超小型同軸コネクターの最新技術

富樫晃司:SMK(株)CS事業部設計部東京設計3課



  ◆まえがき
 移動体/無線通信市場は、十数年前からの携帯電話に加え、ユビキタス、ワイヤレス、モバイル、マルチメディアなどをキーワードに拡大しており、情報の大容量化、高速伝送化のニーズによる広帯域化や通信機器の小型、軽量、薄型化が急速に進んでいる。そのため、それらに使用される同軸コネクターにおいても広帯域化とともに小型、軽量、低背化が強く要求されている。ここでは、SMKが開発したTC―5超小型同軸コネクター(写真)を例に最新技術を紹介する。

写真
クリックしてください。
超小型同軸コネクター「TC-5」

  ◆製品概要
 TCシリーズは、通信機器内の配線用として使用される当社オリジナル形状の面実装タイプの超小型同軸コネクターであり、基板に取り付けられるレセプタクルと同軸ケーブルにアッセンブリーされるプラグで構成されている。当社では1992年にTC―1を開発以来、市場要求に応えるため、広帯域、小型、軽量、低背化に重点を置き、次々に新製品の開発、販売を行ってきた(図1参照)。
その中でTC―5シリーズは、6GHz対応の広帯域化と世界最小レベルの小型、軽量、低背化を図った最新機種である。
1)広帯域化(高周波性能)
同軸コネクターは高周波を効率よく伝送する必要があり、コネクターの他特性に加えて高周波性能が要求されている。TC―5シリーズでは、使用周波数DC〜6GHzと広帯域化に対応しており、幅広い無線通信市場用途に使用が可能である。
2)小型、軽量、低背化
通信機器の小型化に対する部品の役割は大きく、コネクターにはレセプタクルの基板占有面積、プラグの結線部長さ、プラグ・レセプタクルの嵌合時高さ等を小さくすることが要求されている。TC―5シリーズでは基板占有面積1.85mm×1.95mm(TC―4比:47%)、結線長さ2.7mm(TC―4比:68%)、嵌合高さ1.4mm(TC―4比:52%)を実現し、より高密度実装が可能となっている。また、レセプタクル重さ5mg、プラグ重さ18mgと通信機器の軽量化にも貢献している(主な仕様、組立図については、表1、図2を参照)。

  図1
クリックしてください。
  図2
クリックしてください。
  表1
クリックしてください。
TCシリーズ同軸コネクター(SMT)の歴史
TC-5シリーズ組立図
TC-5シリーズの主な仕様


  ◆設計技術
1)電気(高周波)設計
前述した通り、同軸コネクターは、高周波を効率良く、接続、伝送させる必要があり、高整合性に重点を置いて電気設計を行った。高整合を図る上では、コネクター内部はもちろんのこと、嵌合部、基板接合部、ケーブル結線部の各部の伝送線路構造が重要であり、中心―外部導体間のバランス、誘電体の高周波特性、シールド構造などに左右される。TC―5シリーズでは、他製品での蓄積技術、シミュレーション、実験結果の活用により、構造、形状、寸法、材質などを十分検討し、不整合部分、RFリークの低減を図った。その結果、図3に示すように、レセプタクル、プラグ共に実力値において、V.S.W.R 1.1(〜3GHz)、1.2(3〜6GHz)の高整合を実現できた。
2)小型、低背化設計
i)成型品の薄肉化
同軸構造の誘電体としてのインシュレーター(または、ハウジング)は樹脂でできた絶縁体であるが、この薄肉化が製品小型化のポイントの一つである。しかし、成形品を単純に薄くすることは、ショートモールド、コアピンの損傷など生産時のトラブルや全体的な強度不足、面強度不足によるソリなどの問題が生じやすい。
そこで製品に最適な樹脂選択、金型構造、ゲートの取り方、流動解析など多方面から十分に検討し、0.2mm以下の薄肉でも量産可能な形状の設計を行った。
ii)端子(ばねコンタクト)のコンパクト化
TC―5シリーズは同軸であるとともに接続部品である。そのためコンタクトの設計は重要な要素であり、安定したばね特性、接触信頼性確保ができる構造が必要である。また、小型化を進めていく場合でも機械的強度要求が従来のものとほとんど変わらないことが多く、こじり強度の確保も重要である。具体的には、製品の大きさ、仕様内で十分な接触圧・ばねスパンを確保すること、適切な変位量を設定することであり、FEM解析(有限要素法)を活用して設計を行った。その結果、コンタクトの曲げや幅・厚さなどを最小限にでき、独自のコンパクトな接触構造を実現した。
3)自動実装対応への配慮
面実装タイプのコネクターは、リフローソルダリング方式でハンダ付けを行うため、耐熱性のある材料の選定と端子の平坦度(コプラナリティ)を小さくすることが重要となってくる。具体的には、近年の無鉛ハンダの使用やスクリーン厚の薄化のため、ピーク温度260℃の耐熱性、0.1mm以下のコプラナリティの要求が一般的である。また、実装機の面では、吸着ノズルの自動切り替えやノズル形状の多様化は図られているものの、異形部品であるコネクターは製品の種類が多いため、自動実装対応への配慮の必要がある。TC―5シリーズでは、各金属端子をインサート成形することにより、基板接合部(リード部)の次工程での曲げ加工を不要にするとともにエアーリ―クを防ぎ、自動実装対応を可能にしている。
4)ケーブル結線部の設計
TC―5のプラグは、外径φ0.81mmの0.4D極細同軸ケーブル(中心導体は、AWG36相当)に結線される。主な結線方式としては、ハンダ付け、圧接、圧着などがあるが、TC―5のプラグは従来品と同様に中心、外部導体共に圧着方式を採用している。その選択理由としては次の事項がある。
i)環境問題を考慮し、鉛フリー化を図ること。
ii)組立作業性を確保すること。
iii)組立設備投資を抑えること。
iv)ケーブルの接続強度を確保すること。
v)品質安定性を図ること。
しかし、同軸ケーブルが極細であるとともに製品がかなり小さいため、設計当初から、中心導体の飛び出しやコンタクト圧着部(バレル部)の食いつき、ひび割れ(クラック)などさまざまな懸念事項があった。そのため、生産技術部門の協力も受け、従来方式に各方面から工夫を取り入れ、検討および試作を行った。その結果、今までに例のないタイプにたどりつくことができた。

図3
クリックしてください。
TC-5シリーズのVSWR特性

最新トレンド情報一覧トップページ