高周波部品技術
携帯機器の設計自由度を高める超小型2.4GHzチップアンテナ技術

〔図1〕モノポールアンテナ

〔図2〕逆Fアンテナ


近年、BluetoothR・無線LANなど近距離無線通信システムの携帯機器への搭載率が高まっている。とくにBluetoothR の携帯電話への搭載率が急上昇するのに伴い、近距離無線通信が利用できる環境が整備されることで、新たなビジネスが生まれるなど、私 たちの生活も“ユキビダスネットワーク社会”へと変貌を遂げようとしている。今後も一層、近距離無線通信の利便性が高まるにつれ、さ まざまな携帯機器への搭載が必然になっていくと思われる。
 携帯機器に近距離無線通信システムを搭載する場合、アンテナはどのように構成するかは、セットを設計する上で重要な課題となる。従来のPCB上の導体パターンによるアンテナ(パターンアンテナ)や金属板を加工したアンテナ(板金アンテナ)は、機器の内部で無視できない面積を占有していまい、小型化の障害となっている。また、高品質な通信性能を実現するためには、アンテナ周辺の空間設計も相応に考慮する必要がある。これらの制約を最小限にし、携帯機器の設計自由度を高めるためにも、小型で取り扱いの容易なチップタイプのアンテナが求められている。

<超小型アンテナの設計技術>

 一般的に小型アンテナを構成する場合、モノポールアンテナや逆Fアンテナを基本とするアンテナタイプを用いる場合が多い。これらのアンテナを構成には、理論上約λ/4の長さを必要とする。2.4Ghz帯を例に取ると、λ/4≒30oとなり、小型機器に内臓搭載するような場面では相当な大きな形状となってしまう。
 ここで、単純にアンテナを小型化する(電気的体積を小さくする)と、アンテナは一般的に式1に表される関係が成り立つので、アンテナ効率または帯域幅どちらか、あるいは両方が犠牲となってしまう。

〔式1〕

したがって、アンテナの小型化に関しては、アンテナ効率や帯域幅のが大きく劣化しないように設計することが重要となる。
 とくに、アンテナの小型化に関しては、誘導体セラミックスなどを用いて行う場合が多いが、これは誘導体の誘電率による波長短縮効果を期待したものである。この手法は逆Fアンテナでは有効であるが、モノポールアンテナでは、誘電率による波長短縮効果がほとんど見られず、有効な方法とはならない。
波長短縮効果を用いて逆Fアンテナを小型化にしようとする場合、誘電体材料の誘電率とQ値によってアンテナの性能が決まる。Q値に関してはある程度(Q=200)の値があれば、2.4GHz帯で大きな損失とはならないが、その値を下回ってしまうと、エネルギー損失となり、アンテナ効率が劣化してしまう。また、誘電率に関しては、アンテナの電気体質に大きく影響するので、帯域幅や効率が損なわれないように注意し て設計する必要性もある。
 一方、上記のような誘電体の誘電率による波長短縮効果の利用以上に、アンテナを小型化する手法として、λ/4の導体線をヘリカル構造に巻き上げることで、見かけ上小さく見せる方法がある。これは、一般的にヘリカルアンテナと呼ばれ、モノポールアンテナの一種である 。
 太陽誘電では、保有している独自の巻線製造技術を使用し、損失の少ないセラミック材料の中に真円に近いヘリカル構造を構成することを実現。小型形状(2.5×1.6×1.6o)で高性能なヘリカルチップアンテナの開発に成功した。このようなアンテナの小型化、チップ化は、 携帯機器の設計上の制約を減少させる上で極めて有効なものと考えている。

<超小型アンテナの実用化技術>

 アンテナは一般的に、アンテナを構成する素子部分とグランドもアンテナの一部としての役割を果たしているといえる。
通常、このようなアンテナを使用する場合、回路基板上に実装部品のひとつとして搭載されるため、回路基板グランド部分がアンテナの一部と考える必要があるということであり、超小型アンテナの実用化に際しては、これを実装する回路基板側の構成も考慮すべきポイントと なる。
 図3〜図6に理想的な基板上にアンテナを搭載したときの測定結果を示す。

〔図3〕評価状態

〔図4〕VSWR特性

〔図5〕指向性

〔図6〕立体的指向性


また、図7に示すような形状の回路基板を見立てた実装基板を用いて、アンテナ搭載位置を変えた場合、それぞれの実装場所によってアンテ ナ効率が変わる。

〔図7〕アンテナ実装例

このように、グランドの大きさや、アンテナ素子を実装する位置によってアンテナ性能が変わることから、アンテナ実装(とくに、アンテ ナを筐体に内臓し、回路基板上に実装する場合)設計には十分な注意が必要であり、筐体設計を含めた考慮も必要であるといえる。
 太陽誘電では、このようなチップアンテナの使用上のノウハウやデータを提供することで、携帯機器の設計自由度の向上や設計時間の短 縮に貢献できると考えている。

<超小型アンテナの生産技術>

 太陽誘電のヘリカルアンテナの内部構造を図8に示す。

〔図8〕ヘリカルアンテナの構造

高周波セラミック材料と銀線のみの極めてシンプルな構造となっている。銀は高周波での損失が少なく、大気中でセラミックスと同時焼成可能な導体材料であり、ヘリカルアンテナに用いるには理想的な材料となる。銀線をコイル状とし、高周波セラミックの内部に埋め込むた めには、太陽誘電が独自に開発した巻線技術を用いている。コイル状の銀線の巻きピッチと巻き径を制御し、かつ、安定した特性を得ることが可能となる。
 銀線の巻きピッチや巻き径がばらつくと、アンテナの周波数帯がばらついてしまう。また、コイル状の銀線が中心から外れてしまうと、 実装時の方向により、基板や筐体との位置関係が変化して、アンテナ特性が変化してしまう。
 太陽誘電では、これらの要件を精密に制御できる生産設備を導入することで、バラツキを非常に小さくし、アンテナ特性を安定化させることに成功した。また、外部端子電極を含む外形形状や取り扱いの面でも、通常のチップ部品と同様に仕上げることも成功したため、携帯機器への実装も一般的な実装機で可能である。性能、形状が安定したチップアンテナが供給されることで、携帯機器における実装上の利便性が高まり、特別な設計上の配慮は不安となる。

<今後の可能性>

 ヘリカル構造のアンテナは、より低い周波数でアンテナの小型化を実現する可能性を持っている。具体的には、巻線のピッチを狭める、巻線の巻径を太くする、素子長を長くすることで低い周波数への対応が可能となる。これらの要件は、現在の生産設備の設定を変更するだけでの対応可能である。この周波数に関する生産技術の柔軟性と設計の自由度を活用することで、さまざまな無線システムに適合したアン テナを比較的容易に開発することができる。現在、1.9GHz体のPHS用アンテナ、1.5GHz帯のGPS用アンテナ、UHF帯用のアンテナなどを試作し、その実用性について検討中である。
 今後、無線通信技術が発展していく中で、アンテナは重要なキーデバイスと位置付けられる。これに対して太陽誘電では、ヘリカルアンテナの応用によって市場の要求に応え、無線通信の発展に貢献していきたい。
<岡戸広則:太陽誘電潟tェライト応用事業部>