サージアブソーバーの技術と応用動向

今井孝一:岡谷電機産業(株)埼玉技術センターNS技術グループ
米山剛:岡谷電機産業(株)営業本部技術営業部



  ◆はじめに
 今年2004年はアテネオリンピックの開催年ということもあり、世界中の人々が五輪出場選手の活躍をリアルタイムにBS/CS放送やブロードバンドインターネット、携帯電話を使用して観戦する。このように世界各地の情報を即時に入手することを可能にするデジタル情報機器が増えてきた。その半面、これらのデジタル機器ではネットワーク化により、AC電源線、通信線、BS/CSアンテナ線などのように、雷サージの進入経路が多くなってきており、年々「雷」被害は増大している。
 一方、携帯電話、パソコン、モデム・ルーター、カーナビケーションに代表されるIT機器の多機能化・高性能化とともに製品の小型・省電力が進展している。省電力化は、IT機器に使用されるLSIやICの動作電圧の低電圧化を伴い、また、多機能化は高密度集積化へと発展していく中、ますます機器の雷サージ耐力は低下していく。
このように高度情報化社会における雷対策は非常に深刻かつ重要であり、雷サージ対策部品の高性能化・小型化のニーズは年々増す一方である
岡谷電機では、こうしたニーズをもとに長年の独自の放電技術により開発改良を進め、インパルス応答性に優れたサージアブソーバーの製品群を取り揃えている。今回はその製品群と情報通信機器における適用例を紹介する。


  ◆サージの分類
 サージ対策製品を紹介する前に、同じ意味として混同される「ノイズ」との違いについて簡単に説明する。 「サージ」とは、高電圧、高電流を伴っており、機器内部の部品を破壊してしまうほどのエネルギーを持っているものである。雷によるサージはもちろんのこと、われわれが日常茶飯事に経験する静電気もサージに分類される。
「ノイズ」とは、大気中の空間伝播や配線での導電性の電圧・電流が比較的大きくないものであり、サージとは違い機器内部の部品を破壊するには至らないが、機器やシステムの誤動作を引き起こす原因となる。
サージ対策にはガス入り放電管やバリスターなどが用いられる。一方、ノイズ対策にはノイズフィルター(LC回路)やハイパルスキャパシターなどが用いられる。
以上から、対策目的を明確にして、それぞれに適した部品を選定する必要がある。



  ◆サージアブソーバーの種類
 雷サージ対策で使用されている主な製品群は以下の4つがあげられる。
1.ガス入り放電管(GDT)
2.金属酸化物バリスター(MOV)
3.アバランシェダイオード(ABD)
4.サージ防護サイリスター(TSS)
サージ防護サイリスターは半導体PNPN構造のため応答速度は非常に速く、次世代のサージ防護素子として期待されていたが、低静電容量化が難しく、ADSLにおいては伝送特性が不十分である。
そこで、今後伝送速度がめざましく高速化していく環境下で静電容量が小さく、インパルス電流耐量の大きいガス入り放電管が再び見直されて現在では最も広く一般的に使用されている。下記に紹介する製品はいずれもガス入り放電管に属しており、情報通信機器にも多く使われて高い評価を得ている。



  ◆サージアブソーバー製品紹介
◇RA−C6シリーズ(写真1)
 《特徴》
独自の構造による放電技術によりインパルス応答性が優れた特性である。
(1)インパルス電流耐量8/20μs、2000 A
(2)静電容量1pF max.
(3)UL・CSA規格取得
◇RHCA4532シリーズ(写真2)
《特徴》
型角型の表面実装部品であり、インパルス応答性にも優れている。(1)インパルス電流耐量8/20μs、2000 A
(2)静電容量0.6pF max.
(3)リフロー/フローハンダ対応
(4)鉛フリー対応
(5)UL497B規格取得
◇R28、R38シリーズ(写真3)
《特徴》
インパルス応答性が非常に優れ、高品質、高信頼性能を有する。
(1)インパルス電流耐量8/20μs、10kA
(2)静電容量1.5pF max
(3)鉛フリー対応
(4)UL497B規格取得
【RHCA4532シリーズのインパルス吸収特性】
ITU―T規格(国際電気通信連合)におけるインパルス試験10/700μs、4kV
(図1)印加した際のRHCA4532シリーズのインパルス吸収特性を図2に示す。いずれの製品も優れたインパルス吸収性を有していることがわかる。

  写真1
クリックしてください。
  写真2
クリックしてください。
  写真3
クリックしてください。
サージアブソーバーRA-C6シリーズ
RHCA4532シリーズ
R28、R38シリーズ
  図1
クリックしてください。
  図2
クリックしてください。
インパルス試験10/700μs、4kvを印加
RHCA4532シリーズのインパルス吸収特性


  ◆情報通信機器の雷サージ対策適用例について
◇ブロードバンドネットワークでの通信機器での適用例
ブロードバンド環境も含めた通信装置の規格としてITU―T K.21(宅内通信装置での過電圧過電流に対する加入者回路の耐力)がある。
【ITU―T K.21 Enhanced  Test conditionについて】
・インパルス試験10/700μs、6kV正 負各5回
・電源誘導試験AC600V―600Ω―1.0s― 5回
・電源混触試験AC230V―10〜1000Ω― 15分
上記試験を満足する製品として、RA―C6シリーズ
RHCA―401R43U
R28、R38シリーズ
があげられる。
◇CATV、BS/CS情報機器での適用例
CATV、BS/CSアンテナでの雷サージ保護として、図3のように設置する。
適用製品としては、RAシリーズ
RHCA―201Q43U
R28シリーズ
があげられる。
これらは、薄型の機器や、表面実装する場合においてはRHCAシリーズ、屋外設置によりインパルスの耐力を上げておきたい場合はR28シリーズを推奨する。

図3
クリックしてください。
アプリケーション例


  ◆今後の課題
 市場からの要求として、すべての電子部品に共通していえることは、より小型化への流れが強まっているということである。
しかし、部品を小型化すれば加わるストレスも厳しくなり、より過酷な条件になっていくことと思われる。このような状況を考慮し、より信頼性の高いサージ対策部品を開発していくことが今後の課題となる。
インターネットや携帯電話の普及はもちろんのこと、通信機能を備えたデジタル家電などもより一層の広まりが期待されているため、高速通信に対応したサージ対策部品の需要も増えてくるものと思われる。


最新トレンド情報一覧トップページ