地上デジタル放送とチューナモジュールの技術動向



〔写真1〕デジタル放送用チューナTDEシリーズ


〔写真2〕復調器内蔵地上デジタルチューナ


〔写真3〕アナログ放送用チューナTEQシリーズ


〔写真4〕アナログ放送用IF回路内蔵
       チューナユニットTMQシリーズ


〔写真5〕地上デジタル・アナログ放送兼用
チューナTDQシリーズ
<市場動向>

1953年、わが国ではテレビ放送が白黒で開始され、7年後の1960年からは、カラー放送がスタート、1963年の東京オリンピックを機に、急激に各家庭へのテレビ受信機の普及が始まった。そして、これまではアナログ放送方式によってテレビ番組が供給されてきたが、2005年の12月から東名阪で地上デジタル放送が開始、2006年末には、全国各地で地上デジタル放送が受信可能となる。2011年7月24日には、50余年にわたり続いたアナログ放送が停波する計画が発表され、フルデジタル化の波が、もうそこまで来ている。

アルプス電気は、1967年からUHFチューナの生産を開始し、1969年からVHFチューナの生産を経て、選局の方式はメカ式から電子式へ、そしてVHFとUHFの混合チューナへと複合化され、高性能化、小型化、低価格化の各種進化をしながら現在へ至っている。

アナログ放送方式は、全世界ではPAL、SECAM、NTSCの3方式が存在する。PALはイギリスやドイツの欧州地域、SECAMはフランス、NTSCは日本とアメリカが採用している。市場規模は、テレビとVTRおよびDVDレコーダを合わせると年間2億台以上の需要がある。当社のチューナは、各国の放送システムに幅広く対応することにより高シェアを維持してきた。

世界の地上デジタル放送化の動向においては、特に米国が顕著になってきている。FCC(Federal Communication Committee:米国連邦通信委員会)により、テレビのインチサイズに関係なく、2007年3月1日までにすべてのテレビ受信機へ地上デジタル放送信号を受信出来る機能の搭載が義務付けられている。また、デジタル普及促進のために、受信機(コンバータ・ボックス)購入の補助金は30億ドルを出すことも決定した。この補助金制度は、地上デジタル放送の普及促進に大きな影響を与えると思われる。

なお、アナログ放送の停波については、2009年停波に向けて検討が進んでいる。

欧州地域においては、1997年に全世界に先駆け、英国で地上デジタル放送が開始されて以来、各国でデジタル化が進んでおり、受信機も着実に普及してきている。アナログ放送の停波の時期については、ドイツのベルリン地区ではすでに停波され、その他の地域でも、デジタルの普及状況を見ながら2007年以降順次停波していく方向となっている。

この全世界での地上デジタル放送の開始により、従来のアナログ放送とあわせ、2つの異なる放送方式が同時に存在する状況が生まれているのが今日である。

このため、テレビなどのセット機器において両放送を受信するためには、それぞれを受信可能なチューナの搭載が必要になってきている。

<チューナモジュールの特徴>

アルプス電気は、アナログ放送と地上デジタル放送が同時に存在する昨今の市場ニーズに対応するために、既存の地上デジタル放送専用チューナ「TDEシリーズ」とアナログ放送専用チューナ「TMQシリーズ」の機能を複合化し、業界最小かつ両放送を1台で受信可能な地上デジタル・アナログ放送兼用チューナ「TDQシリーズ」を開発した。これまで、テレビやVTR/DVDレコーダにおいて、2つの放送を受信するには、地上デジタル放送用チューナとアナログ放送用チューナに加え、アンテナ信号分配器の搭載を必要とし広い搭載スペースを要していた。

しかし、本製品は1台で両放送の受信が可能でありながら、当社が長年培った独自の設計技術により業界最小サイズの容積を実現し、セット製品における省搭載スペース化により、セット製品の小型化・薄型化に貢献している。とくに、VTRから世代交代が進んでいるDVDレコーダにおいては、その薄型化が進み、チューナの高さ方向への制約も厳しくなってきている。

その要求に対応するために、本チューナは、従来の当社標準モデルである「TDEシリーズ」に比べて高さ方向で3mm低くした38mmを実現している。

また、「TDQシリーズ」の特徴は、I2C(Inter Integrated Circuit)バス経由で、RF AGC(Automatic Gain Control)のスタートポイントを自由に設定することができるため、各地域によって発生する電界強度差のセット側で制御が可能である。

さらに、当社独自の高周波回路技術によるカスタムICの採用により、広ダイナミックレンジと低フェイズノイズを実現している。また、広ダイナミックレンジにより、RF AGCの広い可変レベル設定と、低フェイズノイズの実現により、位相ノイズが少なくなり、弱電界においても美しいデジタル映像受信が可能となっている。さらに、パワーセーブモードを付加したことにより、低消費電力化を実現。二酸化炭素排出量削減につながり、環境にも配慮した設計となっている。

また、当社は車載用アナログ放送チューナにおいて、90%以上のシェアを保っている。車市場における地上デジタル放送の動向として、昨今、カーナビゲーションでの地上デジタル放送受信のニーズも高くなってきている。加え、当初は、地上デジタル放送受信機へ配布されるBマイナスCASカードは、3波兼用(BS放送/CS放送/地上デジタル放送)受信が条件であったが、昨今の規制緩和により、地上デジタル放送のみの受信でも、B-CASカードの配布が可能となり、安価な車載用の受信機の製品化の開発が進んでいる。この車載市場に対しては、アナログ放送チューナでの市場実績・経験をベースに開発した高信頼性・高性能・ダイバシティー対応チューナを提案している。

また、地上デジタル放送による新しいサービスとして、携帯電話へのワンセグメント(1セグメント・サービス。以下、ワンセグ)放送があり、携帯電話の高機能化のニーズとも合致し、本年末から来年春発売機種の目玉機能として、本ワンセグ放送受信機能の搭載機の発売が予定され、本放送も2006年4月1日開始との発表がされている。また、ワンセグ放送との共通点も多いデジタルラジオ放送も来春放送開始に向けて準備が進んでおり、当社としても、ワンセグ放送対応チューナおよび、デジタルラジオ放送へも対応した超小型チューナの開発を急ピッチで進めている。

<今後の市場動向と取り組み>

このように、放送のデジタル化により、新規製品・新規ビジネスの機会が創出されているが、2011年7月のアナログ放送の停波により受信チューナへ求められる性能・機能は激変するものと考えられ、今からその変化に対応できる製品の開発が必須である。

最後に、デジタル放送市場が今後、健全に成長していくために、アルプス電気としても、市場ニーズ、顧客ニーズに的確に応えるための技術革新の努力を継続し、最良なソリューションをセットメーカーへ提供することで、社会生活及び環境への貢献していきたい。

<前田和幸:アルプス電気(株)通信デバイス営業部>