積層チップバリスター「VR1005シリーズ」

入沢裕 : 太陽誘電(株)技術グループML技術部


  ◆はじめに
 近年、携帯電話やデジタルカメラ、ノート型パソコンなど携帯型電子機器の普及がめざましい。また、機器の小型化、高機能化、駆動電圧の低電圧化に伴い、ESD(ElectroマイナスStaticマイナスDischarge:静電気放電)による機器の誤動作や故障への影響が増大しており、市場では電子機器をESDから保護するためのデバイスに対するニーズが急速に高まっている。  太陽誘電はこのようなニーズに対応する小型高性能なESD保護デバイスとして積層チップバリスター「VR1005シリーズ」を開発した。本稿では「VR1005シリーズ」の特徴、用途について詳しく説明する。

  ◆バリスターの電気特性
 バリスターとは、バリアブルレジスター(VariableマイナスResistor)の短縮呼称であり、素子の抵抗値が電圧により変化することに起因する造語である。図1にバリスターの電圧―電流特性を示す。 一般の抵抗体がオームの法則に従い、電圧に比例して電流が増加する直線aの挙動を示すのに対し、バリスターは曲線bのように一定電圧を境に電流が急激に増加する特性を示す。 電流が増加を始める目安となる電圧をバリスター電圧と呼び、通常はバリスター素子に電流1mA通電時の端子間電圧「V1mA」として規定する。海外のバリスターメーカーではバリスター電圧V1mAをBreakdownマイナスVoltageと呼ぶ例もある。 バリスター電圧は、ESD保護デバイスとして従来から広く用いられているツェナーダイオードの逆方向電圧に相当するものである。ツェナーダイオードの電圧―電流特性には順方向と逆方向で明確な極性があり、双方向で対称な特性を得るには2つの素子を互いに接続する必要がある。これに対してバリスターは双方向でほぼ対称な特性であり、極性を持たない電圧―電流特性を単一素子で実現している点が特徴である。
 バリスターの等価回路を図2に示す。直列に接続された2素子のツェナーダイオードとコンデンサーが並列に存在する。機器の内部でバリスターは被保護回路と並列に配置される。 平常の回路電圧下では、バリスターはコンデンサーとして機能しており、高い絶縁抵抗値を示すため、バリスターにはほとんど電流が流れない。一方、ESDなどによりバリスター電圧を超過する異常電圧が回路に印加された場合には、バリスターの抵抗値が瞬時に低下し、バリスター側にサージ電流としてバイパスされる。この結果、被保護回路への異常電圧の印加が防止され、機器を誤動作や故障から保護できる。

図1
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  図2
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バリスターの電圧-電流特性
チップバリスターの等価回路


  ◆製品構造
 積層チップバリスターVR1005シリーズは、太陽誘電がコンデンサーやインダクターで長期にわたり構築した積層技術と、バリスター用半導体セラミック材料技術の融合により生み出された。製品構造を図3に示す。酸化亜鉛を主成分とした半導体セラミックおよび内部電極から構成される素体上に、ハンダ付け性に優れるニッケル/スズメッキを施した完全鉛フリー対応の外部端子を形成する。内部電極の層間距離は各アイテムのバリスター電圧により異なるが、おおよそ十数μm〜100μm程度である。  従来の円板型バリスターに比較して大幅に小さい電極層間距離は、積層構造により可能となったものであり、現状で12〜27Vの低バリスター電圧を実現している。 バリスターの電流―電圧特性は内部電極の層間に存在する直径数μmのセラミック結晶粒子の粒界部分で発現しており、その原理はダブルショットキー障壁構造がもたらすトンネル伝導機構によるとされている。バリスターの基本的な電圧―電流特性は、粒界1つ当たりの電気特性と内部電極層間に配列される粒界の数により決定する。したがって、優れた電圧―電流特性を安定して発現させるためには、内部電極層間に均一な結晶粒子を欠陥なく配列するとともに、粒界部分の物性制御を緻密に行うことが極めて重要であり、そこにはバリスターメーカー各社のノウハウが注入されている。

