自動車向けセンサーの技術動向

野田康彦:アルプス電気(株)コンポーネント営業部第2グループ


◆昨今の市場動向
 近年、自動車は安全性・快適性・環境性の向上のために、さまざまな部分で電子制御化が進んできている。この流れは当分継続し今後さらに増加していくものと考えられる。
 いくつか例をあげると、エンジンへの燃料供給の電子制御の高度化、盗難防止対策、メモリー機能内蔵のシート、ステアリング、ドアミラー、ヘッドライトの上下左右の動きの制御、ミニバンなどで採用が増えているスライドドアの電動化などさまざまな分野の電子制御化が行われている。
 このような状況の中、センシングデバイスに対しては、より高精度・高信頼性が求められるほか、省電力のために微小電流における信頼性も求められるようになってきている。

◆製品の開発背景
 上記の市場動向の中、アルプス電気製品の代表例としてアナログセンサーと検出スイッチについて説明する。
1)車載用アナログセンサー
 各種民生機器用可変抵抗器で培った抵抗体・接点技術をベースに各種センサーを提供している。
 シンプルなものとしては、従来のスライドボリュームと似た形状(写真1)のリニアポジションセンサーがあり、ヘッドライトの光軸(上下方向)調整をする際に、現在位置(角度)をフィードバックする。
 また、ロータリータイプ(写真2)では、カーエアコンの温風と冷風をミックスする、エアミックスドアの位置をフィードバックするものなどがある。
 さらに高精度・長寿命のものとしてはアクセルバイワイヤ用のスロットルポジションセンサー(以下、アクセルバイワイヤ用TPS)などがある。TPSはもともと、スロットルバルブの開閉量を燃料噴射を制御しているECUへフィードバックするもので、アクセルバイワイヤ用についても基本は同じだが、より高精度を要求される。これはアクセルバイワイヤの場合、アクセルペダルの動きを見るアクセルペダルセンサーの信号と車両の各種情報信号を見ながらより高精度に燃料供給量を制御し、燃費や車体制御(トラクションコントロールなど)を行うためである。
2)車載用検出スイッチ(写真3)
 従来から自動車の中では各種検出スイッチが使われてはいたが、ほとんどはモーターやランプを直接ON/OFFさせるものが多く使われていた。この場合はスイッチが扱う電流は2A以上だった。これに対し、最近では電子化に伴い、各種機構部品の動きをスイッチで拾い、CPUへ信号を送る方法に変わりつつある。この場合、電流値は10mAから100mA程度の場合が多い。さらに、今後は自動車の中での電子制御化がもっと進んでいくため、暗電流を削減するために電流値はさらに小さくなる方向にある。
 このような状況の中で、当社は先行して電子化された各種家庭用機器、産業用機器や通信機器などで採用されていた検出スイッチの技術を生かし、自動車で求められる性能に合わせ防水性を加えた製品などを開発してきている。
  写真1
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  写真2
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  写真3
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リニアポジションセンサー
ロータリーセンサー
車載用検出スイッチ

◆アナログセンサーの技術ポイント
・高信頼性 1)作動耐久性向上
・高精度  2)高精度マイクログラディエント
      3)ヒステリシス低減
1)作動耐久性向上
 長期間にわたって性能を維持し続けるためには、ポテンショメーターの心臓部である抵抗体とブラシ間の接触をいかに安定させるかということに尽きる。接触を安定させるためには、初期接触状態をいかに維持していくかが重要であり、ブラシの繰り返し摺動による摩耗粉の発生を抑えることがポイントである。
 一般的に摩耗量は下記の関係式で表される。
摩耗量=定数×摩擦計数×ブラシ接触力硬度×引張強度×伸び
 当社では上記パラメーターに優れた新しい抵抗体を開発することにより、摩耗粉が少なく、長期接触安定性に優れた製品の開発に成功し、従来比10倍以上の作動耐久性を実現した。
 抵抗体に関しては、表面粗度Rmax0.5μmという鏡面状態に近い表面粗さを実現し、摩擦係数を低減、高分子設計の取り組みから耐熱性・引っ張り強度に優れたバインダ樹脂の独自開発で引っ張り強度向上を実現、さらに最適な高度を有する物質を添加しブラシと抵抗体の高度バランスを最適化している。
2)高精度マイクログラディエント
 マイクログラディエントとは、リニアリティを微小区間で規定した規格のことである。
 高精度なマイクログラディエントを達成するためには、ブラシと抵抗体の接触面が均一であることが求められる。
 前述した、作動耐久性を向上するための抵抗体表面の平滑化に加え、添加物の粒経を最適化し、粒径を揃えることで抵抗体表面を均質化し、従来比1/4のマイクログラディエントを実現した。
3)ヒステリシス低減
 ヒステリシスとは正転/逆転時の同一位置での出力差を示す特性で、リニアリティ、マイクログラディエントと同様にヒステリシスの低減も必要不可欠である。
 当社ではピボット構造の採用および回転軸とセンサー回転体間に緩衝部材(板バネ)を介在させることにより、回転軸のセンターがずれた場合でもヒステリシスを最小化することが可能な製品構造を実現した。

