ハイパワースイッチングレギュレーターの開発

沖宏一:ローム(株)POWER MANAGEMENT LSI商品開発部

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  図1
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スイッチングレギュレーターBD977Xシリーズ
BD977Xシリーズのブロック図


  
 近年、カーステレオ・カーナビゲーション・テレビ・プリンター等の電子機器において高性能化が著しく進んでおり、セットでの消費電流はますます増加し続けている。
そのなかで、安定した電圧を各機能ブロックに供給するという重要な役割を果たしている部品として、レギュレーターICが存在する。今までは、コストパフォーマンス等の理由からリニアレギュレーターが使用されるケースが多かったが、セットの多機能化による負荷電流の増加により、熱設計が困難になってきた。また、世の中の小型化、薄型化の要求もあり、セットの放熱スペースが確保できなくなっており、電源ICは電力変換効率が良いスイッチングレギュレーターへ移行せざるを得ない状況となってきている。
 しかし、スイッチングレギュレーターは、高効率で熱設計が容易にできるという大きなメリットがある半面、IC周辺部品が数多く必要で実装面積が大きくなる、コストが高くなる、外付け部品の設計が難しい、また、ノイズ対策が難しいというデメリットがある。このような理由から、なかなかリニアレギュレーターからスイッチングレギュレーターへの設計変更が進まない状況となっている。
そこで、ロームはこのような問題点を解決でき、設計が簡単にできる出力POWER MOSFET(高耐圧・大電流MOSFET)内蔵タイプのスイッチングレギュレーターBD977Xシリーズを開発した(写真1、図1参照)。
このBD977Xシリーズは、大電流出力が可能であり、省エネルギー化、省スペース化、ノイズ設計の簡素化等を特徴とした高耐圧(36V以上)スイッチングレギュレーターで、幅広いセットへの対応を可能としている。以下に、このBD977Xシリーズについての詳細を説明する。


  ◆低消費電力化
・スタンバイ電流0μA
 世界中で省エネルギー化が進み、セット機器の動作時、非動作時に関係なく、ICでの無駄な電力消費は許されない状況になってきている。
従来、スイッチングレギュレーターでは起動時に動作を安定させるためにスタンバイ時でも回路を動作させておく必要があり、電流が大きく消費していた。
そこで、ロームは内蔵ソフトスタート機能と各回路の立ち上げの最適化を行ったことにより、スタンバイ時の回路電流0μA(TYP)を実現した(図2参照)。この技術により、あらゆる電気製品の省エネルギー化に貢献でき、とくにバッテリーや電池等を搭載するセットでの使用に最適なものとなっている。
・超高効率
今までの出力トランジスター内蔵タイプでは、出力にバイポーラトランジスターを使用するタイプが多く、出力を駆動するために大電流を流しておく必要があり、これにより高効率を得るのは困難であった。
今回、ロームが開発したBD977Xシリーズは出力部に、バイアス電流を必要としないMOSFETを採用することにより、高効率を実現した。これにより、従来のバイポーラトランジスタータイプと比べ約10%効率を向上させることができた(図3参照)。
このように、スタンバイ時だけでなく、動作時にも低消費電力化が図れ、あらゆる使用条件においても省エネルギー化を達成できるものとなっている。

図2
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  図3
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スタンバイ時回路電源比較
効率比較図


  ◆POWER MOS内蔵タイプで高速周波数動作を実現。
スペースメリットを拡大
 従来の高耐圧・大電流スイッチングレギュレーターでは、高速動作を実現するには、駆動電流を増加させる必要があった。しかし、この電流増加により、効率が悪化したり、ノイズが大きくなる等の懸念事項があり、高品質を維持し、高速動作させるのは困難であった。
そこでロームは、長年蓄積した回路技術と、高耐圧BiCDMOSプロセス、さらにチップレイアウト技術等の各技術を融合させることにより、高耐圧で大電流出力、さらに高速で動作することができるスイッチングレギュレーターを実現した。これにより、従来のPOWER MOS内蔵スイッチングレギュレーターに比べ、高速周波数動作ができるため、外付けのコイルやコンデンサーを大幅に縮小することが可能となった(写真2参照)。
また、ハイパワー面実装 パッケージ:HRP7小型パッケージ:SOP8にパッケージを用意しており、小型・薄型セットに最適なものとなっている(図4参照)。

写真2
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  図4
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従来構成との比較
外形寸法図


  ◆発振周波数可変でノイズ設計が容易に
 従来の出力トランジスター内蔵のスイッチングレギュレーターでは、周波数を固定したものが主流となっていた。しかし、周波数固定ではラジオやオーディオ、映像等を扱う製品の特性に影響を及ぼす可能性があり、それらを改善するためには電源部分に遮蔽板を挿入する、ボードレイアウトを分離する等の大きな変更が必要であり、お客様が多大な労力を費やすことになっていた。
そこでロームでは、周波数を広範囲(50〜500kHz)に外部設定できるようにした。これにより各製品に対し、最適な周波数を選択することが可能となり、お客様でのノイズ設計が簡単にできるようになった。
また、外部パルス同期機能を搭載しており、とくに高精度な周波数が必要なセットには、外部からパルスを印加することにより、高精度な周波数でスイッチングレギュレーターを動作させることができる(図5参照)。
さらに、スイッチングレギュレーターを多数使用する場合、この外部パルス同期機能により、複数のスイッチングレギュレーターを同じ周波数で動作させることが可能であり、ノイズ等を軽減することが可能となっている。

図5
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外部周期機能タイミングチャート


  ◆電源仕様に合わせて選べる過電流保護回路
 BD977Xシリーズでは2種類の過電流保護方法があり、電源仕様に合わせて最適なものを選択可能である。
1)自己復帰型(図6参照)
出力Power PchMOSがONしているときに、ドレインソース間電圧(ON抵抗×負荷電流)が、IC内部で設定された基準電圧値を超えると過電流保護が動作し、その後出力がGNDにショートしても、その電流値で流れつづける方式である。この方式はバッテリーに常時接続して使用する等、OFFラッチ(保護が動作するとOFF状態が継続する方式)しても復帰する信号が与えられない場合に最適なものとなっている。
2)OFFラッチ型(図7参照)
過電流保護の動作は自己復帰型と同じで、過電流保護が動作しているときに、出力電圧が低下(またはGNDにショート)していると、出力がOFFラッチする方式である。この方式は過負荷状態になると完全にOFF状態が継続するため、高信頼性が必要な製品に最適なものとなっている。
また、従来品でのOFFラッチ方式では、電源立ち上げ時にピーク電流が流れると、OFFラッチ状態のまま出力が立ち上がらないという懸念事項があったが、BD977Xシリーズでは、独自の立ち上がり時OFFラッチキャンセル機能により、電源投入時の立ち上がり不良を完全に防止している(特許出願中)。
このようにロームのBD977Xシリーズ(表1)は、あらゆるユーザニーズに対応することが可能である。今後もこのPOWER MOS内蔵スイッチングレギュレーターでは、さらなる高性能化を目指し、高効率・高周波数・同期整流・小型化といった、世の中のニーズに貢献できる製品を幅広く開発を行っていく方針である。

  図6
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  図7
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  表1
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自己復帰型過電流保護タイミングチャート
OFFラッチ型過電流保護タイミングチャート
BD977Xシリーズラインアップ

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