕MRJ21コネクタのサイズ

たとえば、標準的なブレードに16個のMRJ21を接続すると、GbEポートを96個(10/100Base-Tならば192個)を確保できる。つまりGbEのポート密度はRJ45の2倍となり、1Uサイズのパッチ・パネルの場合は、ポート数の合計が48個になる。パッチ・コードは一括してコンパクトに配線できるため、OEM、ネットワーク管理者、ユーザーには大きなメリットとなる。

OEMメーカーがネットワーク機器を実装する場合、所定のボックスにより多くのコネクタを実装できるだけでなく、MRJ21コネクタには、その他にも設計上の工夫が凝らされている。たとえば、エイリアン・ネクスト(ANEXT)を制御して、エンハンスド・カテゴリ5(Cat.5e)を超える電気特性を持つだけでなく、全面シールドにより電磁波障害(EMI)を低減する。ジャックスクリューによる嵌合方式も採用されている。

ポート密度が増すと、OEMは製品の機能をさらに向上することができる。ユーザーもネットワークの成長やアップグレードに備えたスペア・ポートを確保できる。スペア・ポートが増えれば、ネットワークに接続するユーザーとデバイスを増やせるため、コストを大幅に削減できる。

■各種ネットワークに対応したコネクタ構成

システム設計者は、ポート密度や伝送速度の向上などの最新技術に関心を持つが、I/Oコネクタにはそれ以外の利点もある。MRJ21コネクタは多彩な構成に対応しており、ギガビット・イーサネットで使われるアプリケーションの個数に応じて柔軟に選択できる。

構成には、単一ポートのMRJ21(パネル接地と非パネル接地のオプション、スルーホールのハンダ付けとプレスフィット――両者のボード・レイアウトと寸法は同じ)、マグネティクス内蔵のデュアル MRJ21アッセンブリ、Quad(4連)のマグネティクス内蔵MRJ21アッセンブリがある。

MRJ21は、RJ45とRJ21に比べて、設計がシンプルで相互接続も簡単である。エイリアン・ネクスト(ANEXT)を最小限に抑制するため、従来のRJ45のように、電磁ノイズを解決することに苦慮せずにアッセンブリを作成できる。電気特性の一貫した高性能の伝送路を構築できるMRJ21は、ギガビット・アプリケーションに最適である(図2)。

〔図2〕グラフは、標準的な6ポートで構成されるMRJ21アッセンブリ内の1ポート分(4ペア線)に乗るクロストーク値を示している。
上のグラフ(PS ELFEXT)は、Port1、Pair1;Port1、Pair2;Port1、Pair3;Port1、Pair4の遠端でのクロストーク下のグラフ(PS NEXT)は、 Port1、Pair1;Port1、Pair2;Port1、Pair3;Port1、Pair4の近端でのクロストーク値を示しており、規格値を十分にクリアしている。

MRJ21コネクタによる配線システムを導入するとシステム構成を飛躍的に改善できる。MRJ21ケーブル1本は、GbEまたは10/100/1000Base-Tケーブル6本に相当するため、10/100/Base-Tネットワークでは、ケーブルを12本から1本に削減できる。

また、ケーブルのサイズがコンパクトなため、4ペア・ケーブル6本を配線した場合に比べて、設置スペースを約30%削減できる。さらに、PCBボードの実装密度が向上し、I/Oプロファイルも低いため、インジケータLEDなどの視覚認知性も改善できる。システムの改善に加えて、エンド・ユーザーにはシステム構築の総費用も劇的に削減できる。企業ユーザーとサービス・プロバイダは、MRJ21コネクタをネットワーク基盤のケーブリングに使用することで、さらにメリットが得られる。いくつかの研究によると、MRJ21配線システムは人件費、設置スペース、施工時間、保守費用を削減している。

研究所の調査によると、MRJ21コネクタを使用すると従来のRJ45ケーブルを敷設した場合に比べて、初期費用がポート当たり3.50〜14.00ドル削減できる。データ・センターには余分なスペースが不要なため、MRJ21ケーブルを敷設すれば敷設面積を年間でポート当たり最大4.50ドル削減できる。ミッション・クリティカルな高付加価値の通信環境では、敷設面積を50%以上削減できる。

MRJ21コネクタを使用した場合、データ・センターのケーブル施工時間は約1/6に短縮される、と報告されている。MRJ21コネクタを使用すると、スイッチの交換やリカバリによるネットワークのダウンタイムも低減したことも報告されている。

■PoEとGbE相互接続にメリット

次世代モジュラ・ジャックのMRJ21コネクタは、10/100Base-T、GbE、パワー・オーバー・イーサネット(PoE)に最適である。10/100Base-TとGbEにMRJ21コネクタを使用した利点は前述のとおりだが、イーサネット・コネクタによる電力供給は比較的新しい技術であり、この種のアプリケーションの相互接続は慎重に行う必要がある。

ネットワーク上に高速なデータ信号を流すこと自体がチャレンジであり、ネットワークに低電力の電力供給を乗せることは相互接続システムの新たな試練である。すでに流れているデータ信号は相互接続の電力供給による干渉を受けやすくなるため、低電力接続からの干渉から守ることが重要になる。

この問題に対応するために、ボード上のリード部にフィルタを採用することも考えられる。しかし、その場合は、設計が複雑になり、ボード製造プロセスのボード処理にコストと労力がかる。しかし、この問題はMRJ21を使用すれば解決できる。MRJ21コネクタのピンは、10/100/1000Base-TとPoEに対応している。

内蔵マグネティクスと電源管理機能を併用すれば、ボード・レベルの問題に不要なコストと時間をかけずに済む。マグネティクスと電源管理機能をコネクタに内蔵することで、省スペース化と設計サイクルの短縮を実現できる。

内蔵マグネティクスは、さまざまな機能を実行する。第1にIEEE802.3とIEC60950に準拠したDCアイソレーション機能を提供する。第2に製品共通のEMI抑止モードを提供する。これによりPoEアプリケーションにDC電源の提供を可能にする。

プレスフィット型MRJ21コネクタをイーサネット・スイッチに接続すると、ネットワーク上で電源を供給するデバイスを増加できる。プレスフィット型MRJ21コネクタは、柔軟に設計できることが特徴である。コネクタは、オプションとして非PoE対応とPoE対応で設計できる。この方式を採用すれば、通常の10/100BaseマイナスTネットワークをギガビット・イーサネットのPoE(802.3af規格互換)に簡単に移行できる。

<タイコ エレクトロニクス アンプ(株)>