◆検出スイッチの技術ポイント
 電子化が進んだ自動車に搭載される検出スイッチにおける技術ポイントとしては、微小電流での接触信頼性と使われる場所によっては防水性が求められる。また、車載用途に限られたものではないが、検出スイッチとしては、接点の切り替えタイミングの精度と移動量の長さが求められる。
1)微小電流での信頼性
 当社では今までに車載以上に電子化が進んでいた民生・通信・産業機器市場向けに各種検出スイッチを供給してきた。この中で、銀接点を用いた摺動接点で微小電流領域での接触信頼性を確保するノウハウを積み上げてきており、これを車載用途にも応用している。
 摺動接点を用いることにより、ゴミやガスの進入があっても接点自身のセルフクリーニング効果で安定した接触を確保する構造をとっている。
 とくに車載用途の場合は、振動や衝撃が加わるケースが多いので、摺動接点の中でもそれらに対して強い両面摺動接点のものを中心に投入している。
2)防水性
 車載用途で求められる防水性を確保するためにさまざまなシミュレーションやテストを行い、信頼性の高い防水性能をもった製品開発を行っている。一般的に車載用途ではIEC規格のIPマイナス67相当の防水性を求められるほか、防水性を確保するために使用するゴムの低温時の動作に留意する必要がある。
3)切り替えタイミングと移動量
 切り替えタイミングの精度を上げるためには、片面摺動接点が有利になるので一部の製品では片面摺動接点を用いている。
 移動量は接点が切り替わってからのオーバーストロークが長いと設計の際に切り替タイミングの精度とあいまって、設計がしやすくなる。この点でも同じ大きさのスイッチで比較した場合、摺動接点は接点自体の移動量を大きく設定でき、設計の自由度が大きくなる。

◆今後の市場動向と当社の取り組み
 今後も自動車においては、さらに安全性・環境性・快適性が求められてくる。安全性については危険を察知し運転者へフィードバックしたり、さらには、自動的にブレーキを作動させたりするようになる。また、視界を確保するために、夜間のライティングについても、ヘッドライトの向きをステアリングの動きに合わせて調整することのみならず、カーナビゲーションからの信号に基づき、先を読んで照射範囲を調整したり配光のパターンを調整するような機能が出て来ることも予想される。
 環境性については、従来のガソリンや軽油を燃料とする内燃機関のみならず、電動機との組み合わせや新たな燃料などの出現も実用化されている。その中で従来の燃料を使った内燃機関においても、さらに高度な制御をかけることで今まで以上に燃料消費率を改善したり排出ガスをきれいにすることも考えられている。
 快適性については、ミニバンなどで採用が増えているスライドドアやテールゲートの電動化などを搭載する車種が拡大し、新たな電動化も進むと予想される。また、各種通信機能なども取り込まれて自動車本来必要とされていた機能のほかに新たな機能が増えるが、誰でもが扱えるように簡単な操作も求められてくると予想される。
 これらを実現するめには、車室内ユビキタスのように電子制御による、高度な制御が求められ、各種センシングデバイスに対しても、より高度な精度や信頼性が求められるとともに、小型化や堅牢性なども求められてくるものと予想される。
 このような中、当社では非接触の磁気式センサーや、抵抗素子を応用した歪センサー、小型でロングストロークの防水検出スイッチなどを開発し、それらの組み合わせなどで、新たな市場の要求にこたえられるよう準備を進めている。





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