図3
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製品構造


  ◆VR1005シリーズの特徴
 機器のESD保護用途には、従来ツェナーダイオードが広く用いられてきた。チップバリスターVR1005シリーズにはツェナーダイオードと比較して以下のメリットがある。
(1)特性に方向性がなく、単一素子で双方向のESD対策が可能である。
(2)ESDに対する応答性にすぐれ、実質的な保護性能が高い。
(3)耐ESD性能にすぐれ、30kV×200回印加後も特性劣化しない。
ESD自体が1ナノ秒レベルのごく短時間で急激に発生する現象であるため、特に上記(2)の応答性の良否が実機における保護性能を大きく左右する。図4にESDに対する応答性をツェナーダイオードと比較したデータを示す。試験回路の※1の個所における時間と端子間電圧の関係を
a)保護部品なし
b)ツェナーダイオード使用
c)バリスター使用の3条件で測定した。
IEC61000マイナス4マイナス2規格に規定されるHumanマイナスBodyモデルにおける接触放電レベル4(8kV)の放電条件において、保護部品なしの場合、試験回路の測定個所における端子間電圧は約5kVである。
 ツェナーダイオード使用時は放電開始から端子間電圧が降下に転じるまでに約1ナノ秒を要し、測定個所の端子間ピーク電圧はおよそ110Vである。これに対してバリスター使用時は放電開始から約0.6ナノ秒で端子間電圧が降下に転じ、測定個所の端子間ピーク電圧はおよそ80Vとなる。 この結果から、バリスター使用時にはすぐれた応答性の効果により、ESDの異常電圧をより低く制限できることが確認される。 現在ほとんどのチップバリスター材料は、主成分の酸化亜鉛にBi(ビスマス)またはPr(プラセオジウム)を添加した組成をベースに種々の微量添加物を配合して作製されている。 太陽誘電では、Pr添加系の酸化亜鉛をベースに独自の材料開発を行い、すぐれた耐ESD性能を実現している。Bi添加系の他社バリスターとの比較結果を図5に示す。 VR1005はESD試験の前後でバリスター電圧がほとんど変化しない。また、図6に示すようにESD試験後の微小電流領域を含む電圧―電流特性の変化も非常に少なく、安定した性能を継続的に発揮することが可能である。

  図4
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  図5
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  図6
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ESD応答列
ESD耐圧:V1mA変化
ESD耐圧:電圧-電流特性変化


  ◆使用例
 代表的な使用例として、携帯機器のESD対策用途におけるチップバリスター使用例を図7に示す。また、ESD保護性能の具体的な検証例として、携帯電話液晶バックライト用LEDの保護を想定した試験結果を図8に示す。 ESDシミュレーターからの印加電圧を段階的に増加させ、LEDの正方向電圧VFおよび正方向電流IFに変化が生じた時点で故障と判定する。保護部品を使用しない場合は6kVでVF、IFに変化が発生するのに対し、バリスター使用時は30kV印加後もVF、IFに変化なく、LEDはバリスターに保護されて初期の性能を維持していることがわかる。

図7
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  図8
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チップバリスター使用例
液晶バックライト用LED保護効果


  ◆アイテムラインアップ
 第1段階として、携帯機器のESD対策用途に適するバリスター電圧12Vおよび27Vからなる計3アイテムを用意した。代表的なスペックを表1に示す。 アイテム選定時には、バリスターの定格電圧が使用回路電圧以上にあることが必須である。また、静電容量は使用回路の信号周波数に応じ、波形品位に影響を与えない範囲で選択いただくのが望ましい。

表1
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VR1005シリーズのスペック


  ◆まとめ
 機器の進歩に伴い、今後ますますESD対策が重要性を増すと予想される。太陽誘電は近い将来VRシリーズのバリスター電圧および静電容量バリエーションを拡大する。併せて小型化、アレイ化を含めたラインアップ強化を順次図り、ESD保護デバイスに対するお客様のニーズに、より広く対応させていただく所存である。


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