UWBアンテナの技術

中島日出道:太陽誘電(株)総合戦略企画室

 近年話題となっている“ユビキタスネットワーク”。そのマーケットニーズとして、“どこでもネットワーク”の実現に加え、より大きなデータの伝送があげられる。こういったニーズを実現するための技術が近距離無線通信技術であるが、その中でも近年、世界で最も注目されているのがUWB(Ultra Wideband)技術である。
UWBとは3.1〜10.6GHzといった非常に広い周波数範囲を使用し、大容量データ伝送と低消費電力を同時に実現する次世代技術で、現在IEEE802.15.3a委員会(タスクグループ)において規格化が進められている。日本においてはこの規格化に準じる形で総務省での法整備が進行中である。
 規格策定はさておき、注目を集めるUWB技術を実際のアプリケーションとして実現するためには、さまざまな技術課題もある。低消費電力で低価格の半導体の開発、MAC仕様の標準化、実際のアプリケーションレイヤーの開発、高周波・広帯域無線通信での評価手法の確立などである。中でも、この技術をモバイルアプリケーションで実現するための小型アンテナの開発は、現実のアプリケーションを意識した場合に最も重要かつ緊急の課題といえる。それは3.1〜10.6GHz という高周波で広帯域バンドに対応したアンテナを、人間が持ち運べる機器に搭載できるサイズで実現することは困難極まるものとなるためである。


  ◆小型アンテナの基本設計
 現在存在する基本的な移動体通信用のアンテナとしては、モノポールアンテナ(図1)、逆Fアンテナ(図2)
ダイポールアンテナ(図3)がおもなタイプである。しかし、これらのアンテナをUWB機器へ搭載する場合、以下の問題が考えられる。
モノポールアンテナは、グランド(GND)の形状に性能が大きく左右されることと、入出力インピーダンスの最適化のためにアンテナエレメントを立てる必要があることから小型化に向かない。逆Fアンテナは一般的に周波数帯域幅が狭いので、UWBの使用帯域とされている3.1〜10.6GHzという広帯域には対応ができない。そしてダイポールアンテナはトータル長がλ/2となるため、形状が大きくなってしまう。
そこで、「UWBのような超広帯域に対応可能で、しかも小型形状のアンテナを開発するにはどうすれば良いのか?」という疑問につきあたる。

  図1
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  図2
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  図3
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モノポールアンテナ
逆Fアンテナ
ダイポールアンテナ


  ◆高周波・広帯域アンテナ設計の考え方と現状の課題
 一般的にアンテナを設計する場合、アンテナの種類によって特定の定数値が存在し、その値は下記の式で表される。

  アンテナ定数値=アンテナ電気的体積/(帯域幅×利得×効率)

移動体通信用アンテナは、アンテナエレメントだけでアンテナとして機能するタイプではなく、“アンテナエレメント+GND”の組み合わせで初めてアンテナとして機能するものが主流である。ここでいう“アンテナ電気的体積”というのは“アンテナエレメント+GND”において、アンテナが動作する上で必要となる電気的な体積を示す。
この式が示していることは、利得や効率を変えずにUWBのように帯域幅を広げるには、アンテナ電気的体積を大きくしなければならないということである。
そのため、現在存在している超広帯域アンテナには、図4に示す自己補対アンテナの原理をベースとした、対数周期アンテナ、対数周期ダイポールアレーアンテナ、ディスコーンアンテナ、ダブルリッジホーンアンテナなど各種あるが、どれも非常に形状が大きいという欠点を有している。

図4
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自己補対アンテナの原理


  ◆小型UWBアンテナの実現
 この小型化に関する技術課題に対して太陽誘電では、インピーダンスが周波数や形状に無関係に一定であるという自己補対アンテナの原理をベースとして、当社が保有する高度なセラミック材料技術、積層プロセス技術、さらには独自の高周波設計技術を融合させることでその解決を図った。具体的には低損失セラミック材料と積層構造の採用に加え、素子形状の最適化技術を確立することで3.1〜10.6GHzという広帯域、
かつ10×8×1mmという小型形状の“UWBアンテナ”を実現した(写真1)。その特性を図5、6、表1に示した。
この中で表1に示した平均利得に対する考え方は、下記の式に基づいており、この式による理論上の最大値は
−3dBiである。
Total Average Gain=((YZ(V)+YZ(H))/2+ (XZ(V)+XZ(H))/2+(XY(V)+XY(H))/2)/3
 つまり、当社が開発したUWBアンテナは、理論上の最大値である−3dBiに非常に近い利得特性を有する優れたアンテナといえる。
ここで、アンテナ利得は図7のように定義されるが、偏波を考慮しない球状輻射を考えた場合、最大利得は理論的に0dBiniなることがわかる。
一般的に利得特性に関して、球状の指向性でかつ+利得の要求があるが、+利得にするということは、指向性をある方向に持たせなければ実現できず、実現しようとした場合は必然的に−利得になる領域が存在してくることになる。これらの特性や利得の定義については、昨年3月10日〜14日に米国のテキサス州・ダラスで開催されたIEEE802.15.3a委員会(タスクグループミーティング)において発表(提案)を行った。

  写真1
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  図5
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  図6
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UWBアンテナ
VSWR特性
群遅延特性
  表1
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  図7
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平均利得特性
利得の定義


  ◆アンテナ評価技術
 UWBアンテナのVSWR特性、利得特性測定をする際には最善の測定環境が必要である。アンテナから電波を放射した状態での測定となるため、影響をおよぼす金属や人体等が周囲に存在しない環境で測定を行う必要がある。
こういった高周波・広帯域アンテナの場合は、従来のアンテナ測定施設(写真2)に加え、UWBのような微少電波が人体や周辺環境でどのような影響を受けるかを実際に可視化しながら評価していく必要がある(写真3)。
一方、UWBを使用した無線通信において、より良好な通信性能を確保するためには、フィルターなどの高周波部品の場合と同様に、アンテナの群遅延特性が重要なパラメーターとなる。
この群遅延特性はVSWR特性測定よりもさらに顕著に周囲のさまざまな反射波に影響されるため、電波暗室内における測定が必要不可欠である。
 UWB技術を民生分野で利用するための技術はまだまだ発展段階にあり、今後の規格化や半導体技術の進展に伴って具体的なアプリケーション上での議論が進むにつれ、当然アンテナに関する技術要求も変化してこよう。
今回紹介した小型チップタイプのアンテナも、あくまでも開発段階のものであり、今後のさまざまな議論の進展によって、求められる指向性や利得、そして形態まで変化していくことは間違いない。しかしいずれにせよ、UWBにおいて、あくまでも無指向性に近い特性と、より高い利得を目指すとともに、群遅延特性を意識したさらなる改善を行いながら、できるだけ小型で使いやすいアンテナを開発していかなければならない。
UWBが近距離無線通信の切り札になるかどうかは、議論を待たなくてはならないが、高周波で広帯域を実現し、かつ小型でモバイルを意識したアンテナの開発は、近い将来の“ユビキタスネットワーク”実現に向けた必要不可欠な技術であり、最も注目すべき最新技術の一つであることは間違いない事実である。

写真2
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  写真3
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6面吸収体電波暗室
Stargateシステム

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