巻線タイプチップインダクターの技術

木下聡:太陽誘電(株)C/F技術部


◆はじめに
 巻線チップインダクターは、高密度実装と省電力が要求されるデジタルビデオカメラ、デジタルカメラ、MD、携帯電話などの携帯デジタル機器を中心に幅広く使用されている。
 用途としてはLSI電源ラインのデカップリング回路やDC/DCコンバーターの昇降圧コイル、入出力部のフィルターなどがある。
 このような市場において太陽誘電では、独自構造で世界最小サイズのLBシリーズ(写真1)を商品化。従来の樹脂モールドタイプのすべてをカバーできるラインアップを揃え、さらなる大電流化や機器の低背化ニーズに応えられるラインアップを展開中である。

写真1
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LBシリーズ


◆従来品とLBシリーズの構造の違い
 インダクターの特性はフェライトコアサイズに大きく影響されるため、いかにデッドスペースを小さくした構造にして、フェライトコアサイズを大きくできるかがポイントになる。従来の巻線チップインダクター(図1)は巻線したコアをリードフレームに搭載し、樹脂成型するタイプが一般的であったが、この場合、成型樹脂の占めるスペースがダウンサイジングの妨げとなっていた。
 それに対してLBシリーズ(図2)は、フェライトコアを小さくせずに小型化するために、フェライトコアに焼き付けた外部電極に巻線材を直付けした。これにより、リードフレームを使用する必要がなくなり、フェライトコア形状を100%有効利用したデッドスペースゼロの新構造で小型化と高特性を両立させている。従来の樹脂成型タイプに比較して、1ランク小さいサイズで同等以下という低直流抵抗値を実現でき、たとえばLB2016(2.0×1.6×1.6mm)であれば、樹脂成型タイプの2520(2.5×2.0×1.8mm)の同等以下の低直流抵抗値である。

図1
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  図2
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従来の巻線チップインダクター
LBシリーズの構造図


◆LB・LBCシリーズの特徴
 巻線タイプチップインダクターのニーズとしては、小型・低消費電力を追い求める機器と小型・大電流を重視する機器とに分かれる。
 一般的に低消費電力化するためには、部品の直流抵抗を抑えて消費電力を減らすことが効果的である。
 インダクターの直流抵抗を抑えるためには、使用する線材の巻数を減らすこと、または線径を太くするのが有効である。LBシリーズは、外装材にフェライト粒子を高濃度に添加することで、今まで以上のシールド効果が得られ、巻数を大幅に減らすことが可能となった結果、低直流抵抗を実現することができた。図3に従来の樹脂成型タイプ2520形状と、LB2518、LB2016、およびLB2012の直流抵抗実力値の比較を示す。また、大電流を重視する機器については、LBシリーズの約2倍の大電流に対応できるLBCシリーズを開発した。
 インダクターの定格電流は、フェライト材料の磁気飽和により制約される。そこでLBCシリーズでは、磁気飽和特性を改善したフェライト材を開発することで、大電流特性を実現している。
 図4はLB2016とLBC2016の直流重畳特性を比較したグラフで、LB2016の約2倍の特性が実現できていることがわかる。

図3
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  図4
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直流抵抗実力値
2016サイズのLBとLBCの直流重畳特性比較


◆CB・CBCシリーズの特徴
 バッテリー駆動のデジタル携帯機器に使用されているDC/DCコンバーターは、機器需要の拡大や、機器の多機能化・低消費電力化によって使用数が増加している。バッテリー駆動の機器に使用される小型チョークコイルについては、従来の大型巻線SMDインダクターと相似構造で小型化したものが一般的であるために、実装時の占有面積が大きいこと(4〜5@角程度)と、電極の大きさや位置などが標準化されていないことが問題となっていた。
 これに対して当社では、実装時の占有面積が小さいLB構造をベースにチョークコイルの開発を進めることで小型化を実現し、しかも、実装面からもチップ同様に扱えるCB・CBCシリーズを商品化した。写真2は、これまでのチョーク用SMDインダクターと、LB構造チョークコイルCBC2518タイプとの形状比較写真である。このように、CBC2518は電極形状などが標準部品と同じ構造であるために実装性が良好で、しかも、同形状ではトップクラスの定格電流となっている。CB・CBCシリーズの特徴は、チョークコイルの仕様に合わせた保証電流として、定格電流を大幅に拡大したことである。CB・CBCシリーズもLBシリーズと同様に、低直流抵抗重視で設計したCBシリーズと、大電流重視で設計したCBCシリーズからなっている。

写真2
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チョークコイルとCBC2518比較外観写真


◆アプリケーション例
 LBシリーズは1608・2012・2016・2518の4タイプ。LBC・CB・CBCシリーズは2012・2016・2518の3タイプと、どちらも豊富な品揃えを有している。従来の樹脂成型タイプと比較して、どのタイプも1サイズ小型で同等特性を実現した。製品の特性一覧を表1に示す。
 図5は具体的な使用例であるが、LB・LBCシリーズは、LSI電源ラインのデカップリング回路に最適である。低直流抵抗なので電源ラインの電圧降下が少なく、LSIへの供給電源のバラツキを小さくすることが可能である。また、従来より小型で同等の特性を有するため、基板の小型化が可能となる。
 CB・CBCシリーズはDC/DCコンバーター用途向けである。小型化するためにはコイルの小型化が必要条件だが、今までのチョークコイルは構造的な限界から電極の位置が標準化されていないため、設計時に注意をはらう必要があった。しかし、CB・CBCシリーズは小型でチップ同様の取り扱いができるために設計が容易であるなど、さまざまなメリットがある。図6は、Step―Downコンバーターで使用した例である。LSIを大電流で駆動した場合には、コイルの直流抵抗値が大きいために、今までのチョークコイル使用時に比較して若干効率が悪くなるが、待機状態のような小電流駆動では、ほとんど差がなくなる(表2・図7参照)。このように、回路の要求を理解した上で使用すれば、小型で低コストの電源設計が可能となる。

  表1
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  図5
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  図6
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新商品である巻線チップインダクターの品名と仕様
アプリケーション例
CB・CBCシリーズを使用する回路の代表例
  表2
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  図7
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電気的特性
図6の回路におけるインダクター別の変換効率


◆今後の展開
 今後の商品展開として本インダクターの要素技術を展開し、インダクターとしてのさらなる高特性化、ダウンサイジングによる低背化、また1Aレベルの大電流チョークコイルなどの応用商品を開発している。






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