世界最薄の積層型セラミックスピーカーを開発

渡部嘉幸:太陽誘電(株)技術グループC/F技術部MLSプロジェクト

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世界最薄の積層型セラミックスピーカー


 近年、デジタルスチルカメラ(以下DSC)、デジタルビデオカメラ、PDA、携帯電話などのモバイル機器における小型軽量薄型化・多機能化には著しい進化が見られる。とくにDSCの市場認知は急速に進み、DSC搭載携帯電話が登場するなど、携帯電話そのものの商品価値をも変えてしまった。さらに、2005年から地上波デジタル放送も本格化され、上述のモバイル機器とテレビ動画の融合ももはや時間の問題になってきた。
これらモバイル機器の小型化により、それを構成するデバイスや電子部品の小型化は必須となり、今後も部品メーカーへの小型化要求はさらに高まることが想像できる。
太陽誘電は大容量積層コンデンサーをコアとして、材料・積層技術などの高い基幹技術で業界をリードしてきた。そして今回、これら基幹技術を音響の世界に取り込み、世界最薄の積層型セラミックスピーカーを創造するに至った。


  ◆積層セラミックスピーカーの動作原理と特徴
 最初に積層セラミックスピーカーの動作原理と特徴について説明する。図1に圧電セラミックス(以下PZT)の基本的な動作を示した。薄板状に焼成されたPZTの上下面に銀や白金などの電極を形成し、電極間に電圧を印加すると、PZTは長手方向、厚み方向に伸縮する。この変位量はそれぞれ、Δt、Δlで示され、電圧Vと圧電定数d33、d31に依存する。
変位量のおよその目安は、100μmの板厚に150Vの電圧を加えて、厚み方向に0.1μmの変位を生じる。したがって、PZTは非常に微少な変位を制御できる電気マイナス機械変換材料であることがわかる。
 しかしながら、このままでは変位量が小さいために空気振動を発生することは難しい。そこで、図2のような変位拡大機構が過去に提案され、今日の圧電発音体の基本構造になっている。この構造はユニモルフ構造と呼ばれ、上述のPZTに金属の薄板(以下ダイアフラム)を貼付することで、長手方向の変位量を屈曲変位に変換させる。
現在、このような構造を用いたセラミック発音体は成熟化し、電子レンジなどの家電製品や、グリーティングカードの確認音などの単音の発音体として広く用いられている。
これらセラミック発音体の歴史は古く、1950年代の後半から1970年代前半にかけて多くの技術者達により、さまざまな改善や工夫が進められてきた。当時、家庭用黒電話のベルにセラミック発音体が用いられ、高音圧が要求された。セラミック発音体の音圧は屈曲振動の変位量に依存する。そこで、過去の技術者達はいかにしてその変位量を確保するかの研究を進めてきた。
 たとえば、ダイアフラムのヤング率、形状・支持方法の最適化、さらには空気抵抗の排除・有効活用など、さまざまな創意工夫が行われたが、いずれも音圧を上げるという面では本質的な改善には至っていない。自動車の開発に例えると、サスペンションの最適化やボディーの空力抵抗の低減などがそれにあたり、基本的なエンジン部分への改善があまり行われていなかったということに類似する。無論、高変位の材料にも多くの開発・改善が試みられたが、例えば磁石の世界で希土類系磁石が開発されたほどの驚異的な発明は少なく、結果として構造面での改善に頼らざるを得なかったのも事実である。そして今、セラミック発音体は熟成商品として認識されている。
一方、太陽誘電には大容量型積層セラミックコンデンサーに支えられた基幹技術「積層技術」がある。積層セラミックスピーカーはこの技術を熟成商品のセラミック発音体に付加した新商品で、今まで考えられなかったセラミックスの音質・音圧の飛躍的向上を実現することに成功した。
 式(1.1)に積層セラミックスピーカーの振動エネルギーを示した。振動エネルギーに依存して音圧も増大するため、印加電圧やPZTの直径を大きくする必要がある。しかしながら、携帯電話やPDAのように電池電源の機器に大きな印加電圧は期待できず、大きなセラミックスを取り付けるのも小型の筐体に対して得策とはいえない。したがって、(1.1)式の一般式の部分だけではモバイル機器への搭載は難しいことがわかる。太陽誘電はこの振動エネルギーの式に新技術として積層構造を付加した(式中新技術部分)。式中にあるように、振動エネルギーはセラミックスの厚みと積層枚数に依存し、薄いセラミックシートの多層化により増大する。ただし、このエネルギーはセラミックスの径方向振動の解析結果であり、実際にはこれらの径振動が屈曲振動に変わる際、(1.1)式の積層枚数nのみを増大化すると、セラミックスの厚みが増し、屈曲変位を機械的に抑制する結果になる。
積層枚数nとセラミックシートの厚みtは太陽誘電独自の積層構造の信頼性評価技術とシミュレーション技術により最適化を行っている。これら力学的な設計と材料技術・積層技術の融合、さらには新しく弊社に取り入れた振動解析、音響解析技術などの調和により、次世代積層セラミックスピーカーが生まれた。
 積層セラミックスピーカーの大きな特徴を下記にまとめた。
 1)最薄部で0.7mmの超薄型構造。
 2)0.6gの超軽量化を実現。
 3)電磁式と比較して1/5〜2/3 の低消費電力を実現。
 4)高音圧、高音質を実現。
 5)磁気レスのため、各種磁気カー  ド、磁気記録媒体への影響がない。
 6)バックキャビティの影響を受けに くい音響特性。

  図1
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  図2
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  式1.1
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圧電セラミックスの基本動作
圧電発音体の動作原理
積層型セラミックスのスピーカーの振動エネルギー


  ◆積層セラミックスピーカーの音圧特性
 太陽誘電の商品が積層構造を用いることで音圧の向上を図ってきたことは記述した。ではここで改めて本製品の音圧特性について説明する。図3―(1)〈26面参照〉に積層セラミックスピーカーと従来型単板のセラミックスピーカー(弊社品)との音圧特性差を示した。測定系は図3―(2)に示す。
明らかに積層セラミックスピーカーの音圧特性は従来のセラミックスピーカーを大きく凌駕している。これにより前述の振動エネルギーの式の妥当性は検証できた。
一方で周波数特性の凹凸は過去のセラミックスピーカーの最大のウイークポイントでもあった。そこで弊社では振動体と空気の音響インピーダンスの差に着目し、周波数特性の平坦化も同時に進めた。図3−(1)のAがその一例である。図中B、Cは太陽誘電の標準的な音響測定箱を用いて測定を行った結果であるが、Aは積層セラミックスピーカーの実装条件を最適化した場合の結果である。筐体の励振現象の制御と放音孔の最適化を行うことで、平坦な音圧特性を得ることができる。
このように、太陽誘電の新製品の積層セラミックスピーカーは、かつてダイナミックスピーカーで実現できなかった超薄型、軽量化を、そしてセラミックスピーカーで実現できなかった高音圧・高音質を兼ね備えた次世代モバイル機器用のスピーカーとなり得たのである。現在、国内外のDSC、PDA、携帯電話への採用が始まり、徐々にその認知度は高まりつつある。今後も弊社の基幹技術をベースに、よりクオリティーの高い音作りに注力する所存である。

図3-(1)
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  図3-(2)
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MLS23の単板と積層品の音圧比較
基本音圧測定系

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